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ルイボスティー

作者: 竹仲法順

     *

 夏場、僕は仕事が終わって家に帰ってきたら、まずシャワーを浴びる。いつも汗だくだからだ。ゆっくりと入浴を済ませ、風呂上りにアルコールフリーのビールを飲みながら、買ってきていたお弁当を食べる。大抵タイムセール時で、三割引とか五割引ぐらいのものを一つ買ってきていた。幕の内弁当がうちの街では四百円弱ぐらいで売っているのだ。田舎だから物価が安い。疲れたときは食事を取り、眠前にホットで淹れたルイボスティーを一杯飲んでいた。そして少しだけテレビ番組を見る。DVDレコーダーに録り溜めていた番組を見るだけで無駄にダラダラと見続けることはない。日付が一つ変わる午前零時前には眠りに就き、朝になったら起き出す。眠る前のルイボスティーは格好の安眠効果があり飲むと朝まで熟睡できる。僕もさすがに明け方になると、寝汗のベトベトで目が覚めてしまうのだ。一度トイレに行き、用を足してから戻ってくる。疲れていた。連日仕事がずっと続く。街にある二流半ぐらいの規模の会社のサラリーマンとしてずっと頑張っていた。確かにずっとパソコンに向かいキーを叩くだけなら楽だ。だけど僕の場合、どうしても外回りなどに回されてしまう。ずっと、である。暑さで疲労しているのだった。別に時間が無駄などと思ったことは一度もない。今いる会社もサプリメントの販売が主体の流通企業で、規模は小さいのだが利益はちゃんと出ていた。親会社がしっかりしているから、こんな田舎でも持つのである。僕も昼間しっかりと仕事をこなしたら、帰宅してゆっくり出来ると思い、いくらか斜に構えているところもあった。もちろん、こういったことは絶対口に出来ないのだが……。

     *

「お疲れ様でした」

「お疲れー」

 社のフロアには課長の近藤が居残っている。疲れているだろうと思った。この課長もなかなかのやり手で通っていたらしい。昔からずっといるので、古参社員として社長や副社長からも目を掛けられて課長にまで出世した。近藤は黙って見ている僕に、

「おい、鷹田(たかだ)。帰っていいぞ」

 と言ってきた。一礼し、

「お先します」

 と返して歩き出す。フロアを抜けると、溜まっていた疲れが一気に吹き出てきた。僕もさすがに人間なのでいろいろとある。だけど一々細かいことを気にしていたら、大きなことが出来ない。僕もそう思ってやっていた。業務などいくらでもあるのだ。しかも会社にいると人間関係なども難しい。上下とも背広を着こなしている人間ほどきついのだ。世の中、そういった風に出来ていると思う。おそらく。これが新卒で会社に入り、サラリーマン経験三年目の人間の本音だ。二十代で分かることなど少ないだろう。現に最前線に僕たちがいても、取り仕切るのは近藤のように課長職で、管理をする人間たちだからだ。別に気にしていなかった。これが現実だと踏まえれば何でもないからである。社のあるビルを出て自宅に帰るため、バス停でバスを待ち続けた。通勤には往復ともバスを使っている。本来なら自転車でも来られるぐらいのところに住んでいるのだが、会社側が定期券などを支給していた。僕も区間内だったら、バスは乗り放題である。普段業務上歩くから心身ともに疲労しているのだった。ずっと外回りが続く。一つでも多くサプリメントを売り込むためには足で稼ぐのが一番だった。予めエクセルで作っていたリストを元手に回っている。気分が高まる分、夜の寝付きが悪くなっていたので、この夏からルイボスティーを飲み始めた。この手の健康商品はずっと使い続けるつもりでいる。自社が出すサプリメントと併用する形で。僕も二十代男性にしてはこういったものが必要となりつつある。仕方がないのだった。まだ若いにも関わらず、いろいろと出てくるのだったが……。

     *

 日々出勤前に欠かさずサプリメントを服用し、夏の昼間など肉体疲労時には食後、栄養ドリンクを飲んで、帰宅してから眠る前はルイボスティーを飲んでいる。大概体を温めた方が眠りやすいので夏場でも冷水シャワーはNGだった。健康には気を使っているのだ。人一倍、である。体調を崩したら元も子もないので。それに社内にもいるのだ。嫌なヤツが数名だが……。同僚の羽野(はの)和生(かずお)などはまさに典型例で僕とは仲が悪くて、仕事で必要なとき以外は一切口を利かない。まさに敵対する関係なのである。僕も会社に入り、大学時代までとはまるで違っているなと感じていた。学生時代は多少授業をサボったりしていたが、今は平日は通常通り出勤で、休日らしい休日もなかった。以前よりもだいぶ痩せていて、肉が落ちているのが自分でも分かる。やはり外回りが主だからだろう。脂肪分がかなりの程度、燃焼しているのが分かっていた。その分、食事はかなりいけるのだが……。暑い日ざしの中、外を歩きながら疲れを感じることは大いにあった。ずっと仕事が続く。営業というのは実に大変な仕事だ。僕もずっときつい思いをしていた。だけど開き直ることもある。近藤や更に上の人間たちは僕たち平の営業マンに対し、ノルマなどでかなりきついことを言ってくるのだが、別に構わなかった。サプリメントなどドラッグストアなどに行けばいくらでもあるのだし、僕たちが売り込むものは若干高めだ。それを飲んでくれている人がいるのは事実だった。それに僕も商品を消費者に買ってもらうことが出来なかった場合、心労でやられてしまう。そういったとき、近藤にも言っていた。「今日の売り込み件数は少なかったのですが……」と。近藤は大抵「また頑張れよ」と言ってくる。僕もそれで何とか一日を終えることが出来た。日報などを付けて近藤のパソコンにメールで送り、一言言ってフロアから出る。疲れていた。一日が終わればクタクタになる。帰宅してからが楽しみだった。食事を取りながら、軽く飲めるので。

     *

 帰りのバスに揺られながら、車内にはあまりクーラーが利いてないことを感じた。ゆっくりと自宅へ舞い戻る。食事は買っていた。いつもお弁当ばかりだ。栄養が偏っているのを感じる。いつも飲み物はミネラルウオーターかコーヒーで眠前はルイボスティーだ。日々きついのだが、眠る前のルイボスティーは体が温まって心地いい。一日があっという間に終わってしまう。疲れていた体を眠りに就かせるため、あえてルイボスティーを一杯飲む。それで気持ちがだいぶ収まった。健康には気を使っていたのだし、それぐらいのことはお手の物である。夜よく眠ることが一番だった。ずっと仕事に浸かりっぱなしだと、そういったことが大事になってくる。気を鎮めるにはベストな方法だ。幸いこの手の商品は安く手に入りやすいのだし、今の季節はダイエットをするための武器として使われている。しっかりと飲み続けながら、なるだけ安眠できるようにしていた。自宅の最寄のバス停で降りて歩き出す。外は蒸し暑くて、おそらく室内も暑いだろうと思う。そういったとき、この手のお茶はいいのだ。気持ちを落ち着ける天然の睡眠導入剤として使われていた。ずっと仕事が続くので、夜は遅くまで起きていずに眠るのが一番だ。ゆっくりと。仕事場での憂さなどは忘れてしまって、である。確かに生身の人間だから、僕もいろんなことを考えてしまうのだけれど……。

                                 (了)


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