4話 伝説の勇者
七ノ歌が転び、いたたまれない空気に包まれる中、七ノ歌の頭の中に女神の声が響いた。
「あ、次の人がそろそろ来るので私は仕事に戻りますね!
魔法少女についての説明書はポケットに入っていますので後で読んでおいてくださいね!」
「この状況で私を放置!?ちょっと待ちなさいよ!」
ガバッと起き上がり、思わず声に出して突っ込んでしまう七ノ歌。
突然の大声にビクッとしてしまう2人。
ちょっと怯えだしている。
咳払いをして仕切り直しをする七ノ歌。
「それで、アンタたちは何者なの?」
「あ、はい。俺はリオル・グラナードです。
今は勇者を目指して冒険者の見習いをやっています!」
「へぇ、やっぱり勇者とかいるのね。」
七ノ歌のつぶやきを聞き逃さなかったリオルが食いついた。
「え、あの偉大な勇者レグナード・アルマリウスを知らないんですか!?
70年前にたった1人で魔王を倒した世界の救世主ですよ!
学校での勉強はほとんど忘れましたが、勇者についてだけは覚えてるんです(えっへん)」
「そこは威張るところじゃないでしょ…」
「いやいや、本当に凄いんですよ?
蒼銀の剣ていう伝説の武器を持っていて、それであらゆるものを斬ったらしいんですよ!
それでそれで…」
「おおい、そろそろ帰らんか。日が暮れてしまうぞ。」
なおも語ろうとするリオルを遮るようにジジイが帰宅を促した。
街に向かいながら話を続けることにした3人。
もちろんジジイはリオルにおぶってもらっている。
「それで、お姉さんは何者なんですか?」
「あー、そうね。私はナノカ。ものすっごい遠いところから旅をしてきた魔法使いよ。」
事情を隠す必要はない気がしたが、異世界とか転移とか説明が面倒だったので適当に誤魔化した。
「それにしては荷物とかほとんど持っていないんですね。」
「…ぅぐ。お、落としちゃったのよ、道に迷って色々あったの!」
「それは大変でしたね!もし良かったらウチに来ますか?
服の替えとかは母ちゃんと妹が多分なんとかしてくれます。」
むう、と少し悩んだが服とワンド以外何も持っていない状態だったので、結局お世話になることにした。
というか、この2人に出会わなかったら女神は七ノ歌にこの後どうさせるつもりだったのだろうか。
「ああっ!」
「急にどうしたんじゃ、リオル… 近くで急に大声出されると鼓膜が破れてしまうぞ。」
「熊の牙取ってくるの忘れました…」
「…」
翌日も同じ場所に行くことが決定した。
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翌朝、ギルドの前で集合した3人。
暇だった七ノ歌も付いてきていた。
一応一宿一飯の恩義も返したいとも思っていたのだった。
ただ牙を取りに行くだけではもったいないので、ついでに一緒に出来そうな適当なクエストも受けることにした。
普段は出ない場所に出没するというゴブリン1匹を討伐するという内容のものだった。
熊の牙を抜こうとしたジジイが腰をやりかけるというアクシデントはあったが、特に苦労もなく牙の回収を終えて例のゴブリン出没エリアに到着した。
「あ、あれじゃないですか? 師匠、俺がやっちゃっても良いですか?」
「ええぞ。速やかにミッションコンプリートするんじゃ。」
力強く頷くと、リオルはゴブリンを見据えて小さく息を吐いた。
直後、風のような疾さで音もなく接近し、難なくゴブリンを捉えた。
「…っ!」
突然の接近に声も出せず全く反応できないゴブリンの首めがけて強烈な蹴りを繰り出す。
ドゴン!!
