第十二話 囚人たちと現実と(2)
台詞の表現を若干修正(2013/3/3)
ラグスヘ警戒コオロギがその脚力にものをいわせて低空タックルをしかけてくる。上体をひねり左複眼に剣を突き刺す。
そのまま回転にあわせて剣を引き抜きながら優種へと向き直る。剣を持った優種と遅れて増援の無手優種が踊りかかる。ラグスは前方に構えた手を囮にするため前に出し、それを斬りつけようと袈裟斬りに剣を振るう優種。剣が到達する前に腕を引き、剣が通り抜けた瞬間、左腕を引く勢いを使って腰を捻り右手のショートソードを優種の首当たりに突き出す。それを察知した優種が回避をしようとするがラグスが多少軌道を変えたため口内から頬へ剣が突き抜ける。ラグスはショートソードを引き、力任せに優種の口の拡張を行う。口元へ手をやり後ずさる剣持優種。
それと入れ替わりに無手の優種がラグスの腰のあたりへタックルしてくる。それをサイドステップで避け、すり抜けざまに首付け根に左掌低を叩きつける。ベクトルを強制的に変更された優種は地面にタックルを決める。起き上がる前に、肩甲骨と背骨を間にショートソードを突き刺す。
振り返るラグス。憎悪の目を向ける剣持優種。左手で頬を抑えながら再度斬りかかる。剣にショートソードを合わせて打ち上げ、たたらを踏ませる。そのまま左足で胴体を前蹴りし、後方へ追いやる。
優種と入れ替わりに上方から飛び掛かってくる下位ゴブリン。それを避けつつ、剣を突き出すラグス。剣に吸い込まれるように下位ゴブリンが落下する。剣は胴体を突き破るが、勢いを殺せず、下位ゴブリンを抱きとめる形になる。剣持優種が突きの体制に入ったのが視界に入る。そのまま体ごとぶつかるように突進を始める優種。目には暗い愉悦が浮かぶ。不意に優種の脛の一部が衝撃をうけた石のように砕ける。驚愕の表情のまま、支えを失った優種の体が倒れる。ラグスは剣に刺さった下位ゴブリンを払いのけ、哀願の表情を浮かべる優種の顔へ剣を突き刺す。絶命。
後方をチラッとみると頷くロイ。軽く頷き、一瞬ザグンを見て、前方を見る。
犬のような相貌に亀の胴体をもった亀犬と右手に長剣、左手に亀の甲羅を用い金属で縁を補強された楕円形の手盾を持った、優種より大きな体格のゴブリンが視界に入る。
「俺がほしいよ!」
手盾を見て、つい叫ぶラグス。亀犬がのっそりと移動してくる。盾持ちゴブリンは構えながらジリジリと近づいてくる。ショートソードをゴブリンに投げつけ、剣持優種が持っていた剣を拾う。その剣もショートソードであるが錆びておらず、多少斬撃効果が期待できそうであった。
長剣の間合いに入り、逆袈裟に攻撃してくるゴブリン。バックステップで避け、前方に踏み込み突く。盾で弾かれ、カウンターで突いてくるゴブリン。体勢が悪かったため脇腹の薄皮一枚分突き裂かれる。苦鳴を上げるラグス。そのまま更に一歩前にでて柄頭でゴブリンの頭を殴りつける。ゴブリンがたたらを踏む。追撃しようとすると亀犬が足に咬みつこうとするのが視界に入り距離を取る。
先ほどの打撃の影響かこめかみ近くから血を流すゴブリン。空を切る亀犬の咬撃。そこに更に金属の棒をもった下位ゴブリンが亀犬の上に躍り出る。亀犬の甲羅を踏みしだき飛び上がる下位ゴブリン。それと同時に突きを放つゴブリン。フロントステップを踏み、飛び上がった下位ゴブリンの脚を持つと同時に体をひねり、手を離す。服の腹部を切り裂かれる。ジャンプしているところに脚を持ち上げられた下位ゴブリンはラグスの左背後で顔面と地面が熱烈な邂逅。突きを回避されたゴブリンは剣を引くと同時に盾を強く押し出す。盾がラグスの左上腕に当たる。力に逆らわずそのまま後方に距離を取る。だらんと左腕を垂らしたまま、右足を強く踏み出し盾を蹴りつけるラグス。ゴブリンが後方へ下がった隙に、未だ地面との邂逅をしている下位ゴブリンの首を刎ねる。視界をゴブリンに戻すとすでに体勢を整え、さらに斬撃を加えようとしていた。その後方には二匹の下位ゴブリン。
鋭く息を吸い込み、逆袈裟に移動する剣先を避ける。それを見たゴブリンは素早く盾を構える。構えられた盾の縁をしびれた左手で無理矢理跳ね除け、空いた隙間に剣を突き出す。肩の付け根を突かれたゴブリンが剣を取り落す。
「喝!」
ザグンの喝破が聞こえるが無視。突いた剣で力任せに体から腕を切り離す。左手で右肩を抑える数歩後ろに下がるゴブリン。入れ替わりに下位ゴブリン二匹が掴み掛ってくる。脇腹に激痛が走り回避できず、両足に下位ゴブリンが掴み掛り、咬みつこうとする。
「うおおおおおおっ」
