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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第一章 囚人たちの浅層攻略
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第十一話 囚人たちと現実と(1)

暴力的表現が多数存在します。苦手な方は注意してください。


台詞を若干修正(2013/3/3)

 足音だけが迷宮に響く。ラグスたちはそれぞれの仕事をこなしながら歩いていた。迷宮内での不必要な発言は極力抑えなければモンスターを呼び寄せてしまうことは常識であるが、それにしても必要最小限以下の会話しか交わしていない。それぞれがジーたちの発言、行動、動作について考えているからであった。

 二組目のパーティとの遭遇時にいた十字路で四半刻ほど議論をした。結局、手に入っている情報が少なすぎて判断することが不可能という結論に達した。その後、十字路を左折し三つの目のドアの前を通過する。議論していた際に、罠の危険性が高いかもしれないということで通路の探索を優先することとしたからである。

 ふと足音以外の音を微かに耳にしたディックが立ち停まる。横にいたロイも停まり、足音の数が減ったことに気付いたラグス、ザグンの順に停まる。

 耳が痛くなるほどの静寂の中、音が反響しながら何かが聞こえ、全員が怪訝そうな顔をする。しばらく音を聞いているとだんだんと音が大きくなってくる。それは妙に甲高く不安になるような音であった。それを認識したディックの顔が青ざめる。


警戒コオロギ(ワッチ・クリケット)の警戒音!」


 ディックが手短に警戒を呼び掛ける。その音は前方より聞こえてくる。ロイが一歩下がる。ディックがロイの腕を掴み押しとどめる。ここで下がっても逃げ切ることは難しい。障害物があろうともモンスターは追いかけてくるのだから……。警戒音が途切れる。

 

「モンスターに認識される前なら……!」


 無言の指示にロイが反論しようと声を上げた瞬間、暗闇の中から警戒コオロギが姿を現す。途絶えていた警戒音を再び発する。警戒コオロギの後ろ側から無数そしてさまざまな足音。全員の顔が青ざめる。ロイに至っては青を通り越し白くなっていた。

 姿はおぼろげであるが警戒コオロギの後ろ側に赤く反射する眼だけが無数にあった。


「クッ……戦闘準備!」


 ザグンが叫び、両の手にある棍棒を構える。ラグスはすでに癖になっているのか盾を持っていない左手を軽く前に出し半身に構え、ディックは邪魔にならないように松明を壁に立てかけながら抜剣、ロイは目を瞑り集中を始める。

 それらを待っていたのかモンスターたちは一斉に襲いかかってきた。


 まず最初に見えた警戒コオロギとその後ろにいた剣をもった下位ゴブリン優種がラグスへ。ザグンへは下位ゴブリンと武器を持った優種が襲い掛かる。


 ザグンは六十サンチメータルほどの金属の棒を持った優種をまず攻撃目標とした。袈裟に殴りかかってくる優種を右に避け壁による。左手で振り下ろした後の無防備な優種の顔を体を淡く光らせながら強撃。鎚術によるスマッシュの発動である。それを顔面に受けた優種は吹っ飛んでいき、未だ控えている敵に激突した。

 その隙に掴み掛ってきた下位ゴブリンをバックステップで避ける。下位ゴブリンがたたらを踏む。右手を体に引き寄せバックブリーカーの要領で棍棒を下位ゴブリンの後頭部へと強かに打ち付ける。壁と棍棒との距離が下位ゴブリンの頭よりも狭くなる。ヌチャッという音とともに棍棒を頭からいささか強引に引く。

 ザグンは一瞬ラグスの様子を見て、優種の死骸を乗り越えてくる下位ゴブリン二匹に注意を向ける。下位ゴブリンはほぼ同時に掴み掛ってきた。右側からの掴み掛りは棍棒による恫喝に一瞬怯ませることに成功した。しかし、左からの掴み掛られてしまった。腕にしがみつく下位ゴブリンは乱杭歯でザグンの腕に咬みつく。奥歯を噛み締め苦鳴を耐えるザグン。その瞬間後ろで待機していたディックの体が一度淡く光り、ザグンとの距離を一気につめ、咬みついている下位ゴブリンの首に剣を滑らせる。盛大な血のシャワーを吹き出す下位ゴブリン。バックステップしザグンから離れるディック。

