第十話 囚人たちとの遭遇
「なんでぇ、もう新入りが二階層にきてやがる」
囚人迷宮に収監されている囚人で現在生存が確認されている者は三十七名。その三十七名が十四組のパーティを構成している。そのうちの一組が、ラグスたちの前にいた。ラグスたちは、階段を下りてすぐにあった小部屋で小休止をしているところであった。
「まぁ一階層でやられる様なやつらじゃなかったってわけだな」
そのパーティのメンバーはそれぞれ特徴的な部分を持っていた。
スキンヘッドで後頭部から前頭部及び頬にかけてトライバル柄のようなタトゥーを入れ、かなり大柄で腰に二本の剣を下げ金属製のブレストプレートを身に着けている者、目と口の部分のみが四角く空いているマスクをして腰に何本もの短剣を下げ、革製の胴鎧を見いつけている者、右前腕に赤の主神のシンボルをタトゥーにしておりバックラーを装備、左前腕に緑の主神のシンボルをタトゥーに刺突剣のエペを手に持って、更に腰に剣を下げている者であった。
その囚人たちもラグスから少し離れたところでどっかりと腰を下ろし、黒パンを取り出していた。黒パンを千切り、壁に立てかけた松明で多少あぶり、口にする。三人が同様の行動を取った後、出発するタイミングを逸していたラグスたちに顔面タトゥーの男が話しかける。
「いいこと教えてやるよ。バッツがいるだろう? あいつは信用しちゃいけねぇ」
ザグンが続きを促すように反応した。
「あいつは情報屋気取りだが、検証なんかしちゃいねぇ。他の囚人がついた嘘まで、嘘だとわかっていてもそれと知らせずに教えてくる」
ザグンを見ながら顔面タトゥーの男が真剣な表情で伝えてくる。
「ふむ、それはありがたい情報だな。で、その対価はなんだ」
ザグンは油断なく三人を視界にいれながら問う。
「いやなに、同じ囚人迷宮の住人だ。仲良くするための挨拶さ」
目尻の位置も変えずに口角だけあげる三人。
「ふむ、私はザグン。今後とも仲良くしてもらえるとありがたい」
そういってザグンは視線だけ変えずに軽く頭を下げる。ラグスが床に置いたショートソードの持ち手の位置を確認する。それをみたマスクをした男が微妙に手の位置を変える。ロイは俯いており、ディックは上体を逸らし両手を地面につけていたが軽く起こす。
「そう言ってもらえるとこっちとしてもうれしいねぇ。俺はジーだ。そう呼ばれてる」
顔面タトゥーの男の目尻が下がる。暫く間が空く。そのタイミングでザグンが
「有用な情報をもらって感謝する。我々はもう行く」
「そうかい。まぁいろいろと気を付けな。なんてったってここは囚人迷宮だからな」
そういってジーが片手をあげ、ひらひらと揺らす。ザグンが手でラグスたちに合図を送る。全員が立ち上がり移動を始める。その間マスクの男がラグスたちの行動をなめるように、両手タトゥーの男が無表情で見ていた。
階段から降りてすぐの小部屋からは一本しか道が伸びていなかった。そこを三十メータルほど進むと、さらに直進している道と左に曲がる道の二つにわかれていた。そこでラグスたちは立ち止まる。
ディックが後方を警戒しながら、小声で問いかける。
「どう思う」
「ふむ、たぶん嘘ではないだろう」
ザグンが教えられたバッツの情報に対して感想を述べる。ラグスが反応する。
「ちょっと信じられないね」
「それは当たり前だ。嘘ではないが本当のことをいってないのかもしれんし、全部を教えてもらっているわけでもないだろう。あとジーの言葉の裏を返せば、何かしらの方法でバッツから得る情報は嘘と本当のことを分けられるのかもしれん。例えば余分なコインとかな。そういうことも考えられる」
ロイは地面に顔を向けたまま、肯定の意を返す。
「そうだと思います……」
そう発した後、顔をあげザグンを見る。
「あと問題はなぜあのタイミングで彼らがあそこに居たのかだと思います……」
サンディマヤ法によれば、最大四人の囚人が集まるまで、特定の場所に拘置される。ただし、その際には事前に打ち合わせ等ができないように別々の場所に拘置されることとなっている。また別に政治犯や思想犯に関しては特別な対応が図られる場合もある。
このような対応がなされるために、一般的に囚人たちが収監されるのは定期的なものではない。ラグスたちの前に送致されたのは四月ほど前のことである。
また、通常迷宮では五階層を攻略するごとに特殊なアイテムが得られる。それは攻略した特定階層における特定地点への瞬間移動が可能なものである。このアイテムは譲渡は可能であるが、未攻略の他人では発動されない。十三階層まで到達しているモギャたちは十階層に瞬間移動の特殊アイテムを所持していることとなる。
これらの条件から考えて、恩赦がかかっている囚人迷宮の浅層に未だ他の囚人パーティが残っている方が不可思議なのである。
「罠……か?」
ディックがロイの問題提起に反応をした。ロイが頷く。そしてザグンとラグスを見て話を続ける。
「その可能性はあると思います。罠を囚人たちが仕掛けていたと仮定すれば、罠師の存在がある程度否定され、囚人たちが僕たちを殺そうとしてきているという状況になります」
そこまでいってロイは地面に目を向ける。
「しかし、僕たちを殺すという行動になんらかの利益がなければ彼らは動かないでしょう。罠師の存在が完全否定されたわけでもないですし、前提が違うかもしれません。
ただ、彼らの装備の良さが気になります。彼らの装備はすべてきちんと整備されているようでしたし、一部ではありますが防具まで装備していました。それと三人で行動していたことも気になります。あと……」
「シッ、なにかくる」
ロイの話が終わる前にディックが注意を促しやめさせる。耳を澄ますと左側の通路から足音がだんだんと大きくなっているのがわかる。暫く足音のする方向を注視していると、松明の明かりが見えた。どうやら囚人パーティのようであった。ラグスたちが左の壁に少し移動する。その囚人パーティはラグスたちを見るわけでもなく無言で階段側へ移動していった。移動していった囚人パーティたちもラグスたちのものより格段に良い装備をしていた。
「この階層になにかあるのか……複数パーティで殺しにきているのか……けど、直接攻撃してこないところをみると……だめだ……わからない……」
去った囚人たちを見ながら、ロイのつぶやきが漏れた。
「どうやら私たちの前途は多事多難なようだな」
ザグンのつぶやきは、静かに迷宮へと消えていった。
ラグスが活躍できないシーンでした……。
あと、総合PVが6000、ユニークが1400人超えてました。総合評価も200に迫りつつあります。それもこれも皆様のおかげです。ありがとうございます。○┓ペコッ




