どうあっても、何とかしなければならない
「ワイヤーでつないで、車で引っ張ればいいんじゃないですか? この一番手前、彼女の上に覆い被さっている鉄骨をずらせばいいんだ!」
若い警察官が皆に声をかける。
亮太は我に返り、周囲を見渡して一番馬力のありそうな車を指さした。
「あれで引っ張ってください!」
それは、テレビの中継車だった。
今、真優の体は歩道と車道のちょうど中間に位置し、その境目のわずかな「へこみ」に体が埋まっている状態だ。
このままゆっくり「歩道と平行に」一番上の鉄骨をずらせば、彼女の体は脱出できそうだ。
ただ、「道路側に」ずれてしまった場合、その鉄骨が落ちてきて、真優の上半身は押しつぶされてしまう。
反対側にずらせれば安全だが、そちらは川であり、引っ張る術がなかった。
トレーラー運転手の合図と共に、鉄骨をワイヤで繋いだ中継車がゆっくりと歩道と平行に、東方向に移動し始める。
しかし、ワイヤがぴん、と張った次の瞬間、がくんとその動きがとまり、エンストした。
何度か試したが、結果は同じ。
五トンの鉄骨を動かすには、中継車では馬力不足だった。
亮太の体からは、この暑さにもかかわらず、冷たい汗が流れていた。
「亮太……私、助からないの?」
真優のか細いその声は、彼をぞっとさせた。
「ばかな……絶対助かるって! もうちょっとだから、がんばれ!」
「怖い……亮太、私まだ……死にたくないよ……」
「大丈夫だ。俺が助けるから!」
「本当? 約束だよ……」
己を犠牲にしてでも、絶対に彼女を助ける……そう覚悟を決めた亮太だったが、その手段が見つからない。
「ルシファーが見えた!」
誰かが叫んだ。
それはほぼ目線と同じ高さで、水田の上に浮いていた。
黒く、丸く、そして小さい。
距離にして、約三百メートル。ルシファーはこの距離を、五分ほどで進んでくる。
その飛行は正確だ。そして正確であるからこそ、彼女の体にもまた、確実に迫っている。
目の前には、御神木が立っている。
(まさか……これは俺に対する呪いなのか……俺から、真優をむごたらしい方法で永遠に奪い、そして一生俺を苦しめるのか……そんな……絶対に嫌だ、それなら俺を殺せ!)
そして少年は叫んだ。どうして真優なんだ、と。地面に両手、両膝をついて、大粒の涙をこぼした。
あたりは、しん、と静まりかえった。
打つ手がない。
絶望的な空気があたりを包む。
山をも貫くほど強大な力を持ったルシファー。ここにいる人間だけで止められるはずがない。
だが、何とかしないと真優は死ぬ。どうあっても、何とかしなければならないのだ。