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【完結】婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者を裏で裁きます  作者: 音無響一


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第一話 断罪の夜、裁きは始まる

「リリアーナ・エルヴァルト。貴様との婚約は、ここに破棄する」


ざわ、と広間が揺れた。


王城の大広間、煌びやかなシャンデリアの下で、私はただ静かに立っていた。


目の前には、元婚約者になる男。王太子アレン。

その隣には、勝ち誇った顔の女。涙ぐんだふりまでして、よくやる。


「彼女をいじめ、罪をなすりつけ、あまつさえ毒を盛った。言い逃れはできまい」


へえ。


心の中でだけ、少し笑った。


ずいぶん雑な筋書きね。


周りの貴族たちは、もう結論ありきの顔をしている。誰も私の言葉なんて聞く気はない。


だから私は、口を開かなかった。


「……弁明はないのか?」


あるわけないじゃない。


あなたたちが聞く気ないんだから。


代わりに、ほんの少しだけ視線を上げた。

王太子の目を見る。


ああ、この顔。

自分が正義だと疑ってない顔。


「……ありません」


そう答えると、広間が一瞬静まった。


泣き崩れると思ったのかしら。

それとも、必死に否定すると思った?


どっちも外れ。


「よろしい。ではリリアーナ・エルヴァルトは本日をもって――」


追放か、処刑か。どっちでもいい。


どっちにしても、もう終わってるから。


「――国外追放とする!」


宣言のあと、拍手が起きた。


軽い音。

祝いでもしてるみたいな顔。


私は顔を上げたまま、ゆっくりと周りを見渡した。


見覚えのある顔ばかり。

昔は笑って挨拶してきた連中。


今は目を逸らすか、薄く笑うか、そのどっちか。


ああ、なるほどね。


もう終わった人間って扱いか。


「衛兵」


王太子の声。


「この女を連れていけ。明朝、城外へ」


近くにいた兵が二人、こちらに歩いてくる。


鎧の音がやけに響く。


「……失礼する」


一応、言葉は丁寧。


でも手は迷わない。


腕を取られる。


強くもなく、優しくもない。

ただ仕事だからやってるだけの力。


私は抵抗しなかった。


そのまま一歩、踏み出す。


そのとき。


「……待て」


王太子が呼び止めた。


振り返る。


視線が合う。


「最後に一つ、聞いておく」


少しだけ眉を寄せている。


迷い?

