⒈その時、僕のお日様は7歳だった
ーー僕は「空」が大好きだ。空から下界を見下ろすと、全てを征服したような気分になる。この空も地上も全て僕のものなんだーー
「こら、遠くに行ってはいけません 人間に狙われますよ」
「あんなのろまな奴らに、僕がやられるわけないじゃん」
「あぁっ! いけません!」
そのタカは幼鳥で、巣立ってから、一週間しか経っていなかった。
東帝国の鳥類は、エストリニア神の神力により、他の生物に変わることができる。
しかし、鳥類であり、しかも孟獲類のタカならば移動が不自由な他の生物になんて興味もなかった。
人間は手で武器を使って、僕たちを殺す遊びをするけど、僕はあんな能力が低い生物に負けない!
母さんは心配しすぎなんだよ!
タカの幼鳥は空高く舞い上がり、母鳥を困らせる。
地上をふと見下ろすと、「カリ」という遊びをしている人間達を見つけた。
(食べる以外に他の生物を殺すなんて、下品な遊びだな。まあ、僕には関係ないけど)
タカの幼鳥はスピードを上げて、わざと人間を挑発するような飛び方をする。
「あそこにタカかな? 良い標的が現れた!」
「結構複雑な飛び方するタカだな」
「まあ、俺は去年地元の狩猟大会優勝したんだ、見てろ」
人間が十分狙って、幼鳥に向かって矢を放った。
タカの幼鳥はさっとスピードを緩めて、矢を回避する。
すると、幼鳥が矢を避けた先には、追いかけてきた母鳥が飛んでいた。
「母さんっっ! よけて!」
母鳥はとっさに向きを変えて、間一髪矢をかわした。
幼鳥はその様子を見て、頭に血がのぼり人間に向かって急下降した。
「母さんに何するんだっっ!」
その時、人間が矢先をタカの幼鳥に向けた。
「あっちから向かってくるぞ! 珍しい!」
「楽勝だな、これは! これ外したら、笑われるぞ!」
人間達が楽しそうに幼鳥に狙いを定める。
母鳥は気が狂ったように鳴いた!
『やめてーーっ!! 殺さないで、私の子よ!』
幼鳥は、矢に突っ込むように飛んでいる。
その時!!
「やめないか! 何してるんだ!」
他の人間が叫んだ声がした。
「カリ」をしていた人間達や、幼鳥に矢を向けていた人間も、一斉に声がする方向に顔を向ける。
タカの幼鳥も空中で動きを止めた。
(なんだ? 人間共が固まったぞ)
その声を出した人間はとても小さく、まだ幼いように見えた。
(あの人間も巣立ったばかりなのかな? )
幼鳥は、この切羽詰まった状況でそんなことを考えていた。
「ラエル第ニ皇子様に御挨拶申し上げます」
「殿下に御挨拶いたします」
「どうしたのですか? へヴァン殿下とご一緒に遊ばれていたのではないのですか? 殿下に狩りはまだ早いとお見受けしますが、見学されるのですか?」
人間達は、次々に「ラエル」というヤツに話しかけていた。
「ラエル」は人間の雛だが、大きな人間達の方が彼の僕のようだ。
「僕は遊びの狩りが大嫌いなんだ 、今すぐやめて!」
「失礼いたしました。では、湖近くで散策をしましょうか? ご案内いたします」
「ラエル」は厳しい表情から、ぱぁーっと明るくかわいらしい表情に変わった。
ーーその瞬間、僕は眩しくて熱くて、目が開けられなくなったんだーー
「ラエル」の上空を何回も旋回していると、母鳥が幼鳥を急かした。
「何しているの? ほら、ここは危ないから帰りますよ!」
母鳥は幼鳥を先導し、一緒に森深く飛び立った。
「ラエル」はその後ろ姿を、微笑みながら見送っていた。
幼鳥は、翌日から「ラエル」という小さな人間が頭から離れず、彼の姿を見るために頻繁に皇室の別荘に飛び立った。
あの小さな人間の笑顔は、いつも眩しくて光を放っているようだった。
なんだろう。
あの人間を見ていると体が熱くなる。
晴れた日に空に現れる「お日様」に似ている。
「ラエル」という人間は、よく「へヴァン」という小さな人間と遊んでいた。
(いいなぁ、僕もラエルと遊びたい)
上空や止まり木から、彼の元気な姿を眺めては、幸せな気分になっていた。
(なんだろう……どうしたんだろう、僕は何かの病気にかかったのかなぁ)
7歳のラエル第ニ皇子は、義兄のへヴァン第一皇子と共に、皇室が所有する避暑地の別邸に遊びに来ていた。
1ヶ月ほどの滞在予定だが、森や湖が近くにあり家庭教師も同行し勉学と休養を兼ねて、毎年夏に訪れていた。
夕方、ラエルは庭で芝生に座り空を眺めていると、一羽のタカが旋回していた。
ずっと眺めていると、タカがすぅーっと下降してきて、なんとラエルの近くにある切り株の上に止まった。
ラエルは大きな丸い瞳をさらに大きくさせて、キラキラ輝かせた。
「うわーーっ! カッコいい!! タカさんだっけ? 鳥の中でも強い鳥さんだよね?」
ラエルは顔を赤くして興奮している様子だった。
何故だかタカまで顔を赤くさせていた。
「もしかして、この前うちの騎士が殺そうとしたタカさん? 本当にごめんね、二度と怖い思いさせないから」
ラエルは申し訳なさそうに、タカに話しかけ続ける。
「僕はラエルって言うんだ! 7歳! 名前はあるのかな? 」
ラエルはしばらく悩んで、その幼鳥を「ジョルジェ」と名付けた。
「ラエル殿下、もうそろそろ屋敷に入りましょう」
メイドと護衛が、ラエルに帰宅を促すために近づいてきた。
「あれ、タカじゃないですか。なついてるのですか? 殿下はタカを扱う才能があるのかもしれませんね」
護衛が感心していた。タカを操るには、時間がかかるし、それを生業にする職業だってある。
「友達のジョルジェだよ~」
ラエルは嬉しそうにタカを見つめる。
タカのジョルジェも羽を動かして、喜んでいるような動きをした。
「ジョルジェ、また明日ね~」
ラエルは手を振ってタカの幼鳥と別れた。
そして、護衛とメイドに連れられて屋敷に入っていった。
(ジョルジェ……僕の名前! 母さんに僕はジョルジェだって伝えよう! )
幼鳥ははしゃいだ様子で、空に舞い上がり夕焼けに向かってとびたった。




