佐藤さんをデレさせたいッ!!
「やっぱり佐藤さんって可愛いよな」
体育の時間。隣のコートでバスケをしている女子達を見ながら横に居る友人、下田康二が唐突に俺に言って来た。
「成績優秀、完璧なルックスとスタイル。運動神経も抜群で、誰しもが認めるマドンナ。きっと彼氏とか居るんだろうな羨まけしからん」
「そりゃ居るだろ」
高校2年の秋。これまで彼女に告白して撃沈した男数知れず。今では、誰も近付かなくなっていた。
「でもよ透。お前は結構、佐藤さんと話してる見かけるけど?」
「あれは業務事項だよ。それに席も隣だし挨拶程度しか話してないよ」
「ほんとかー?実は付き合ってたりするんじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ?もし付き合ってたらこの高校の男共に血祭りにされてるよ今頃」
「そん時は俺もお前を血祭りにするからな」
「なんでだよ!」
…だけど、俺は知っている。
完璧少女の佐藤さんが、実はネットではデレデレだと言う事を。
『マジカル彼女』というオンラインシュミレーション恋愛ゲームがあって、俺はそこで佐藤さんと知り合っている。
気がついたのは最近だ。彼女とは、ネットで色々な話をしていて、会話の内容が佐藤さんだという事を。
マジカル彼女、マジカノはオンラインで、自分のアバターを使って色々な事が出来る。
ポイントを使って領地経営出来たり、冒険の旅に出たり、モンスターをテイム出来たり、基本何でも出来る。ポップな題名のゲームだったし、最初はプレイしないと思っていたが、俺の好きな企業が作っていたから何となくやっていたら結構ハマってしまったって感じだ。
「秋山君。これ、先生に提出しておいて」
「了解。残ってるなら手伝おうか?」
「ありがとう。でも大丈夫。後少しだから帰ってやっておくわ」
放課後。部活に行く生徒、帰宅しようとする生徒が居る中、佐藤さんが俺に話しかけて来た。
俺と佐藤さんは学級委員だから、こういう会話は日常的だ。だけど、後ろから嫉妬の視線を感じる。
「秋山ばっか佐藤さんと話して…」「アイツ、後で締める」「よし、藁人形でも買って帰るか!」
こらこら。
「雪ー!かえろ?」
「茜、ちょっと待って」
「あ、秋山君!またねー」
「さようなら青木さん」
「今度は青木茜だと…!?」「締めるだけじゃ収まらん。アイツは橋から突き落とそう」「釘もたくさん買わなきゃな」
こらこら。
佐藤さんの友達の青木茜。彼女も絶大な人気を持っており、現役のアイドルだ。
佐藤さんとは幼なじみで、家も隣同士らしい。
家につく。帰り道、男子達から追われたり絡まれたり、佐藤さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれたが何とかやり過ごして撒いてきた。というか、少し話しただけで怖いよお前ら…。
専用のヘルメットを被り、ベッドに横たわる。
最近のゲームは本当に進化したよな…ってふと思った。
愉快なBGMが聞こえて来て『マジカル彼女』とゆるカワなキャラがタイトルコールをする。
データを読み取り、ロード中と画面に出る。
前回セーブポイントは…ああそうか、ダンジョン手前で昨日は終わってたんだった。
しばらくアイテム整理やらやっていると、フレンドがオンラインになったと通知が来た。
『アッキーいまどこ?』
『ユキ、お疲れ様。今ダンジョン近くにいるよ』
『すぐ行く』
『おけ』
『アッキーお疲れ様。きいてよー今日学校で…』
『それで、また告白されたんだ?』
『なんで分かったの!?予知能力者!?』
『いや、何となく。そんな事があったんだろうなって』
アッキーとは俺のハンドルネームで、ユキは佐藤さんのハンドルネームだ。ていうかユキって。本名じゃん。俺も捻りがないから言えた事じゃないけど。
ユキは、よく現実世界の話をしてくる。最初は同じ年齢くらいかなとか思っていたんだけど、話を聞いているうちに佐藤さんじゃね!?って分かったんだっけ。
家の隣にアイドルをやっている幼なじみが居て、学校では何回も告白されて(俺が聞いた話しだと30人は居る)隣の男子が少し気になっているみたい。
なんでも、明るくて真面目で、困っている時はすぐに助けてくれて、俺のニックネームと名前が似てるらしい。