ザグンの咆哮が響くが構う余裕がない。右脚に取りついた下位ゴブリンの頭を剣の柄頭で殴るが、両太腿を噛みつかれるラグス。更に右足にある頭を何度も殴る。堅かったものが柔らかなったのを感じた瞬間、左側にディックが見えた。ディックは噛みついている下位ゴブリンの首を刎ね、すぐに見えなくなった。
頭だけになり軽くなった左脚を基点に激痛に苛まれながら右の下位ゴブリンを蹴り飛ばす。
ふと周囲になにもいないことに気が付き、亀犬の存在を探す。ザグンの方を見た瞬間、亀犬がザグンの左腿辺りに咬みつく。
「そっちに行くんじゃない!」
ラグスが叫び、体を淡く光らせる。ザグンの左腿よりいいものを見つけたかのように振り向く亀犬。ラグスは下位ゴブリンの頭がついたままの左足を一歩踏み出すが、激痛に力が入らずそのまま前のめりに倒れる。亀犬がのっそりとラグスに向かう。ラグスがディックとロイの方を見る。
ロイの体が数回淡く光り、腕を失いながらも盾でラグスを攻撃しようとしたゴブリンに五サンチメータル水弾を複数高速で飛ばす。いくつか盾に当たるが、そのうちの一つがゴブリンの目に直撃し、そのまま後方に倒れ伏す。それと同時にディックが、亀犬にサクスを投擲、顔面に突き刺す。
ロイがラグスとザグンに自然治癒回復を掛け終わる。壁に張り付くように腰を落としたラグスとザグン。
「いくらなんでも多すぎる……ね」
深く息を吐き出すラグス。
「罠か偶然か……」
ザグンが天井を見ながらつぶやく。
「罠にしろ、偶然にしろ、俺たちは切り抜けて生きてる。まずはそれで良しとするべきだよ」
そうラグスが返す。天井から地面に視線を落としたザグンが、
「…………そうだな」
そういって軽く息を吐き、
「このようなことで死んでいられんからな」
そう明るめの声で言葉を継ぐ。全員が頷く。
ディックが落ちたアイテムを回収し、ラグスたちの近くに持ってくる。そこには金属の棒二本、長剣三本、短弓一張、矢十五本、鉢金一具、亀犬の盾一枚、警戒コオロギの羽一つ、下位ゴブリンの牙八本、下位ゴブリン優種の牙二本、ゴブリンの牙四本、亀犬の甲羅一つがあった。
「大量だぞ」
そうディックが告げる。それらをみてラグスたちが目を見開き、ラグスとザグンが互いを見る。同時にそれぞれ肩を叩き、小さな苦鳴を上げながら笑い出す。
しばしの間、迷宮に笑い声が響いた。
名称:ラグス レベル:1 先天的才能:守り手
スキル:<剣術>(1:6/10)、<盾術>(1:0/10)、<気迫>(1:3/10)、<**>、
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アーツ:<剣術>:スラッシュ、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声、
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名称:ザグン レベル:1 先天的才能:怪力
スキル:<鎚術>(1:6/10)、<両手利き>(1:4/10)、<物理耐性>(1:2/10)、<戦声>(1:1/10)、
<自己治癒上昇>(1:1/10)、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>
アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃、<戦声>:ウォークライ、
<自己治癒上昇>:自己治癒上昇強化I、<物理耐性>:痛覚軽減、<**>:**
名称:ディック レベル:1 先天的才能:弓の名手
スキル:<弓術>(1:0/10)、<探査>(1:2/10)、<開錠>(1:0/10)、<罠設置解除>(1:2/10)、<危険察知>(1:1/10)、
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アーツ:<弓術>:ピアッシング、<**>:**、<**>:**、<**>:**、
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名称:ロイ レベル:1 先天的才能:魔法使役者
スキル:<魔法制御>(1:3/10)、<水属性制御>(1:5/10)、<土属性制御>(1:3/10)、
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アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<**>:**、
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