派手な打撃音とともに吹っ飛んでいくゴブリン。
戦闘はほんの一瞬で片が付いてしまった。
「うむ、エクセレントじゃ。」
「随分あっさり終わっちゃったわね。」
勝利したリオルを褒めたりしながら近づいていく2人。
が、合流した直後、突然地面が淡く発光し始めた。
「「「!?」」」
リオルだけがギリギリで反応し、すぐそばにいた七ノ歌を抱えて発光の範囲外に逃れる。
ゴロゴロ転がった後、急いで振り返ってジジイを確認しようとするリオル。
「師匠!」
「ワシ、捕まっちった(てへぺろ)」
そこにはミノムシのようにグルグル巻きの状態で木に吊るされたジジイがいた。
「あー? 捕縛できたのは1人だけかよ。面倒くせぇ。」
「まあ、狩るのはそれはそれで楽しいじゃん?」
見るからに盗賊のような格好をした二人の男が見計らったようなタイミングで現れた。
1人は痩せ型で手ぶら、1人は大柄で巨大な斧を持っている。
「なんだアンタたちは? 師匠をミノムシにしたのもアンタ達か?」
「ケッヘッへ、見りゃ分かるだろ。偽のクエストにまんまと引っかかりやがって。
身ぐるみ剥いでやるからそこで大人しくしてろよ。
抵抗したら… 分かるよな?」
「…っ」
現代日本に生まれて今まで平和に生きていた七ノ歌は、生まれて初めてぶつけられる明確な悪意に気後れしてしまう。
「ナノカもあの魔法で一発じゃろうし、お主らなら大丈夫じゃろ。
早く片付けて降ろしてくれんかの。」
「え?」
「俺はこっちのデカいのをやります!ナノカ、そっちは頼みました!」
「え?」
「おっと、組み合わせを決めるのはこっちの方だ。
お姉ちゃん、相手してもらおうか。グヘヘ。」
「え?」
七ノ歌は完全に流れに置いていかれていた。
(ちょっとこれ戦わないとダメな感じ? アレ…やるの…?)
ものすごく嫌だったが背に腹は代えられない。
覚悟を決めた。
「マジカル☆ナノカ! チェーンジ アーップ♡」
☆と♡が大事だと説明書に書いてあったのでちゃんと付けた。
死にたい。
どこかからキラキラなBGMが流れ始め、七ノ歌の服が弾け飛んで謎の光に包まれる。
魔法少女おなじみの変身バンクである。
突然の七ノ歌の奇行に一触即発の緊張感が吹っ飛び、全員呆気にとられながら七ノ歌の公開生着替えを見ていた。
なんだこの光景。
「正義の魔法少女、マジカル☆ナノカ!みんな見ててね!可愛く可憐に登場♡」
媚び媚びの口上とともに顕現したフリフリショートドレスの魔法少女(26)に場は完全に凍りついた。
「もしかしてこれは最近の魔法使いのトレンドというやつなんじゃろうか。」
ミノムシがなんかほざいていた。
「あー、なんだ。人の趣味はそれぞれなんだがよ。
その年でその格好はキツイと思うぞ。」
大柄な盗賊は若干の気遣いとともに完璧な正論をぶちかます。
ピキッ!
七ノ歌のこめかみに青筋が浮かぶ。
「やりたくてやってんじゃないわよー!!!」
ドゴーン!!!
七ノ歌の怒りの鉄拳が炸裂し、大柄な盗賊は彼方にかっ飛んでいった。
魔法使わないのかよ。
「はっ! おい、テメー!何しやがる!」
おかしな流れに意識を持っていかれていた痩せ型の盗賊が正気を取り戻す。
「おっと、アンタの相手は俺ですよ!」
ナノカと盗賊の間に素早く割り込むリオル。
「そうかい、ならさっさと死なせてやるよ!」
たんかを切ると懐から取り出した小箱を勢いよく開けた。
ブンブンと不快な音を撒き散らしながら大量の何かが飛び出す。
それは何十匹もの飛行型の蟲だった。
一匹一匹が人の顔の大きさほどもあり、人に根源的な嫌悪感を抱かせる醜悪な見た目で、耳や鼻を簡単に引きちぎりそうな凶悪な大アゴを持っていた。
「ハッハー!この間どこぞの貴族からぶん取った代物だ!
行け、蟲ども!骨の一欠片も残すな!」
大量の蟲がリオルに殺到する!