『アッキー、私どうしたらいいかな?』
『告白してみたら?』
『むりむりむり!絶対むり!』
『ユキなら大丈夫だよ』
『それも、勘?』
『勘というか絶対OKするというか…』
『?たまにアッキーは不思議な事を言うね』
『あ、ごめん』
『でもアッキーの勘はよく当たるからね…』
『じゃあ試しにデートに誘ってみたら?』
『急にそんな事言えないよぉ…向こうから誘ってくれたら行くけど…』
『きっと明日、誘われるよ』
よし。明日、勇気を出して誘ってみよ。
『予知?』
『まあそんなとこ』
この日はここで解散となり、次の日。
「おはよう佐藤さん、青木さん」
「おはよう秋山君」
「おっはー秋山君」
横に座る佐藤さんと青木さんに挨拶を交わす。
「俺には挨拶ないのか?」
「…おはよう康二」
「なんでそこでスッと挨拶出来ないんだよ!」
「なんとなく?」
「ムカつく!」
「はは。ごめんって。おはよう康二」
「おはよう透。それより昨日の…」
木曜日。放課後。
先生に用事を頼まれた俺と佐藤さんは、2人残って居残りをしていた。
黙々と作業する俺と佐藤さん。静寂を裂いたのは俺からだった。
「そう言えば佐藤さん、土曜日とか空いてないかな?」
「土曜日?えっと…特に用事は無いけれど」
「よかった。良かったらその日、映画観に行かない?チケットをねぇちゃんから貰ったんだけど行く相手が居なくてさ」
「それで、私と?」
「うん。ダメかな?」
「行く」
「ありがとう!そんじゃ、詳しい事は前日に」
「うん」
…緊張した。姉が居るのは本当だが、チケットを貰ったというのは嘘だ。何とか佐藤さんをデートに誘おうと思っていたらこんな案しか出てこなかった。
それより、OK貰えて嬉しすぎる。
『アッキー、どこいる?』
『昨日のとこだよ』
『すぐ行く』
『お疲れ様ユキ』
『きいてよきいてよ!!デートに誘われちゃった!!』
『やっぱり。俺の言った通りだったろ?』
『アッキーすごい!それよりどうしよ。なに着て行こう』
『勝負服とか?』
『そんなの持ってないよぉ…』
私服の佐藤さん…白のワンピースとか似合いそうだ。
『白のワンピースとかは?』
『それなら持ってるかも…それでいいのかな?』
『ごめん、俺もデートとかした事ないから分からないんだよね』
『そうなの?アッキー経験豊富そうなのに』
すみません。彼女出来た事ありません。
土曜日。
昨日の夜に駅前に10時集合と佐藤さんとやりとりをしていた。待ち合わせ時間の1時間前の9時に駅前に着いてしまった。ウキウキし過ぎて眠れなかったというのもあった。何せ、初デートで相手は佐藤さんだ。遅れる訳にはいかない。
待っている事15分。白のワンピースを着た、まるでオーラを纏っている様な女の子が俺の目の前に現れた。佐藤さんだった。
めちゃくちゃ可愛い。
「おはよう秋山君。待った?」
「おはよう佐藤さん。いや、今さっき来たとこ」
一度は言ってみたい台詞を言えた。
「その白いワンピース似合ってるよ。可愛い」
「そ、そう?ありがとう」
「放映まで少し時間があるから、どこか喫茶店にでも入らない?朝ごはんとか食べた?」
「いえ、準備していたら忘れちゃって」
「それは良かった。俺も食べてなくて、腹減っちゃって。行こ」
「うん」
映画までの時間を潰し、一緒に映画を観て、店を周り、その日は解散となった。
「今日はありがとう佐藤さん。また明後日、学校で」
「こちらこそ楽しかったわ。またね秋山君」
『アッキー、いまどこ?』
『今は…自分の領地にいるよ』
『すぐ行く』
『アッキー!デートめちゃくちゃ楽しかった!それに、ワンピースも褒めて貰えたし』
『良かったじゃん』
『それで映画館では…』
…なんか、さっきまで佐藤さんとデートしていたからか、このギャップの変わり様に少し戸惑う。
アッキーが俺だと打ち明けるか…?いや、今はまだ、この関係を維持したい。俺に少しは気があるのは分かる。だけど、俺は付き合いたいって思う気持ちもあるが、佐藤さんのこのデレデレっぷりを堪能したいって気持ちもある。現実世界でもデレさせたいってのはあるけど、もう少し、このままで。
月曜日。
学校に着くと周りからの視線が俺に集まる。
いつもと違う。何だ?