 右側からさらに掴み掛ろうとした下位ゴブリンに未だ咬みついて離さない下位ゴブリンの頭を持ち、自分の肉ごと引き離し叩き突ける。死にゆく同胞の体を体で受け止めながら壁に激突する。

 ザグンが右手で左上腕を抑える。その瞬間、ロイの体が淡く数回明滅し、薄青いなにかがザグンに飛び、命中する。痛みがわずかに引くのを感じたザグンは心の中で感謝の意をロイに向け、一歩前へでる。敵はまだいるのである。


「俺がほしいよ!」


 ラグスが何かを吠えているが無視。

 優種よりも体格のいいゴブリン二匹がそれぞれ片手剣を持っている。それを見たザグンの眉間に激しく皺がよる。喜悦な表情で声を上げながら襲い掛かってくる。右側は剣を腰だめに構えて、左側は上段に構えている。対するザグンは先ほど咬みつかれた左手に未だもっている棍棒を右手に移す。右側から突きを放ったゴブリンを左に避け、斬撃の間合いよりも更に狭い距離まで左側のゴブリンに近づき、顔に左肘を下側から打ち付ける。額に肘を喰らったゴブリンがよろめく。ザグンは左ゴブリンに肘を打ち付け当たった反動を感じた瞬間、開いた体を利用し後方を確認。突きに失敗した右ゴブリンが、そのまま右肘を軽くあげ剣を水平にし、そのまま右後方に移動したザグンを斬りつけようとしているのを視界に入れる。体を後方に移動しながら半回転。剣を回避すると同時に右手の棍棒をよろめいている左ゴブリンの側頭部に叩き込む。

 回転した勢いのままにさらに半回転し、右ゴブリンを見ると右ゴブリンが袈裟懸けの体勢で目が大きく見開かれており、ディックがその背後に立っていた。ザグンに左手でよそへ行けの合図を送るディック。

 極度の集中から肩で息をしながら更なる敵へと向かうザグン。一歩踏み出す。瞬間、ザグンの右太腿に矢が生える。十メータル程離れた場所で嗜虐の笑みを浮かべる頭に鉢金を付けたゴブリン。右太腿の激痛に耐えながら体を何度か明滅させ、一気に矢を引き抜くザグン。ザグンの横をこぶし大の石が通り抜け、嗜虐の笑みを浮かべたゴブリンの顔がこの世から消える。

 後方を確認すると一瞬青白い顔に笑みを浮かべ、再度集中を始めるロイ。

 次の敵の攻撃まで数瞬、ザグンはラグスを確認。ラグスも死体で山を築こうとしている。敵に目を戻し、体を淡く光らせる。


「渇!」


 襲い掛かろうとした二匹の無手の下位ゴブリンが一瞬立ち止まる。その瞬間、体を低くし左足で地面を強く蹴り、下位ゴブリンの元へ行くと同時に足元に転がる棍棒を左手で拾う。


「うおおおおおおっ!」


 激痛で沸き起こる苦鳴を吠えることで押さえつける。

 右手の棍棒で左側の下位ゴブリンの左側頭部を強打、その勢いのまま左手が痛みで挙げきれないために右にいた下位ゴブリンの肩に棍棒を叩き突ける。下位ゴブリンが二匹が重なって壁に激突。右下位ゴブリンが下手な蛙のまね声を発する。左足をまた強く踏み出し、右棍棒で下位ゴブリンの頭を突く。異様な圧力が掛かりめり込む棍棒。

 それと同時に新たな敵――亀犬(タートルドック)――がいつのまにか近づきザグンの左腿辺りに咬みつく。


「そっちに行くんじゃない!」


 ラグスの叫び声が聞こえると数瞬後に亀犬がザグンの左腿から口を離した。

名称:ザグン レベル:1 先天的才能:怪力(パワー)

スキル:<鎚術>(1:6/10)、<両手利き>(1:4/10)、<物理耐性>(1:2/10)、<戦声>(1:1/10)、

     <自己治癒上昇>(1:1/10)、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃(ダブルアタック)、<戦声>:ウォークライ、

     <自己治癒上昇>:自己治癒上昇強化I、<物理耐性>:痛覚軽減、<**>:**


―――――――――――――――

まだ戦闘は続きます。

次はラグスにフォーカス。

ラグス、ディック、ロイのステータスは次回。


誤字脱字等ありましたら報告していただけるとありがたいです。


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