が、リオルは臆することなく蟲の群れへと突進する。
ブンブン飛び回る蟲を的確にぶち抜いていき、30秒もしないうちにその全てを叩き落とした。
そして、勢いそのままに盗賊のもとに一瞬でたどり着いた。
「…へ?」
ドゴッ!!
戸惑う盗賊の顔に渾身のパンチを叩き込む!
「昔からゴキブリ退治は得意なんです。」
「ゴキブリじゃ…ねぇ…」
力ないツッコミをしながら盗賊は崩れ落ちた。
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「師匠ー!勝ちましたー!」
ジジイの方へと振り返り、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶリオル。
「うむうむ、ようやっ… いかん、リオル!後ろじゃ!!」
ゴガン!!
前触れもなくリオルの身体が吹き飛び、岩に叩きつけられてそのまま気を失ってしまう。
リオルが元いた場所には2mを超すであろう巨大な筋肉の塊のような体躯を持つ男が立っていた。
先程の盗賊たちとは比べ物にならない凶暴な空気を撒き散らし、強烈な威圧感を放っていた。
「女はそこにいろ。あっちにトドメを刺したら可愛がってやるよ。」
「ひっ」
全身の細胞が逃げろと大合唱し出す。
なのに、一歩も動けずヘビに睨まれたカエルのようにその場にへたりこんでしまう七ノ歌。
そんな七ノ歌を愉快そうに一瞥した後、男はゆっくりとリオルのもとへ向かおうとする。
「その前にワシの相手をしてもらおうかの。」
いつの間にか捕縛から抜け出していたジジイが男の前に立ちはだかる。
顔はヨボヨボのジジイのままだが、その体躯は眼の前の男に劣らない屈強で鍛え抜かれたものになっていた。
「なに… あれ…」
男の乱入、ジジイの変身と理解が追いつかない七ノ歌はカタカタと小さく震えながらそうつぶやくことしか出来ない。
「盗賊団のボスと言ったところかの。悪いが一撃で決めさせてもらうぞ。」
そう言うと水のように流れるような所作でボスへと接近し、ドゴンとその腹に強烈な一撃をぶち込む!
数メートルも吹き飛ばされるボス。
だが、ボスは悠然と立ち上がり余裕の笑みを浮かべた。
「ハハ、やはりこれはいいな。昨日略奪した防具を付けてて正解だったぜ。」
その防具は最上級のショック吸収機能を付与されたレジェンドクラスの逸品だった。
どんな打撃攻撃もほぼ無効になるほどの凄まじい性能だ。
「ハッ。お前は武道家か。残念だが素手でいくら殴っても俺は倒せねーよ。」
挑発するボスを一瞥したジジイは近くに落ちていた自分の杖をゆっくりと拾い上げる。
「武道家? ハズレじゃよ。ワシは…」
両手で横向きに杖を持ち、自身の目の高さまで持ち上げてその柄をスーッと引き抜く。
「剣士じゃ。」
現れたのは蒼銀に輝く美しい刀身。
鞘にあたる部分を放り投げてジジイは剣を構える。
何とか意識を取り戻してフラフラと立ち上がっていたリオルはその剣を目撃して目を剥いた。
「あ、あれは… もしかして勇者の蒼銀の剣!?」
今まで静かだったジジイの気配が爆発的に増大する。
ドンッッ!!!
神速の踏み込みで10mの間合いを瞬時に詰める。
ジジイ以外のすべての時間が止まったような一瞬ののち、音すらも置き去りにする一閃。
ジョバッ!
「ばか…な…」
ボスの身体から勢いよく血が吹き出し、糸の切れた人形のように倒れ落ちた。
「1分じゃの。」
ポフンと間抜けな音を立ててもとに戻るジジイ。
「フォッフォッフォ。これから3人でパーティーを組むんじゃ。
ちゃんと名乗っておこうかの。
ワシの名はレグナード・アルマリウス、元勇者じゃ。」
予定より早く書き上がったので投稿しちゃいます。
今後も書き上がり次第、1週間待たずに投稿することがあると思いますので、ぜひブクマをお願いします!
【次回予告】
ジジイの更なる秘密「救国の英雄の真実」が明かされる!
そして、ついに動き出す物語―――
乞うご期待!