「おはよう佐藤さん、青木さん」
「…」
「おはよう秋山君!それより、土曜日、雪とデートしたってホント?」
「あー。なるほど。そう言うことか」
土曜日のデート。多分学校のヤツらに見られていたみたいで、それが噂になっていたのか。というか、男子の視線がヤバい。
「あいつ、とうとう俺らの女神様を…」「はは。よし、⚪︎るか!」「藁人形に写真を貼り付けて…よし、後は樹海で打ち込めば…!」
こらこら。
女子の方からは黄色い声が聞こえる。他人の恋愛話は女子達にとって格好の的なのだろう。俺より先に来ていた佐藤さんは、ずっとだんまりだった。
質問攻めできっと疲れてたんだろうな。
俺は何とか?その場をやり過ごした。
「で、どうなんだよ透。お前ら付き合ってんの?」
「もう少し優しくトスしてくれない?」
「いやー親友に隠れてコソコソしてたのにムカついたとか、そういうのじゃないんだよ?それに優しくトスしてるだろ?」
「手が痺れるほどのトスしてきて何が優しくだよ!まあ、あれだ。まだ付き合ってないよ」
「まだ!?みなさーん聞きました?まだですって!いつかは付き合うつもりですよ!」
「ちょ…!」
「ごめんごめん。透の困った顔見てみたいと思って」
「このドSめ」
「優しい男に向かって酷い言い草だな」
「お前のどこが優しいんだよ」
「秋山君、ちょっといいかな?」
「どうしたの?青木さん」
「えっと…雪の事好きなの?」
「ノーコメントで」
「…」
「嘘。好きだよ佐藤さんの事」
「やっぱり!告白しないの?」
「ノーコメントで」
「もー。そんなゆっくり構えてたら他の人にとられちゃうよ?」
「他の人?」
「うん。なんだっけ、マジ…何とかってゲームの中で知り合っている人の事も気になってるみたいで…ってなんでニヤけてるの?」
「ごめんごめん。続けて?」
「とにかく!早くしなきゃその人に取られちゃうよー」
これがニヤけずにはいられるか。
つまり、ネットの中でも現実世界でも、佐藤さんは俺の事を意識してくれてるっていう事じゃないか。
…まあでも、ここまで言われたら俺も覚悟を決めなきゃな。
「佐藤さん」
「秋山君…ど、どうしたの?」
「うん…ちょっといいかな?」
放課後。学級委員の仕事で2人居残っていた俺と佐藤さん。俺は、作業を辞めて佐藤さんに話かける。
「マジカル彼女って知ってる?」
「っ!秋山君もやってるの?」
「うん。…アッキーってハンドルネームで」
「っ!え?え?」
「毎日の様に、その中で話す人が居てさ。ユキって言うんだけど」
「っ!!!え、アッキー?」
「はい。アッキーです」
「…」
「好きです佐藤さん。俺と付き合ってください」
「っ!!!」
「…急にごめん。でも、アッキーとしても秋山としてもユキの事と佐藤雪の事が好きすぎて居ても立っても居られなくなってしまったんだ」
「本当に、アッキーなの?」
「そうだよ。…信じられない?」
「ううん。嬉しい。どっちも気になっていて、まさか同じ人だったなんて…。え、、と言うことは今までの相談も全部アッキーが乗ってくれて…え!?」
「まあそうなるよな」
「恥ずかしくて死んじゃうよ…」
「それで、返事は?」
「…はい。私で良ければお願いします」
「佐藤さんじゃなきゃ俺はダメなんだよ。これからもよろしくね」
「うん!」
告白の緊張とOKを貰った嬉しさで気が動転してしまう。
『アッキー、今どこ?』
『今は…ダンジョンの前かな』
『すぐ行く』
『アッキー!あ、秋山君!あれ?アッキー?』
『テンパり過ぎだよユキ。それとも佐藤さん?』
『ホントだ…ホントに秋山君だ』
『ごめんね。前から気付いていたけどこの関係性も面白いって思ってて』
『いいの』
『でも、今日からユキは俺の彼女だね』
『えへへ』
『リアルでもユキをデレさせる様に頑張るね』
『リアルでもデレてると思うけど?』
『もっとデレデレにさせる』
『…楽しみにしてるね』




