第六十二話 解雇?
タマネギの収穫も終わり、ちょっと一休みだ。この後には、ポテの収穫が控えている。義行は魔王の仕事をそっちのけで、フラフラと畑や田んぼを見て回っていた。
「クワッ」
「おっ、今年も来てたのか?」
「クワクワッ」
モカたちは、一斉に田んぼに飛び込んでいく。もしかしたらと思い、義行はブレットさんの田んぼにも行ってみた。
「魔王さま、今年も来てくれましたよ。ライザーさんの田んぼにも来てますよね?」
「後で見てみます」
義行が田んぼに近づくと、挨拶に来る親鳥がいた。もしかしたら、去年城の田んぼに来ていた仔なのかもしれない。
ついでにと思い、ぐるっと開拓地を回ってみると、ポテの茎も枯れてきており、もう少ししたら収穫だろう。最後にライザーさんの田んぼを覗いて見ると、予想どおり仔モカがちょろちょろ動き回るのが見えた。
夕方、振興部でポテのざっくりした収穫量と販売価格なんかを考えていると、シルムが顔を出した。
「一週間ぶりか?」
「経験者三人の話で来てからですから、そのくらいですね」
「で、今日はどうした?」
「いまいちやる気の見られない五人の報告です」
「何かわかったのか?」
「それがまったく……。本当に可もなく不可もなく。出しゃばることもなく、ミスもしない」
これが研修でなければ貴重な働き手である。しかし、今回の趣旨に合わないのは明らかだ。
「ふふっ、お客さん。お困りのようですね」
「シトラさん!」
ヌルっと現われ、いつも現場をかき乱す……わけではないが、相変わらず掴みどころがないお人の出現だ。
「ちょっと探ってみましょうか?」
妖精たちの情報集能力は侮れない。肉ポテ、ハンバーグ、そして新作スイーツと必ず全員集合だ。なんらかの結果を持ってきてくれるだろうと思い、義行は調査をお願いした。
そんな依頼をして一週間が経った午後のことだ。
「魔王さま、いいかしら?」
「シトラさん、何かわかりました?」
「いろいろとね」
ニッコリとしたシトラさんはソファーに座り、その五人の一週間の行動・言動を再現VTR風に聞かせててくれた。
・六月二日 誰かの自宅?
「しっかし、土いじってなにが面白いのかねー」
「ほんとそう。市場に行きゃ買えるものをわざわざ時間かけて作るって、気が知れんよ」
「お、このワイン美味いな。どこで買ったんだ?」
「うちからくすねてきたんでようわからん。ただ、程々にしとけよ、明日も仕事やけん」
「どうせ、観察と土づくりだろ。頭は使わんから大丈夫や」
・六月四日 どこかの公園?
「昨日はウシのクソ、今日はニワトリのクソ。明日は誰のクソだよ」
「ギャハハハハ」
「もう……、下品ですわよ。でも一年の我慢ですわ」
・六月七日 帰宅途中?
「お前、どこ希望?」
「俺はどこでもいいかな。できれば暇な部署でのんびりと」
「欲がねえなぁ。やっぱり、金握ってなんぼやぞ。財務担当で好きに金動かしてみてえよ」
「でもさ、案外、こうやって野菜作って金もらうのも悪くないんじゃね?」
「俺はパス。金貨五枚じゃあ生活できねーよ」
「でも正直、城で働くならどこでもいいな」
役者として食っていけんじゃねってくらいの演技力で再現してくれるので、聞いてるこっちが辛くなった。
だが、五人の本心がわかったのは収穫だ。義行はすぐにサイクリウスの部屋に向かった。
「サイクリウス、この五人を解雇する。すぐに再募集の案内を出すぞ」
サイクリウスは頭を抱える。
「少しは勉強してくださいよ、魔王さま。無理ですよ」
「農業じゃなくて、城で働くことを企んでる奴等だぞ。解雇するべきだろう」
「ですから魔王さま、この五人を合格させたのはどなたですか? アンケートを裏読みする奴もいると言ったのはどなたですか? 採用後に虚偽が見つかった場合に解雇すると案内されてますか?」
「そ、そ……」
「『そ』の次はなんですか。『ら』ですか?」
自分が関係していないことなら、義行も『ら~』と高らかに歌ったことだろう。だが、今回ばかりは黙り込むしかなかった。
「そう言いたくなるのはわかります。ただ、もう少し考えて行動してください」
「いや、そ、そうだな。二重丸を付けてたのも俺たちだ。最終面接で見抜けなかったのも俺たちだ。合格通知にサインしたのは俺だ」
「はぁ……。何度言えばわかるんですか。納得させろって言いましたよね?」
その言葉に、義行の脳がフル回転する。その場でなにをするかを書き、サイクリウスに突き付けた。
「まあ、行けるでしょう」
翌日になり、シルムからこの三か月の感想を聞きたいので二日後に簡単な面談を行う旨の紙を配ってもらった。
そして二日後の午前中だ。まずは問題ないグループからだ。当然、和やかに面談は終了した。
そして午後から例の五人の面談だ。
・A氏
「どうだ、三か月やってみて。結構大変だろう」
「そうですね。農業がこれほど大変なものとは思いませんでした。でも、やりがいがあります」
「そうか。でも君は、財務担当で金を動かすことにやりがいを感じるんじゃないのか?」
「えっ……」
「そりゃ、毎日毎日土いじりじゃ、面白くもないよな」
「……」
「今回の募集内容覚えてる? 『農業研修員募集』なんだよね。城の職員採用試験は別にあるんだけど」
「……」
「明日もう一回、面談する?」
・B氏
「どうだ、三か月やってみて。結構大変だろう」
「いえ、しっかり指導してもらってますし、作物が育っていくのを見るのは楽しいです」
「そうか。でも、毎日クソにまみれるのは嫌だよな」
「えっ……」
「それに、食べ物なんて、自分で作らなくても市場に行きゃ売ってるもんねぇー」
「……」
「今回の募集条件覚えてる? 『農業技術の習得に特に興味のある者』なんだよね。クソ嫌いなら大変だよ。明日、俺のクソでも集めてみる?」
「……」
・C氏
「どうだ、三か月やってみて。結構大変だろう」
「いえ、ノノさんやシルムさんのように女性でもやって行けるというのがよくわかりますし、早く独立したいですわ」
「そうか。でも、クソにまみれる話は面白いよな。でも、一年も我慢できるか?」
「えっ……」
「そうそう、暇な部署でノンビリ働きたいんだよね。シルムは毎朝五時に起きて、夜も六時まで働いてるぞ。うちの部署で採用しようか?」
「……」
「でさー、今回の募集条件覚えてる? 『研修期間中は、農畜振興部の振興員見習いとする』なんだよね。業務量、増やそうか?」
「……」
「明日もう一回、面談する?」
残りの二人も同じようにイビリまくった義行だった。
すると翌日、業務開始時間に合わせて、五人から研修員見習いを辞めるとの文書が届いた。
それを受けて、即、補欠としてツバを付けていた人物を当たってもらった。が、何人かは既に職についており辞退されたが、八人目で辞退した五名分を確保できた。
「できれば再募集して、ぎちぎちの面接をして決めたかったんだけどな……」
「魔王さま、いくら厳しくやっても裏をかく奴らは出てきますわ。それは来年の募集の際に考えましょう」
「逆に、条件もなにもかも自由にして、その代わり、ちょっとでも変な言動・行動があれば解雇するとかにするか?」
「多分、誰も応募してきませんわ」
「だろうな」
次回の更新は、二月六日(金)十七時三十分前後を予定しています。




