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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
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第十三話 囚人たちと現実と(3)

ちょっと短いです。すみません。

 長剣と盾はラグスへ、短弓はディックへ、金属の棒二本と鉢金はザグンと武器防具を分配する。ラグスとザグンは新しい武器を手に馴染ませるように何度か振り、ディックは弓の張りを確かめる。


「さて、戻りますか」


 ラグスが全員を見回しながら告げる。帰りも徒歩となることから連戦であったため消耗が激しく、今日の探索はここでやめておこうという話になったのである。

 この世界には迷宮から瞬時に迷宮入口まで移動できる特殊アイテムが存在する。それは神殿において神の祝福を得る必要があるとされていて、製法に関しては部外秘となっている。囚人迷宮内では帰還用の特殊アイテムを使用した場合、迷宮の外に転送されるため販売されていない。

 全員が頷くのをみてラグスが来た道を戻り始める。特にモンスターの襲撃もなく入口あたりまで戻る。するとラグスが深いため息をつく。ザグンがラグスを見やり、それに気づいたラグスが返す。


「また、バニゼゲとルタボクにぼったくられると思うとね……」


 そう愚痴をいう。


「そういうものだと割り切るしかない。ここでもどこでも公平なんて幻想だからな」


 ザグンが前方を諦観の表情でいう。ラグスがまた盛大なため息をつく。


「……それが現実か」


「そういうことだ」


 あとは足音だけが響いていた。


 入口に戻り兵士に軽く頭を下げ、バニゼゲに話しかける。


「ヒッヒッヒッ、お帰りなさい。今日は稼げましたか? ヒッヒッヒッ」


「ああ……」


 そういってラグスたちは番号を告げ装備を渡し、その後売るためのアイテムを出す。

 バニゼゲに渡したアイテムは、長剣二本、警戒コオロギの羽一つ、下位ゴブリンの牙八本、下位ゴブリン優種の牙二本、ゴブリンの牙四本、亀犬の甲羅一つであった。


「おや、豊作じゃないですか。結構なことで……。ヒッヒッヒッ」


 バニゼゲがそういうが反応も返さず兵士から身体検査を受け中に入る。

 ルタボクの前に立ち、コイン化を要求する。


「えぇ、えぇ、今日は大漁ですねぇ。おめでとうございます」


 祝福を一切感じない調子で述べるルタボクは、アイテムを鑑定し続ける。


「ふむふむ、ほぉほぉ……。そうですねぇ、こちらの長剣が一本コイン十枚、牙と羽は全部でコイン十二枚、甲羅はコイン五枚ですかねぇ。全部でコイン三十七枚」


 奥歯をかみ締めるラグス。ラグスの肩に手を置き、ザグンが了承の意を告げる。


「では、それで……」


 ルタボクがニンマリと笑いコインを置く。ラグスがひったくるように受け取る。ザグンが再度肩を叩く。するとラグスは無言のまま、自分たちの寝床に移動する。それに追従する三人。


 自分たちの寝床にそれぞれが座ると、


「またぼったくりやがって……」


 そう一人ごちるラグス。全員に七枚づつコインを配り、九枚をパーティ資金用の小袋に入れる。


「ふむ、まぁ少ないが無いよりはマシだ。これで飯も食えるし水も飲めるしな」


 ザグンが慰めの言葉を返す。一日に黒パン一つ、水袋用の水一杯でコインが二枚飛ぶ。つまり、今回の稼ぎは何とか黒字に転換したことを示す。


「それに今回の戦いで恐らくだがレベルも上がるだろう」


 ラグスが顔を上げ、そういえばそうだといった風な表情になる。

 この世界では、レベルを上げるためには神に祈りを捧げ、神の承認を受ける必要がある。レベルとは生命としての格を表しており高くなればなるほど能力が上昇し、レベルの低いものよりも格段に生存確率があがる。


「浅層では、得られるアイテムもありきたりなものだ。レベルがあがったことで探索が容易になるし、もう少し深い階層にもいける。深い階層で探索できれば、それなりのアイテムも手に入れられるさ。悲観することもあるまい」


 そういってザグンが見回す。全員が頷く。

 レベルを上げる儀式は、通常神殿に行き執り行ってもらうのであるが、個人でやっても問題はない。手順としては地面に文様を描き、その中心で祈るだけである。

 まず、ラグスがレベル上昇の儀式を行う。ラグスの前に仄明るい光の玉が一つ、二つ、三つと増えていき、最大五つの光の玉が出現した。それがラグスの周囲を飛び回り、ラグスの中に入っていく。ラグスが文様から立ち去る。無事にレベル上昇の儀は終了した。


「うん、レベル上がったね」


 レベル上昇の儀が失敗する場合、光の玉が儀式を行ったものの前に出現しなかったり、光の玉が周囲を回るだけで体の中へ入っていかなかったりする。

 ザグンは光の玉が六個、ディックは四個、ロイは五個出現した。この光の玉は一つでどれかの能力が上昇する。上昇する能力はレベル上昇するまでに使用した――熟練度が上昇した――スキルによってある程度傾向がわかるが、完全に固定されるわけではない。

 特定の能力を確実に上昇させる術も研究はされてはいるが、教会において神の御心に反するとして公的には強硬姿勢を示しており、研究が遅々として進まず未だ解明はされていないのが実情である。

 ラグスたちは自分の能力の何が上がったのかを確認するために体を動かしたり、思考したりしている。それぞれに一喜一憂するが能力について、それぞれ話すことはない。

 一通り、試して終わり、ラグスが一度頷き、三人に言う。


「明日はもっと深く潜ろう」


 ザグンたちは大きく頷いたのであった。

ついにレベルアップを果たしたラグスたち。

これからバシバシ攻略してくれるんじゃないかな。

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