名家のボンボンに転生しちゃった。
前世でギリギリエリートだった庶民でラノベおたくの俺が、死んで異なる世界線のパラレルワールドに時系列を無視して、過去に巻き戻されて名家のボンボンとして生まれ変わったのは、若干嬉しい展開ながら、これから味わうことになるであろう、恵まれた立場のしがらみとハイスペックになった自分が巻き込まれるであろう苦難が容易に想像できて、中途半端なチート?で無双できそうも無いのはかなり不満だったり・・・
目覚めると、見知らぬ天井・・・というか、豪華な天蓋付きベッドにふかふかにくるまれていた。
確か、私は新製品の燃焼試験の失敗に伴う爆発で少なくとも大やけどを負ったハズなのだけれど・・・
どう考えても、今の状況は救急搬送された先の病院の一室という訳ではなさそうだけど、ところどころ鋭い痛みがあるものの、致命傷には程遠く、まあ我慢できる範囲の怪我で済んだようだ。
取り合えず、現状を確認すべく頭を巡らせると、ベッドの脇で椅子に行儀よく座っているメイド姿の美しい女性と目が合った。
『ぼっちゃま!お目が覚められたのですね。良かった、すぐに奥様を呼んで参ります。』
と、言い残しすぐにあわてた様子で部屋から出て行った。
ふむ、まだ夢を見ているらしい。
どうせなら押し入れから美少女が出てきて欲しかったけど、いくらラノベ好きといってもそこまで非現実な夢を見た事なんかないけどね。
ほんの数分後、パタパタとあわてて廊下を走る複数人と思われる足音が聞こえたかと思ったのもつかの間、大きな両開きの重厚な扉が乱暴に開け放たれて、部屋着には、およそ相応しくない、ドレスコードのある有名レストランにこれから参りますといっても通用する、簡素ながら趣味の良さが光る蒼いドレスを着た見知らぬ女性が息を切らして駆け込んで来て、私を見ると明らかに安堵したのが見て取れた。
『翔くん、大丈夫?痛い所は無い?』
と、心配そうに問われたのだけれど、明らか誰かと間違われているのでどう答えるのが良いのか少し考えて無難になるように若干韜晦を入れて、努めて明るく振舞うのが良かろうと結論を出し、
『痛みの方はたいした事はありません。ただ、ちょっと混乱していて私がここに運ばれるまでの記憶がはっきりしないのです。』
と、夢の中迄当たり障りのない発言をしている自分の小心者感がおかしくて少し笑ってしまう。
『そう、良かったわ。もう目覚めないかと覚悟したところだったから。』
『えーと、私は何故救急病院に緊急搬送されなかったのでしょうか?』
『翔くんが、中庭で雷に打たれて、呼吸も意識もなくなっていたから、亡くなってしまったと早とちりしたのよ。実際、侍医の先生方も手遅れという判断だったの。』
彼女は、其の事を思い出して、少し辛そうな顔をした。
私は、取り合えず情報を整理する事にして考えをまとめようと瞑目した。
今、私は夢の中では、雷に打たれて呼吸停止、心停止していたが実は単にショックによる仮死状態だっただけで、ベッドの中で特に手当も受けずに勝手に生き返ったらしい。
でも、おかしい事はたくさん思い浮かぶ。
まず、別人に間違えられている事は特に問題じゃない。
この痛みは、本物なのだ、昔、夢の中でこれは夢じゃないかと頬をつねったのだけれど、痛みもないのに夢の中の私は『痛い、やっぱり、夢じゃない!』と声にしていて、これは現実なのだと結論を出して続きの夢を見たことがあったのだ。
でも、今回は明らかにそんな勘違いでは無く鋭い痛みが体の数か所に感じられる。
ふうむ、これはどういうことでしょう?実は、本物の私は致命傷を負って病院のICUで生命維持装置に掛けられて、意識が落ちているから変な夢を見ているのだろうか?
それにしても、夢の中で明確な痛覚刺激があるのは、説明つかないやんけ!?
あの事故で死んじゃって、ここが死後の世界にしても、なんかとても変だよね、この状況の説明がつかないからね、まあ、天国や地獄なんてあるかないかわからないとは常々思っていた不心得者ではあるもののもうちょっと分かりやすい世界だと思ってはいたのだから。
まあ、客観的に考えてこれは現実で、あの爆発で一命を失った私は赤の他人に転生したか、憑依して本来のこの体の持ち主の魂を上書きしちゃった、現実にはまずありえないけど、ラノベのテンプレ展開にハマったという理解が一番しっくりくる。
嘘でしょ、まあ若干嬉しくはあるけど、現状確認からしなければ。
この体の元の持ち主は翔という名前だということしか知らないのだから、落雷のショックで記憶障害が起こったふりをするのが妥当で、その間に新たな境遇を可能な限り知る必要があるということだけは、はっきりしている。
そこで、話しに出てきた侍医団の医師たちに診察を受けたあと火傷の処置を受けて、ひとまず一息つけたので、今後の優先事項を解決すべく少し頭を巡らせた。
まあ、不信がられないようにするには、ここで目覚めて最初に出会ったメイドさんぽい女性に素朴な感じで聞くのが無難だろう、奥様なる人物は、どうも肉親ぽいし不用意に口を効くと中身が入れ替わった事に気づかれそうだもの。
そこで、奥様や侍医団が部屋を引き取るように『疲れたので、少し休みます。』と宣言して狸寝入りを決め込んだ。
思惑通り、そのメイドさんと二人きりになれたので、記憶障害を装って色々自分の境遇を確認する事にしたのだが、なんと私の転生先は戦後の財閥解体で政治力は失ったものの、この国を代表する四菱グループの直系子孫でグループ総帥の嫡孫だという。
うーわー、庶民には重いポジションだなあ、と思いつつ自分の且っての勤務先の親会社の親会社も傘下企業とか、ちょっとおかしすぎて笑える感じかも。
はあ、名家のボンボンに転生しちゃったけど、イケメンの上、文武両道のハイスペックな若い肉体が努力せずに手に入ったのは、元の持ち主に悪いと思いながらも、体を動かし、記憶力などを確認して本来の私を遥かにしのぐオーバースペックになっているのを自覚すると一人で居る時はこれから先の未来で待っている勝ち組人生を妄想するにつけ口元が緩むのを押さえられないよお。
しかし、そんなお気楽人生が待っている訳なく、能力に見合った苦労をしょい込む事になるのは、ある程度予測の範囲内ではあったんだよね、中の人的に伊達に庶民として世の中に揉まれてないし。
また、時系列が過去に巻き戻ったとは言え、遠くない未来、かっての私が死んだ10数年後には戦争待ったなしの緊迫した国際情勢に追い込まれるのは、この世界線の異なるパレレルワールドっぽい世界でもかなり可能性の高い事が、ハイスペックになった私の頭脳が確信していたのだから。
まあ、救いはパラレルワールドっぽいと言っても、結果が必ずしも収束しそうもないことで、せいぜいあがいてみましょうか的なふてぶてしさも元の人格から引き継いでいるからね。
ちっとも自慢にならないけどさ。
だからどうしたって、突っ込むのは禁止!!
次話にて今回思いっきりはしょった主人公の現状の詳細をお話しする予定です。
はっきり行ってお約束的な導入部の冗長な部分を手抜きしているだけなので、物語が動き出すもうちょっと後のストーリまでは、流し読みでお付き合い頂けると嬉しいです。
もし、読者さんが獲得できたら、この辺の導入部は大幅な改稿しなきゃならないかもですが、取らぬ狸のなんとやらですので、生温かく見守って下さると嬉しいです。




