第四話 線を超える
昼。
王都の空は高い。
何事もなかったみたいに、人が行き交う。
私は通りを抜けて、あの扉の前に立った。
二度、叩く。
間を置いて、もう一度。
すぐに開く。
「入って」
中に入る。
机の上に、封書が一つ。
黒い封蝋。
いつもと同じ。
でも。
「早いわね」
女が言う。
「昨日の件、もう広まってる」
「関係ない」
私は封書を手に取った。
重い。
中身も、嫌な予感がする重さ。
封を切る。
紙を開く。
……止まる。
「……どうしたの」
女の声。
私は答えない。
視線は紙のまま。
「……これ」
小さく呟く。
「依頼じゃない」
女が眉を寄せる。
「どういうこと?」
私は紙を机に置いた。
女がそれを読む。
そして。
表情が変わる。
「……処分、ね」
短い言葉。
中身はそれだけで十分だった。
標的。
名前。
理由。
“邪魔だから”
それだけ。
証拠も、被害も、何も書いてない。
ただ。
消せ、と。
私は椅子に座らなかった。
立ったまま、言う。
「やらない」
即答。
女が顔を上げる。
「珍しいわね」
「依頼じゃない」
繰り返す。
「ただの始末」
それは違う。
私の仕事じゃない。
「でも、報酬は高い」
女が静かに言う。
机の引き出しから袋を出す。
いつもより重い音。
「前払い。倍よ」
私はそれを見もしない。
「関係ない」
短く返す。
女が少しだけため息をつく。
「……来ると思ったのよね」
「なにが」
「こういうの」
視線が合う。
少しだけ、空気が変わる。
「依頼は選ばない」
女が言う。
「それがここでのルール」
私は首を振った。
「違う」
一歩、近づく。
「私は選ぶ」
空気が止まる。
「じゃないと、ただの殺し屋になる」
それは嫌だ。
絶対に。
女が黙る。
少しの沈黙。
「……誰かやるわよ」
その言葉。
分かってる。
「そうね」
私は答えた。
「でも、私はやらない」
それだけ。
外。
風が少し強い。
私は歩きながら、紙の内容を思い出していた。
標的。
若い男。
名前も、立場も、普通。
罪は書かれていない。
ただ。
“邪魔”
それだけ。
「……気に入らない」
小さく呟く。
足が止まる。
考える。
ほんの一瞬。
でも。
結論はすぐ出る。
私は方向を変えた。
場所は簡単に見つかった。
情報は揃っている。
屋敷でも、裏通りでもない。
普通の家。
小さな庭。
人の気配。
私は扉の前に立った。
ノックする。
中から足音。
扉が開く。
男が出てくる。
若い。
驚いた顔。
「……誰ですか?」
普通の声。
普通の人間。
私は少しだけ見つめた。
嘘かどうか。
でも。
すぐ分かる。
「……あなたが標的?」
男が固まる。
「え……?」
混乱してる。
演技じゃない。
私は小さく息を吐いた。
「やっぱりね」
剣には手をかけない。
代わりに、一歩だけ中に入る。
「話、聞かせて」
男が戸惑う。
でも、逃げない。
それで十分。
部屋の中。
質素。
余計なものはない。
私は椅子に座らず、壁にもたれた。
「最近、何かした?」
男が首を振る。
「何も……普通に仕事してるだけです」
「誰かと揉めた?」
少し考えて。
「……一人だけ」
「誰」
「商会の上の人です」
出た。
私は目を細めた。
「理由は?」
「帳簿が合わなくて……指摘しました」
それだ。
私は小さく笑った。
「なるほど」
全部繋がる。
横領。
証拠を持ってる人間。
邪魔。
だから消す。
分かりやすい。
「……あなた、何者なんですか」
男が聞く。
私は少しだけ視線を上げた。
「通りすがりよ」
それだけ。
十分。
私は外套を直した。
「今日、ここ離れて」
男が驚く。
「え?」
「狙われてる」
それだけ伝える。
「信じるかは任せる」
扉に向かう。
「でも」
少しだけ振り返る。
「残るなら、覚悟して」
それだけ言って外に出た。
夜。
場所は変わる。
標的は、変わる。
私は屋敷の前に立っていた。
豪華。
無駄に。
「……こっちが本命」
小さく呟く。
屋根の上から声。
「やるのか」
弓の男。
私は頷いた。
「依頼は変わった」
男が笑う。
「いいね」
それでいい。
私は影に入る。
今夜は。
“依頼外”の仕事。
でも。
関係ない。
私は剣を抜いた。
静かに。
「これは」
一歩、踏み出す。
「私の仕事よ」
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ドタバタ?コメディです。