いや、体裁か。


「本当に、何も言うことはないのか」


広間が静まる。


みんな、少しだけ期待してる顔。


ここで泣くか、叫ぶか、縋るか。


全部、望まれてる。


私は少しだけ考えるふりをして、口を開いた。


「そうね」


一歩、前に出る。


衛兵が一瞬だけ手を緩めた。


「一つだけ」


視線を王太子に固定する。


「殿下は」


ほんの少し、間を置く。


「ご自身がしてきたことを、すべて覚えていらっしゃる?」


空気が変わった。


わずかに、ざわつく。


王太子の顔がわずかに歪む。


「……どういう意味だ」


やっぱり、そこ引っかかるよね。


私は小さく息を吐いた。


「いいえ、なんでもないわ」


それ以上は言わない。


ここで全部言う必要はない。


「ただ、忘れないでくださいね」


軽く頭を下げる。


「人は、思っているより簡単に立場が変わりますから」


数人の貴族が顔を見合わせた。


意味を測りかねてる顔。


でも一人だけ。


王太子だけが、わずかに嫌な顔をした。


それで十分。


「連れていけ」


少し強い声。


余裕が消えてる。


私はそのまま、今度こそ背を向けた。







石の廊下。


足音が響く。


コツ、コツ、と規則正しく。


窓の外は夕暮れ。


赤い光が差し込んで、床に長い影を落としている。


「……悪かったな」


不意に、横の衛兵が呟いた。


聞こえないくらいの声。


私は少しだけ横目で見た。


若い。

多分、私とそう変わらない。


「なにが?」


「いや……その」


言葉を探している。


気まずそうな顔。


「こういうの、好きじゃねえんだ」


正直だな。


私は少しだけ笑った。


「仕事でしょう」


「……ああ」


それ以上は続かなかった。


十分。


この城、全員が腐ってるわけじゃない。


でも。


それでも回ってしまう。


だから壊す価値がある。


廊下の先、重い扉。


外へ続く道。


「ここまでだ」


腕を離される。


自由になった手首を軽く回す。


「ご苦労さま」


そう言って、そのまま外に出る。


振り返らない。


振り返る理由もない。








城門の外。


夕焼けが落ちきる直前。


冷たい風が吹く。


私は一度だけ空を見上げた。


「……やっとね」


誰もいない。


だから、声に出す。


ここから先は、私の時間。


私はゆっくりと歩き出した。


城から離れる方向へ。


でも。


頭の中では、もう別の場所を見ている。


あの部屋。


あの男。


あの顔。


「順番は守るわ」


小さく呟く。


「ちゃんと、一番最初にしてあげる」


口元が、自然に緩む。


それを隠すように、フードを深くかぶった。


夜が来る。


仕事の時間だ。





夜。


王都の灯りがひとつずつ落ちていく。


私は細い路地に入った。

昼間とは別の街。匂いも、音も、全部違う。


石壁に手をつく。

冷たい。


「遅いわよ」


奥から声。


影の中から女が一人、出てきた。

黒い外套、細い目。


「準備は?」


「終わってる。毒は回った頃」


短い会話。無駄はない。


私は頷いた。


「警備は?」


「西棟は手薄。今日は宴の後だからね、緩んでる」


いい夜だ。


私は外套の紐を結び直した。


「時間は?」


「あと少しで意識が鈍る」


「十分ね」


女が笑う。

仕事の顔。








王城裏手。


壁に沿って進む。


見張りは二人。

間隔、呼吸、視線の癖。


全部、知ってる。


一人が欠伸をした瞬間、影が動いた。


音は出ない。


次の瞬間には、二人とも壁にもたれて眠っている。


「相変わらずね」


さっきの女が小さく言う。


私は答えない。


もう気持ちは切り替わってる。







中に入る。


石の廊下。

昼間通った場所とは違う顔。


足音は消す。

呼吸も浅く。


角を曲がる。


巡回の兵。


足音三つ分の間。


すれ違う。


誰も気づかない。






部屋の前。


扉に手をかける。


中の気配。


荒い呼吸。


毒が効いてる。


私は一度だけ目を閉じた。


確認。


感情はない。

ただの仕事。


扉を押す。


軋みすら出さない。







「……っ、誰だ……!」


ベッドの上で、アレンが体を起こしかけている。


汗だく。

顔色が悪い。


でもまだ意識はある。


私はゆっくりとフードを外した。


「こんばんは、殿下」


その瞬間、時間が止まる。


「……リリアーナ……?」


声が震えてる。


さっきまでの余裕はどこにもない。


私は一歩、近づいた。


「体調、悪そうね」


「な、なぜここに……!」


手を伸ばそうとして、力が入らない。


指が震えてる。


「護衛は……!」


いないよ。


もう全部、外したから。


私は剣を抜いた。


細い音。


それだけで十分。


「安心して」


喉元に刃を当てる。


冷たい感触に、体がびくっと跳ねる。


「すぐ終わるから」


「ま、待て……!」


必死に声を出す。


「誤解だ……! あれは、あの女が……!」


聞き慣れた言い訳。


昼間と同じ顔。


でも今は、ただの弱い男。


私は少しだけ首を傾けた。


「誤解?」


「そうだ……! 私は……!」


続けようとした言葉が止まる。


剣先が、ほんの少し沈んだから。


「ねえ」


私は静かに言う。


「孤児院の子、何人だった?」


空気が凍る。


目が見開かれる。


「……な、にを……」


「売った数」


答えられない。


当然よね。


数える気もなかったんだから。


「覚えてないか」


私は小さく息を吐いた。


「じゃあ、いいわ」


刃を少し引く。


一瞬、希望がよぎる顔。


その顔、嫌い。


「こっちで数えてるから」


そのまま。


迷いなく。


一突き。


音はほとんどない。


息が止まるだけ。


体が崩れる。


それで終わり。






静寂。


私は剣を引き抜く。


血が一筋、落ちる。


それを布で拭う。


いつもの動作。


「……終わり?」


後ろから声。


私は頷いた。


「ええ」


短い返事。


感情はない。


ただ、一つだけ。


「清算完了」


それだけ。






城を出る。


夜風が頬を撫でる。


さっきより、少し軽い。


私はフードをかぶり直した。


「次、いく?」


女が隣で聞く。


私は少しだけ空を見た。


星が出てる。


「依頼があるなら」


それだけ言って、歩き出す。


王都の闇は、まだ終わらない。


だから。


断罪は終わらない。





追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜

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ドタバタ?コメディです。

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