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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
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第十六話 囚人たちと謎かけ

 極度の緊張状態とダメージから膝に手をやり、息を弾ませるラグスとザグン。モンスターからのドロップ品と矢を回収するディックとそれを見るロイ。ロイが声を上げる。


「これ、術式が入ってます」


 ディックの持った斧を見ながら興奮気味にいう。


「たしかこの術式……」


 何かを思い出しているのか瞳孔がやや右上に移動する。


「<緑の斬撃(クシュメディーナ)>!。風の力で切れ味を鋭くする術式です。……そうか、この武器のおかげで……」


 後半は他に聞かせるつもりがないのかもごもごというだけで聞き取れなかった。ディックが興味深そうに術式をみる。

 武器に刻まれた術式は名称が存在する場合が多い。新たに研究によって発見されたものは別だが、その場合も発見者が名づける。


「斧に<緑の斬撃>か……剣がよかったなぁ」


 一息ついたのか、ラグスが返す。それに対しザグンが


「それを言うなら<黄の殴打(ミリテオージュ)>の鎚がほしいぞ」


 自分ほしい術式刻印武器を上げる。


 術式刻印がなされた武器防具の名称は一般的に赤、青、黄、緑の名を冠している。それは四色神に由来している。一般的に四色神はそれぞれ、赤は情熱、勇気や火を、青は冷静、静穏や水を、黄は沈着、従容や土を、緑は優しさ、奔放や風を司るといわれており、それに関わる術式に名を付ける習慣となっている。

 ただし四色神は、良い面もあれば当然悪い面も存在する。赤は嫉妬、青は冷酷、土は怠惰、風は衝動をも司っている。迷宮より出土する術式刻印がなされた武器や防具は、四色神の悪い面を敢えて術式にして刻み込んでいる場合がある。このような悪い面を術式刻印したものを呪いの武器、呪いの防具と呼ぶ。

 呪いの武器や防具を誰が作成しているのかは未だ解明されていない。しかし、その技術は高度なものであり、地上で作成される術式刻印師が刻印するものよりも威力が高かったりする。

 そのため、呪いかそうではないかは別として迷宮より出土する術式刻印がなされた武器防具を研究のために術式刻印師が買い求める場合も多い。当然、迷宮探索者も貴族も王族も欲しがる。このことから当然その値段は上昇の一途を辿る。術式刻印がなされた武器や防具の現在の相場は、都市生活者の2年分の全給与と同じ程度が最低価格である。

 最低価格というのは、普通、迷宮探索者が迷宮内で取得した術式刻印武器や防具は、迷宮の近くの町に迷宮探索ギルドが開催するオークション会場があり、そこでオークションにかけられるからである。余程いい品の場合は、迷宮探索ギルドが頭金として出品価格を冒険者に支払い、オークション自体は王都などの規模の大きな場所で行われる。実際売却価格との差額がのちに迷宮探索ギルドから支払われるという風になっている。


 いくら囚人迷宮とはいえ、刻印術式武器がコイン十数枚では収まらないだろうという希望から全員の顔が明るい。冗談も飛ぶというものだ。


「どれくらいの効果なのかはわかりませんが、浅層(こんなところ)で上位(ハイ)ゴブリンが持っていたんです。酷く悪いということはないでしょう」


 一般的な迷宮であれば、上位ゴブリンは少し進んだ中階層に出現するものである。その前提でロイが補足する。


「ああ、マイナス効果もないみたいだし、いい値段になるんじゃねぇかな」


 ディックが持っている武器をしげしげと見ながらいう。

 呪いの武器や防具は、手に持った瞬間から精神異常などの効果を発揮する場合が多い。最初、術式刻印に気が付いていなかったため、不用意に持ってしまったディックがついでに確認したのである。今回は幸運だったといえる。呪いの発動によってパーティが全滅したなどの話は冒険者の間ではよくある話なのだから。

 ディックの言を受け、もしかしたら肉が口にできるかもしれないという希望も加味し、ラグスの相好が崩れる。


「いやぁ、きつかったけどラッキーだな。こんな浅い階層で手に入れられるなんて」


 全員が頷く。全員が人心地がつけ、再度、探索に戻る。しかし、それは今までとは段違いの明るさで行われた。


 しばらく探索し、漸く最後の行き止まりに到達した。十字路は碁盤の目のようになっており、その全貌は横五列、縦一五列にも及んだ。ラグスたちは術式刻印武器を手に入れた時の喜びはなく疲れた顔をしていた。ラグスたちの目の前の壁には赤と黄と緑の玉が規則的に填められ、中央部に文字が描かれていた。


「迷路の後に謎解きか」


 ザグンが壁面を見回しながら言う。

 壁面の上部には、横一列に赤の玉が二個填められ、その下に横一列で黄の玉一個と赤の玉が三個填められ、更にその下段に横一列で緑の玉一個、黄の玉一個と赤の玉一個が填められている。

 壁面上部と下部の間には神代文字で何か書かれていた。

 壁面下部には中央部分で縦に一本、蔦のような装飾があり、その左右に玉が填められている。

 玉を上から順に見ると、左側に赤の玉二個が並び、その下に玉二個分程度のスペースが空き、緑の玉が一個、そのすぐ下に赤の玉が四個が並ぶ。その下に玉一個分程度のスペースが空き、緑の玉一個、そのすぐ下に赤の玉が四個並んで填まっている。

 装飾を挟んで反対側――つまり右側――を上から順に見ると緑の玉一個、その下に赤の玉四個が並んで填まっている。玉一個分程度の間が空き、黄の玉二個と緑の玉一個が並ぶ、その下に赤の玉二個と緑の玉二個が並んで填まっている。また玉一個分程度の間が空き、黄の玉一個と緑の玉一個が並び、その下に赤の玉が七個並んで填まっていた。


「この色が四色神だとすれば青がないですね」


 ロイがまず感想を述べる。


「あと、上には蔦の装飾がなくて、下にはある。真ん中の文字は……神代文字かな」


 ちょこちょこと移動しながら、いろいろな角度で壁面を観察する。


「俺はよめないな」


「私も無理だ」


 ラグスとザグンが神代文字、神が用いたといわれる文字の前に白旗を上げる。


「“ここを始まりの地とする”。たぶん、そう書かれています」


 壁面観察を続けながら自信なさげににロイが告げる。ディックが見直したような顔でロイを見る。


「それはいいんですが、この玉の意味が……」


 ラグスが腕を組みながら、


「体を使う方が得意なんだ」


 そう自信満々に言う。逆に言えば、頭を使うのは不得意だと言っているようなものである。げんなりした様子でロイがそれを聞く。ザグンも腕組みをしながら、壁面を眺めていたため、ロイがザグンを見る。その目には不可解なものをみたかのようであった。ロイが最後の希望とばかりにディックを見るが、軽く顎でロイの方をしゃくる。お前がやれというのである。またもロイがげんなりした顔をしながら、壁面を眺める。


迷宮最初の謎解きにロイ一人で挑むのであった。

次回ロイ君頑張る!


――――――

修正したつもりが修正していなかった変な文章を修正。

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