第三話 選ばない依頼
雨。
細い雨が、王都を静かに濡らしていた。
石畳が鈍く光る。
人通りは少ない。
こういう日は、動きやすい。
私は外套のフードを深くかぶったまま、あの扉の前に立った。
二度、叩く。
間を置いて、もう一度。
すぐに開いた。
「早いわね」
中に入る。
香の匂い。
いつもの部屋。
「依頼?」
「ある」
女が机の上に紙を置いた。
私はそれを手に取る。
内容を読む。
そして、止まる。
「……子ども」
短く呟く。
「そう」
女の声も少し低い。
「依頼主は?」
「母親」
それだけで十分だった。
私は紙を机に戻した。
「場所」
「南区。裏通り」
「数は?」
「一人」
少ない。
でも。
重い。
私は椅子に座らず、そのまま言った。
「やる」
女がこちらを見る。
少しだけ、間。
「早いわね」
「迷う理由がない」
それだけ。
女は小さく息を吐いた。
「珍しいのよ、こういう依頼」
「そう」
「報酬も少ない」
知ってる。
紙に書いてあった。
ほとんど金にならない額。
でも。
「関係ない」
私は短く言った。
「これは金の話じゃない」
女が少しだけ笑った。
「変わらないわね」
私は答えない。
変わるつもりもない。
南区。
王都の外れ。
人の目が届かない場所。
建物は古く、道は狭い。
空気が違う。
ここは“隠す側”の場所。
私は歩きながら周りを見る。
気配。
視線。
全部拾う。
一つ。
屋根の上。
「見てるでしょ」
小さく呟く。
少し間。
「……相変わらず」
上から声。
軽い。
男。
屋根から影が降りてくる。
弓を背負った男。
「遅い」
私は言う。
「先に入ってる」
「ならいい」
それで会話は終わり。
十分。
「中、三人」
男が言う。
「一人は奥。子どももそこ」
私は頷いた。
「任せて」
男が笑う。
「外は見とく」
それでいい。
扉の前。
鍵はかかっている。
でも関係ない。
私は細い道具を取り出す。
数秒。
カチ、と音。
開く。
中は暗い。
匂いがする。
嫌な匂い。
私はゆっくりと中に入る。
足音は消す。
一歩。
二歩。
声が聞こえる。
「まだかよ」
苛立った声。
「今日中に来るって話だろ」
別の声。
「うるせえな」
三人。
位置も分かる。
私は影の中で止まる。
呼吸を整える。
一瞬。
それだけ。
動く。
最初の一人。
背後に回る。
口を押さえる。
刃を滑らせる。
音は出ない。
二人目が気づく。
遅い。
振り向く前に、喉。
三人目。
剣を抜こうとする。
でも間に合わない。
一歩で詰める。
腹に一突き。
終わり。
奥の扉。
ゆっくり開ける。
小さな影。
鎖。
震えてる。
女の子。
私は剣をしまった。
しゃがむ。
目線を合わせる。
「大丈夫」
静かに言う。
「迎えに来た」
最初は怯えてる。
当然。
でも。
少しずつ。
目がこちらを見る。
私は手を差し出した。
「帰ろう」
小さな手が、震えながら伸びる。
触れる。
それで十分。
外。
雨はまだ降っている。
弓の男が壁にもたれていた。
「早いな」
「終わった」
短く返す。
男が子どもを見る。
「無事か」
頷く。
それでいい。
「送る」
私は言った。
「依頼主のとこまで」
男が肩をすくめる。
「今日は優しいな」
私は答えない。
ただ歩き出す。
小さな家。
扉を叩く。
中から慌てた音。
開く。
女が立っている。
目が赤い。
「……!」
言葉にならない声。
私は子どもの背を軽く押した。
駆け寄る。
抱きしめる。
泣き声。
強い。
私はそれを見て、少しだけ視線を逸らした。
「……これで終わり」
小さく言う。
女が何度も頭を下げる。
「ありがとうございます……!」
私は手を軽く上げた。
「もういい」
それだけ。
長くいる場所じゃない。
私はその場を離れた。
雨の中。
一人で歩く。
音が少ない。
静か。
「三人目」
小さく呟く。
でも。
今回は少し違う。
私は空を見た。
雨が顔に当たる。
「……こういうのも、悪くない」
ほんの少しだけ。
口元が緩んだ。
すぐに消える。
また歩き出す。
王都の闇は深い。
でも。
全部が同じじゃない。
だから。
選ぶ。
選んで、裁く。
それが――
私の仕事。
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
https://ncode.syosetu.com/n8688lt/
ドタバタ?コメディです。




