終聖
ヒナは、願いが叶う星を取るために、てっぺん目指して上がりました。
てっぺんが見えた頃に雪崩れが起こり、今まで出会った仲間は雪の下に埋もれてしまいました。
それでもヒナはてっぺんを目指しました。
てっぺんに上がると誰かが声をかけてきました。
「その星はオレのだ」
口元からは満月に映し出された鋭い刃が黒光った。
「気球を落としたのはあなたね」
「そうよ。雪崩れもなぁ」
「あなたは何者?」
「オレ様はラテ。ティラノザウルスだ!」
ラテが近づくたびに振動で揺れる。
「全てこの尻尾でなぁ」
まるで綱引きのような太い尻尾を自慢しながら動かした。
「今度は、おまえを食ってやろうか。邪魔されないように なぁ」
黒光の鋭い牙を舌で舐めまわした。
「おまえが最後のようだな」
威勢の良い罵声は空間を沈黙させた。
「力なら負けねぇぜ!」
ラテが爪先を向けてきた。
わたしは後退するしかできない。
もう枝先だーー。
「もうそこまでだ。さよならだなぁ、お嬢ちゃん」
ラテは尻尾をヒナに向けてきた。
よける暇なく狂風で空中に浮いた。
「ヒナーー!」
かすかにリリィーの声が響いた。
わたしの足は枝先から離れた。
ゆっくり空間は、スローモーションのように上空を見上げ た。
これで全て見納めだ。
もう頭の中は起動を止めようとした。
不意にスローモーションはコマ送りへと変化した。
背中が緩やかに舞っている。
「リリィー!」
リリィーがわたしの胸元を咥えてる。
リリィーは手足でマントを広げ、飛びながら反対方向の枝 に下りた。
「ありがとうリリィー」
「こしゃくな奴だ」
ラテが体を回転させた。
「ヒナ早くこれに乗って」
リリィーが白鳥に乗った。
空中を飛び回るヒナとリリィー。
ラテが追い払うとするが、上手に白鳥が交わした。
リリィーがラテの頭に飛び乗り、引っ掻き噛みついた。
「痛たぁーー、このモモンガめ!」
ラテはリリィーのスピードについて行けない。
ラテの肩で息をする回数が増えた。
足元がぐらつくラテは狂乱してる。
ヒナは、その隙に飾りのりんごを何個も足元に転がした。
「わぁーー!」
脚の裏に引っかかりラテはバランスを崩した。
ふらつくラテにヒナはイルミの線を足元に引っ張った。
「いてえーぇ!」
その勢いでラテは転倒し右手がポロリと落ちた。
「右手が‥‥‥」
ラテが急に戦闘能力をなくした。
落ちた右手を拾う。
ラテの背中は魂が抜けたように丸まった。
「あなた片手なの?」
ラテの右手は義手だった。
深く重い淀んだ息が何度も背中を通過していく。
「オレ様は片手だよ。だから右手がほしいから、星を取り にきたんだよ」
萎む風船のように威圧感までなくなった。
ラテはホビーのおもちゃだ。
「住んでいた家の子供が右腕を抜いて壊したんだよ」
ラテは取れた太い木の枝で作られた右腕を拾う。
「オレは、もうすぐゴミで捨てられるんだよ」
ラテの声は悲声が交じってる。
「そんなに帰りたいの?」
「あーぁ家に帰りたいよ」
「そんな意地悪する子供の家に?」
「年長の時だけだよ乱暴されたのわ。今は優しい、だから まだオレは家にいれたんだよ」
ラテがくっつけようとするが、枝は根元が裂けて、もう取 り付けそうになかった。
「来春小学校を卒業する。その時オレは不燃ゴミ行きさ」
ヒナは星の手前で飾ってある星を引っこ抜いた。
「右手がほしいと願いなよ」
「ヒナ!」
リリィーが肩に乗り慌てた。
「渡していいの? ヒナの願いが叶わなくなるよ」
「わたしが、願ってもラテ以上の願いじゃないわ」
「眩しい」
東空が闇色から希望に満ちた光明が照らしはじた。
名残り惜しく月明かりも弱々しく抵抗してる。
太陽の煌めく白光と月が放つ薄光は屋根の十字架をピック アップする。
ピックアップした純光はヒナの十字架まで輝かした。
トワイライトゲームは終わった。
イルミを纏ったもみの木もただのツリーへもどる。
朝雫が葉先の水滴は、もみの木の感涙か、それとも悔涙な のか。
でも太陽は昇り始日を知らせる。
ラテは再生された右手をつけて育った場所に戻って行く。
「ヒナ帰ろ」
リリィーがわたしの1番お気に入りの頬を擦すってくる。
「ちょっ待って!」
全身強い朝日が充電してくれる。
わたしはリュックを下げた。
「ヒナどうしたの?」
リリィーが肩から飛び降りた。
わたしは、スケッチブックに無心で毛虫と線の続きを描い た。
わたしは、今夜体験をペン先に繋げた。
だから今は泉のように溢れて出てペンは滑らかだ。
モヤモヤした霧は未来が吸い取った。
わたしは美大に行きたいのではなく行って描くのだ。
見えない物を形にして。
「ヒナ‥‥‥気付いたね」
リリィーが肩に座り込んだ。
「えっ?」
「もう役目は終わったみたいだね」
「リリィー‥‥‥」
「ヒナも自分の人生を歩き出した。柔らかで、すぐに割れ そうな時期から脱皮する時がきたんだ」
「どこか行くのリリィー?」
「ずっといるよ。ヒナの近くに、見えないけれど」
リリィーが両手両足を広げた。
「さぁ、行くよ」
リリィーがもみの木からヒナを咥えて飛んだ。
その風圧は暖かで、わたしは薫風に抱かれ舞い降りる気分 だ。
やだぁーー。
まだ枕が濡れても、このままサナギがいいー。
わたしは吠えた!
辺りを見渡した。
真っ先にポケットに手を突っ込んだ。
リリィーがいない!
夢だったのか、それとも現実だったのか?
スケッチブックを開いた。
毛虫と線は見たことない雄大な、もみの木を描いてる。
妙に胸中が穏やかだ。
わたしはツリーを見上げた。
ツリーは輝いていたイルミの華色は、朝日には勝てなかっ た。
「随分早いじゃないか礼拝か?」
「‥‥‥おじちゃんこそ」
「教会を継ぎたい人が現れて今日来ることになってんだ」
朝日に負けじとおじちゃんの顔も眩ぶしく崩れてた。
「何だか以前までのヒナと違うなぁ?」
「違う?」
「今日の霧ごとくすっきりしない感じだった。けど今は霧 が晴れたように見えるぞ。安心したわ」
カウントダウンの余命だと思えない無垢な表現だ。
「おじちゃん‥‥‥」
辺りを霧に包まれてる。
あの柔らかな香りだけが鼻を抱きしめてくれる。
「リリィー」
てっぺんでわたしを包んだ香りが近づいてくる。
「今日、ライマテッペイさんって方が教会をやりたいって 見に来るそうだ」
「教会辞めなくて良かったね」
おじちゃんの顔は一足早い桜色に染まっていた。
最後まで閲覧してくださりありがとうございました。
今後皆様にも素敵な出会いや奇跡が、おとずれますようーに!




