1話 転移
俺は山下唯斗坂内莉緒なんの特徴もない高校一年生の男だ。
成績も一切勉強していないため悪く、おまけに運動神経が壊滅的で握力10kg、腹筋2回(うち2回はズル)、50メートル走10秒台。最悪だ。紹介しようにもするものがない。
高校に入れば漫画のような青春を送れるのではないかと入学当初は期待していたが、現実は厳しくそもそも周りにすらカップルはいない。
今日も帰りのホームルームが終わった瞬間死んだような目をしながら最速で下駄箱へと向かった。
「ああ…」
そんな声を出しながら歩いていると下駄箱までついた。
いつもならだれもいないはずだが今日は先客がいるようだ。
靴を履き替える金髪の女子生徒が視界に入った瞬間、俺は逃げるようにUターンし、下駄箱からは見えない位置で様子をうかがった。
知らない人なら俺だって別に隠れたりしない。
しかし、あそこにいたのは俺の幼馴染である坂内莉緒だった。
おいおい散々陰キャアピールしておいて幼馴染ですか(笑)と思われるかもしれない。
だが安心して欲しい、もう3年以上はほとんど会話をしていない。
小さい時は家が近いからよく遊んでたけど、中学受験を両方させられたこともあり、小学校の高学年からは辛うじて会話はするが一緒に遊ぶことがなくなってしまった。その後運良く同じ中高一貫校に入ることになったのだが、一度も同じクラスになっていないこともあり、入学当初は会話をしていたものの段々とそれぞれのクラスメイトと話すようになり、段々と見つけたら挨拶する程度になってしまった。
つまり、あったら無視する訳には行かないけど話すことはないという一番気まずいやつなのだ。
おまけに俺が仲良かった頃とは全然変わってしまっていて、俺が教室の隅でスマホをいじりながら少数の仲がいい人と少し話すくらいであるのと比べて坂内はクラスの誰とでも話す。
顔も整っているため、同学年の男子なら知らない人はいないというくらい有名だ。
しまいには一昨日急に髪を金髪に染め、完全に別の世界へ行ってしまったのだ。
しかし、そんな別の世界の行ってしまった坂内が1人で帰るなんて珍しい。
そんなことを思ったと同時にある可能性が頭をよぎった。
「まさか…男か?!」
考えたくもなかったが、あの清楚の塊のような人間が髪を染めるだなんて本当にあり得ない話だ。
大学生と付き合う女子高生もいるとうわさで聞く。
酒とタバコと女とギャンブルと生々しい下ネタの話しかしないクズに処女膜を破られているかもしれないと考えたら、全身が震えだして無意識のうちに声が出た。
「クソッ…!」
俺はバレないように後を付ける事にした。
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ずっと後をつけていたのだが普通にまっすぐ家に帰っていて、もう家につきそうだ。
「何やってんだ…俺は…」
冷静に考えてみれば紛れもないストーカー行為であり、我に返ってみると自分があまりにも気持ち悪すぎて悲しくなってしまった。
「…。コンビニ寄って帰るかな」
もう家が近いため人通りのない道に入って行き、もう尾行は不可能になったため、俺はもう追うのをやめて引き返した。
その時だった。
「えっ…ちょっ…なにこれ⁈」
そんな驚きと恐怖が混じったような大きい声が聞こえた。
その言葉を聞き俺はまた声の方に引き返し覗き込むとそこには何故か激しい光を纏いながらその場であたふたしてる坂内莉緒の姿があった。
よく見ると足の方から上に向かって段々と消えていっているように見える。
とても現実で起きている光景には見えず、訳がわからないまま俺は坂内のもとへと走り出した。
「山下君⁈」
走る俺の姿を見て驚いたような顔をそういった坂内をとりあえず光から遠ざけようと手を掴んだ瞬間、唐突に脳に激痛が走り空間が歪んだ。
段々と意識が朦朧としていく中で何と言っているのかは分からないが坂内が呼びかけているのが聞こえる。
数秒後、目の前が真っ暗になった。
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目が覚めたら、知らない天井が目に入った。
ギリギリ2人寝られそうなサイズのベッドから起き上がり、辺りを見渡すと俺はワンルームの家にいた。
ベッドと机と車椅子以外何もなかった。
服装も、学ランではなく、麻のようなゴワゴワした感触のものに着替えさせられている。
「なんなんだこれ…」
俺は困惑しながらも意識を失う前に起こったことを思い出す。
「ていうか、坂内は……」
ベッドから這い出る。
体は異常なほど重く、まるで鉛のようだ。
ベッドのそばにはいつもの靴が置いてありそれを履いた。
状況が理解できない恐怖が襲い掛かる。
とにかく、ここから出なければ。
重厚な木の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開けると、廊下が続いていた。
静かで、全く人の気配がない。
恐怖を感じながらしばらく歩くと、玄関ホールのような広い場所に出た。
正面には、巨大な両開きの扉がある。
俺は意を決して、重い扉を力任せに開け放った。
「うわっ、まぶしっ……!」
想像以上の強烈な日差しに、思わず腕で顔を覆う。
目が慣れるのを待って、恐る恐る顔を上げた。
――そして、俺は言葉を失った。
「は……?」
アスファルトの道路も、電柱も、コンビニの看板もない。
目の前に広がっていたのは、不揃いな石畳の道と、レンガや木材で造られた中世ヨーロッパ風の建物が建ち並ぶ、活気ある街並みだった。
道を行き交う人々は、ローブを羽織ったり、鎧を身につけたりしている。腰に剣を下げている男も普通に歩いていた。
思考が停止する。
俺は無言で扉を閉め、しばらくその場で固まっていた。
初投稿です。暖かい目で見て頂けると嬉しいです。




