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祝福外の花嫁

祝福から外れた花嫁

作者: サク
掲載日:2026/02/24

未来が決められる世界で、何も与えられなかった少女の話です。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

十五の春、成人の儀で、私の未来は消えた。


神殿の大広間は祝祭の熱に満ちていた。同年代の令嬢や子息たちが次々と水晶に手をかざし、歓声が上がる。


未来の結婚式の光景だ。

それが神の祝福であり、婚姻の約束であり、人生の道筋になる。


美しい庭園。隣に立つ伴侶。光に満ちた未来。

どんな人生なのか、誰と人生を歩むことになるか、皆期待に胸を膨らませていた。


私は最後に呼ばれた。


貴族の令嬢として、淑女の鑑として、どの家に嫁いでも恥ずかしくないよう今日まで生きてきた。


水晶に手を触れる。

冷たい。


光が灯るはずだった。


――灯らない。


ざわめきが止む。


透明だった水晶が、ゆっくりと黒く濁っていく。 底の見えない闇。


何も映らない。


歓声も、ため息すらない。ただ静寂だけが落ちた。


神官が低い声で告げる。


「……儀式は完了しました」


それだけだった。私に未来はなかった。



それからの出来事は早かった。


儀式後の祝宴は当然無くなった。もちろんお茶会も参加しないでくれとお断りの手紙が届く。

屋敷の使用人は視線を合わせなくなった。父は会ってくれず、母は泣いていたが、暗い未来の娘を持ったことを嘆いていただけだった。


神殿の使者が来た。

真っ暗な未来を持つ者は、神に捧げる。災厄を避けるための古い制度。


拒否権はない。

むしろ、反論はしなかった。

私はもう、誰とも結ばれないのだから。


花嫁衣装を着せられる。本来なら祝福のための装い。それを着て私は供物になる。なんという皮肉だろう。未来のない花嫁として神殿の奥、巨大な魔法陣の中央に立つ。


家族も来ない。いるのは儀式を執り行う神官だけ。

私は目を閉じた。


これで終わるのだと思った。

光が弾ける。重力が消える。世界が裏返る。


次に目を開けたとき、土の匂いがした。



草の上に倒れていた。


知らない空。知らない風。


「……生きてるな」


低い声に顔を上げる。


男が立っていた。

日に焼けた肌、無骨な服、背に剣。


ただの男だった。


「歩けるか」


「……はい」


差し出された手を取る。

硬く、温かい。


「ここは危ない。来い」


それだけで、私はついていった。



小さな木の家だった。


「食えるか」


差し出されたパンと煮込みは温かかった。


「……いただきます」


一口食べて、ようやく息が整う。

ふと、窓の外を見る。


夕暮れの空が金色に染まっていた。

見慣れた光景――のはずだった。


違和感に気づく。


山の端に沈みかけた太陽の上に、

もう一つ、小さな光の円が浮かんでいる。


同じ形の、もう一つの太陽。


――ここは、私の知る世界ではない。


不思議と、恐怖を感じることはなかった。



彼は開拓者だった。


森を切り、土地を均し、畑を作る。

村にもなっていない場所で、一人で暮らしている。


私はそこに残った。


水を汲み、火を起こし、食事を作る。

言葉は少ないが、追い出されることもない。


「助かる」


その一言で十分だった。



夕暮れ、彼が畑を見回して言った。


「明日、種を蒔く」


「水は朝のうちに運びます」


「……頼む」


 少し間があった。


明日の話をしている。私がいる前提で。

追い出される予定はない。捨てられる予定もない。


私は、ここにいていいのだ。


心がゆっくりとほどけていく。

あの世界では、未来は与えられるものだった。与えられなければ、存在する意味も失われる。


ここでは違う。


何も決まっていない。それでも明日がある。


彼は隣に立ったまま、沈む空を見ている。

同じ方を向いている。

胸の奥が、静かに熱を帯びた。


 あの世界では、誰かの隣に立つ人も決められていた。 私には、それが与えられなかった。けれど今、誰にも決められないまま並んでいる。


それでいいのだと、初めて思えた。


風が吹く。

空には、二つの太陽が並んで沈んでいく。


それでも。

明日もここで生きていく。明後日も、その次と。



ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

少しでも心に残るものがあれば嬉しいです。

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