我が身の危機
「……う……うわあぁぁ、真優!」
真っ先に声を上げたのは、亮太だった。
土煙が上がり、数本の鉄骨が横たわるその場所に、彼は自らの危険も顧みずに飛び込んだ。
やがて他の見物人や、テレビ局のスタッフも我に返り、急いで彼女がいた場所へと駆けつける。
「御神木の呪い……」
誰かが、そうつぶやいた。
――それは、奇跡だった。
腰より下を鉄骨の下敷きにされながら、彼女は、目を開いていた。
「……亮太……私、どうなったの?」
「真優、真優……よかった、生きてた……どっか痛くないか?」
「うん……でも、動けない……」
痛くないが、動けない。それは、亮太をひどく不安にさせた。
彼女は、痛みを感じることができないほどの大けがなのではないか、と。
「……こりゃあ、凄い! 運良く、歩道の段差にはまってる!」
腹ばいになって、彼女と鉄骨の隙間を覗き込んだテレビ局のスタッフが叫んだ。
亮太も、同じようにやってみて、彼女が生きている理由を悟った。
車道と歩道の間には、段差が存在する。
そしてたまたま、その切れ目、つまり歩道が低くなり段差がなくなっている箇所に彼女の身体が入り、その上に鉄骨が覆い被さっているのだ。
ただ、鉄骨は一本ではない。
数えてみると、五本もの鉄骨が複雑に重なり合い、それらと歩道の隙間にできたわずかな空間に、真優が入り込んでいるに過ぎなかった。
なんとか脱出しようとするが、彼女の身体は鉄骨につっかえて、思うように身動きすることもできなかった。
「……無理しなくても、これなら、一番手前の鉄骨さえどかせば助けられそうだ。今、クレーン車を呼ぶから、ちょっと我慢してくれ」
そう声をかけて来たのは、自らも額からわずかに血を流している、作業着姿の男だった。
横転したトラックの運転手のようだった。
彼は青ざめていたが、彼女が生きていたことに安堵、そして責任を感じているのか、急いでどこかに電話をかけていた。
「真優、真優……」
亮太は、道路側に出ている彼女の右手をずっと握っていた。
暖かいし、握り返してくる力強さも、彼を少し安心させた。
「もう……私、大丈夫だから……男の子なんだから、泣かないで」
安心させるように笑顔を見せる真優。だが、その彼女も涙を流していた。
そして、真優が少し顔を持ち上げた、そのときだった。
彼女の額に、何か赤いものが見えた。
最初、亮太は、彼女が血を流しているのかと、ぎくりとした。
しかし、それが先ほど見た、レーザーによる赤い点だと気付いて、一瞬安堵し、その直後、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「うっ……あっ……」
「……どうしたの、亮太……」
顔色が明らかに変わった彼を、真優は不審に思ってそう言った。
それに対し、彼は思考が停止したように、何も応える事ができない。
「……ルシファーが……来る……」
側にいたテレビ局の男性スタッフがそう呟き、青ざめた。
ルシファーは、レーザーの点の直下、地面ぎりぎりを通る。
つまり、彼女が嵌まっているその空間を、ルシファーが通過するのだ。
「今、この地点は、既にルシファーから半径一キロの避難指示区域に入っています……」
一人の若い警察官が、恐ろしい言葉を発した。
トレーラーの運転手は、もうすぐルシファーの警戒区域に入り、通行できなくなることを恐れ、スピードを上げていた。
現場は緩やかながらカーブとなっている。
テレビカメラとアナウンサーに注目し、その直後に、歩道の端ぎりぎりでしゃがんでいる真優に気づき、はっとして急ハンドルを切ってしまったことが横転の原因だった。
五トンの鉄骨は、人間の手でどうにかなる重さではない。
「クレーン車が来るまでには、最低でも一時間はかかる……」
「遅すぎる!」
初めて声を荒げる亮太を見て、真優は我が身の危機を悟った。