服を贈ろうと決めた理由
この作品は、私が学生時代に部活動内で複数人で執筆した合作作品の「番外編の番外編」にあたります。
本編はリレー形式で生まれた創作世界であり、本作はその世界観やキャラクターたちを引き継ぎながら、私個人の手で執筆したものです。
執筆に関わった他のメンバーは、作中に登場するキャラクター名と同じあだ名を持っていたため、ここでは個別の名前は伏せさせていただきます。
作品の成り立ちをご理解いただいた上で、お楽しみいただけたら幸いです。
賢王がメジャーを持ち出して少年の体のサイズをはかった翌日。昨日着ていた服を洗うため、少年は今日着る服をハンガーにかけられていた服の中から選んで着た。部屋には鏡も置いてないので、特に服に関心のない少年はそれでリビングに向かった。
まだ朝早い時間のせいかリビングには誰もいない。少年はリビングに置いてあるソファーに横になってぼんやりと空中を見つめる。
何も考えることがない。暇だ。暇すぎる。……こういう時は外に出よう。不意にそう思い付いた少年はソファーからのそのそと起き上がるとリビングから出た。玄関の扉に手をかけた時、
「その格好で外に出るつもりか、ザイーム?」
「賢王……」
少年はそこにいる人物を見て顔をしかめた。賢王がじろじろと少年の服を見た。少年は気にしていないが、肩が見えるぐらい大きな服は中性的な雰囲気が漂っていて、思わず目を引く。あんまり見ていると毒である。
「別に、大丈夫だよ」
「そんな大きな服じゃ、見てるこっちが困るから中に何か着て」
少年は賢王をじいっと見た。服はそんなに大きくない、と口に出しそうになったけど、賢王の顔を見て言わないようにすることにした。
「だって、ないんだもん」
賢王が持っていたマントを少年に着せた。黒っぽいそれはフード付きで、あたたかい裏地だった。
「とりあえずそれで我慢してくれ、指導者」
少年はぷくっとふくれてみせた。賢王が少し悲しそうな顔をする。賢王の持っている服の中に、少年に合うサイズはそれぐらいしかなかったのだ。
「ウソウソ。そんな顔しないでよ、賢王。それじゃあ行ってくるね」
少年は笑って玄関の扉を開けた。賢王はそれをぼんやりと見ながら、ズボンが必要だ、と思った。少年のために作る服なら種類は多い方が良い。
「それにしても久々に見たな、あんな指導者……」
楽しげにキラキラと輝いた瞳は転生前の指導者を思い起こさせる。全身でワクワクを表現する少年は転生前の指導者より感情が見られて面白い。しかし、いつもはクールな指導者がたまに頬を緩める瞬間が見られる転生前の指導者も好きである。
リビングの窓の外では少年が楽しげな表情で何かをしている。それを見て、賢王は頬を緩めた。
こういう時の指導者は何も言わずに放置しておくとご飯も食べずに没頭することがわかっている。
さて、どうやって指導者にご飯を食べさせようか、と賢王は椅子に座りながら考え始めた。
あと三十分もすれば誰かが起きてくるだろう。それまでは、あのかわいい指導者を独り占めしていても良いよな?