第五話 同じ刃
夜。
風が強い。
屋敷の壁に沿って、私は影の中を進む。
昼間見た通り。
警備は甘い。
でも。
「……いるわね」
小さく呟く。
気配。
一つじゃない。
同業。
私は足を止めた。
呼吸を落とす。
視線を上げる。
屋根の上。
影が一つ。
「気づくか」
低い声。
男。
姿を見せる。
黒い外套。
顔は半分隠れている。
でも。
雰囲気で分かる。
「仕事人ね」
「まあな」
軽く答える。
余裕。
「同じ依頼?」
私は聞く。
男は少しだけ笑った。
「いや」
首を振る。
「お前が断ったやつ」
やっぱり。
私は目を細めた。
「なら、帰りなさい」
「それは無理だ」
即答。
「金はもう受け取ってる」
ルール通り。
だから厄介。
「標的は中だ」
男が顎で屋敷を示す。
「邪魔するな」
私は動かない。
「その依頼は受けてない」
「知ってる」
「でも、やる」
それだけ。
話は終わり。
男がゆっくり立ち上がる。
「どけ」
空気が変わる。
私は剣に手をかけた。
「どかない」
短く返す。
沈黙。
風の音だけ。
次の瞬間。
動いたのは同時。
金属音。
一撃目。
重い。
速い。
私は受け流す。
「……いい腕ね」
小さく言う。
男が笑う。
「そっちもな」
軽い踏み込み。
連続。
速さで押してくる。
でも。
雑じゃない。
経験がある。
私は一歩引く。
間合いを取る。
「なんでそこまでやる」
男が言う。
剣を構えたまま。
「依頼じゃないだろ」
私は答えない。
代わりに踏み込む。
一突き。
男が弾く。
「図星か」
余裕の声。
私はもう一度。
角度を変える。
低く。
速く。
男がわずかに崩れる。
「……ちっ」
小さく舌打ち。
「めんどくせえな」
「帰ればいい」
私は言う。
「まだ間に合う」
男が笑う。
「間に合わねえよ」
踏み込む。
今度は重い一撃。
力任せ。
でも速い。
私は受ける。
腕に衝撃。
「……!」
少しだけ押される。
強い。
でも。
私は力を抜いた。
流す。
そのまま。
距離を詰める。
「なっ――」
男の懐。
近い。
一瞬。
隙。
私は剣を止めた。
喉元、数センチ。
動けば終わり。
沈黙。
風の音。
男の呼吸が乱れる。
「……殺らねえのか」
低い声。
私は答える。
「依頼じゃないから」
それだけ。
男が少しだけ目を細める。
「……変わってるな」
私は剣を引いた。
一歩下がる。
「終わりよ」
男が動かない。
しばらくして。
小さく笑った。
「……分かった」
剣を下ろす。
「今回は降りる」
そのまま背を向ける。
「だがな」
少しだけ振り返る。
「次はない」
私は頷いた。
「いいわ」
それでいい。
男は影に消えた。
静寂。
私は一度だけ息を吐いた。
まだ終わってない。
本命は中。
私は屋敷へ向かう。
中。
豪華な廊下。
灯りが揺れる。
足音を消す。
一つの部屋。
中から声。
「問題はないのか」
低い声。
太った男。
例の商会の上。
「はい……あの男も、もうすぐ消えます」
別の声。
冷たい。
私は扉を開けた。
「それは無理ね」
二人が振り向く。
驚き。
恐怖。
「だ、誰だ!」
同じ反応。
私は剣を抜く。
「依頼よ」
それだけ。
男の顔が歪む。
「金なら――」
聞かない。
一歩。
距離を詰める。
「帳簿、どこ」
男が固まる。
終わり。
私は笑わない。
「答えなさい」
震えながら指をさす。
机。
引き出し。
私は開ける。
あった。
証拠。
十分。
私はそれを懐に入れた。
「じゃあ」
振り返る。
男の目。
必死。
でも。
遅い。
一突き。
音はない。
それで終わり。
外。
夜風。
私は屋根の上に上がった。
遠くを見る。
さっきの男はいない。
「……同じ刃、ね」
小さく呟く。
似てる。
でも違う。
私は空を見た。
「選ぶかどうか」
それだけ。
また歩き出す。
王都の闇は深い。
そして。
仕事は続く。
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ドタバタ?コメディです。




