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一度きりのリボン  作者: 矢満田太郎
第3章:名前を狩る影
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【第27話】 影の心臓が生む“名のない鼓動”

地下の最深部は、昨日よりもさらに暗く、重く沈んでいた。

黒い糸は壁から天井まで密集し、まるで地下そのものが影の体内になったかのようだった。

紬は観察ノートを胸に抱え、影の心臓が逃げ込んだ“最深層”を見つめていた。


胸の奥の「風花」という響きは確かに存在している。

だが、その輪郭はまだ薄く、影の響きが触れた場所だけがじんわりと熱を帯びていた。


蓮は紬の隣に立ち、静かに言った。

「紬……影の心臓、昨日よりも速く鼓動してる。何かが生まれようとしてる」


紬は深呼吸し、ステッキを握りしめた。

「うん。影が“新しい影”を生む前に止めなきゃ」


ルクは肩で震え、弱い光を揺らした。

「紬……影の声が聞こえるよ。すごく嫌な響きだよ」


■影の心臓の変化

影の心臓は、昨日よりも大きく膨らんでいた。

黒い鼓動が地下全体に響き、名前の粒が吸い込まれていく。


ユイが風を探るように目を閉じる。

「紬……心臓の鼓動が“二重”になってる。昨日は一つだったのに」


真白は紬の手を握り、治癒の光を揺らした。

「紬ちゃん……名前の響きが心臓に引っ張られてるよ」


ミナは心臓の周囲を見つめながら言った。

「影の原型……名前を集めて“新しい影”を生む準備をしてる。昨日よりも進んでる」


蓮は紬の肩に手を置き、静かに言った。

「紬、影は紬を核にしようとしてる。絶対に離れない」


紬は頷き、心臓の前に立った。


■影の心臓が語る声

影の心臓は紬に向かって糸を伸ばした。

昨日よりも太く、深く、重い。


影は声を持たないはずだった。

だが、その影は紬の胸の奥に直接語りかけてきた。


――名前は重い。

――重さは痛み。

――痛みは世界を壊す。

――だから私は、名前を集める。


紬は胸の奥が強く揺れた。

「影……名前を集めて何をするの?」


影は揺れ、響きを返した。


――名前を集めれば、世界は軽くなる。

――軽くなれば、痛みは消える。

――痛みのない世界が生まれる。


蓮は震える声で言った。

「紬……影は“痛みのない世界”を作ろうとしてる。でも、それは……」


紬は影を見つめ、静かに言った。

「名前が消えたら、その人は消える。痛みが消える代わりに、存在が消える」


影は揺れ、響きを返した。


――存在は痛み。

――痛みは不要。

――不要なものは、消えるべき。


紬は胸の奥が強く揺れた。

「影……あなたは世界を救おうとしてるんじゃない。世界を“空にしようとしてる”」


影は揺れ、響きを返した。


――空は美しい。

――名前のない世界は、美しい。


紬は胸の奥が冷たくなるのを感じた。


■心臓の“二重鼓動”の正体

そのとき――

影の心臓が大きく脈動した。


黒い霧が広がり、心臓の奥から“もう一つの影”が姿を現した。


「なに……これ……?」

紬は息を飲んだ。


蓮は震える声で言った。

「紬……影の心臓が“新しい影”を生み始めてる」


ユイは風を揺らしながら言った。

「この影……原型の影よりも濃い。名前の響きがほとんどない」


真白は胸を押さえ、苦しそうに言った。

「名前が……ない……影……?」


ミナは影を見つめながら言った。

「名前のない影……“無名の影”。原型の影が作ろうとしてる新しい存在だ」


紬は胸の奥が強く揺れた。

「影は……名前のない影を生み出して、世界を空にしようとしてる」


影の心臓はさらに鼓動を速めた。


――名前は不要。

――痛みは不要。

――世界は空であるべき。


新しい影がゆっくりと形を成し始める。


■無名の影の誕生

新しい影は、名前の響きを持たない。

その存在は、ただ“空白”だった。


蓮は震える声で言った。

「紬……この影、名前がないから……呼べない」


ユイは風を揺らしながら言った。

「名前がない影は、響きがない。だから……紬の結びの輪が効かないかもしれない」


真白は紬の手を握り、涙を浮かべながら言った。

「紬ちゃん……どうやって戦うの……?」


ミナは拳を握りしめ、強く言った。

「名前がない影は、名前の力で戦えない。別の方法を探さないと」


紬は胸の奥の響きを感じながら、静かに言った。

「名前がない影……呼べない影……どうすれば……?」


そのとき――

蓮が紬の手を握った。


「紬……名前がないなら、名前を“与えればいい”んじゃない?」


紬は息を飲んだ。

「名前を……与える?」


蓮は強く頷いた。

「名前は存在の証。名前を与えれば、その影は“存在”になる。

存在になれば、紬の結びの輪が届く」


ユイは風を揺らしながら言った。

「名前を与える……それなら、響きが生まれる!」


真白は涙を拭いながら言った。

「紬ちゃん……名前をつけてあげて!」


ミナは影を見つめながら言った。

「名前を与えることで、影の心臓の計画を壊せる!」


紬は胸の奥の響きを感じながら、影を見つめた。


「名前を……与える……」


■紬が選ぶ名前

紬は影の前に立ち、胸の奥の響きを感じた。

「風花」という名前の響きが強く光る。


紬は静かに言った。

「あなたに……名前を与える」


影は揺れ、黒い霧が震えた。


紬は影に向かって、名前を告げた。


「――“くう”」


影は大きく揺れた。

黒い霧が震え、影の輪郭が生まれ始める。


蓮は息を飲んだ。

「紬……名前が響いてる!」


ユイは風を揺らしながら言った。

「影に……名前が生まれた!」


真白は涙を浮かべながら言った。

「紬ちゃん……影が“存在”になったよ!」


ミナは影を見つめながら言った。

「名前を与えられた影は、もう“無名”じゃない!」


紬はステッキを握りしめ、結びの輪を描いた。


「空――!」


輪は影の中心に叩き込まれた。


影は大きく揺れ、黒い霧を撒き散らしながら崩れ落ちた。


■影の心臓が止まりかける

蓮は紬の肩を抱き、息を整えながら言った。

「紬……影の心臓、弱ってる。名前を与えたことで計画が崩れたんだ」


ユイは風を揺らしながら言った。

「影は“無名の影”を生めなくなった。心臓が止まりかけてる」


真白は紬の手を握り、震える声で言った。

「紬ちゃん……名前の響きが強くなってるよ」


ミナは遠くを見つめながら言った。

「影の原型……紬の名前の響きに負けてる」


紬は胸の奥の響きを感じながら、静かに言った。

「影の心臓を止める方法……見つけた」


蓮は紬の手を握り返し、強く頷いた。

「紬、一緒に止めよう。影の心臓を」


紬は蓮の瞳を見つめ、静かに頷いた。

「うん。絶対に」

あとがき(紬の日記)

影は“無名の影”を生もうとしていた。

名前を与えることで、影の計画を壊せた。

胸の奥が強く光った。

影の心臓は弱っている。

明日は影の心臓を完全に止める。

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