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第六十一話 離脱

 城、ブレッドさん、そして第二圃場(ほじょう)の水田では、青々した苗が風に揺れていた。今年からライザーさんが稲作研修を始めたことで、田起こし、代かき、そして田植えを皆で行った。


 ただこれにより、一つ問題が起こった。

 それは十日ほど前の代かきのときだ。


「魔王さま、今日の代かきもまだ下準備ですよね?」

「準備はこれが最後ですね。まあ、今日の作業はそう難しくはありません」

「水を入れて、(すき)(なら)していくんですよね」


 城の田んぼは、昨年同様に四枚だ。そのため、一時間もしないうちに作業は終わった。ふと森の入り口を見ると、カスミ親子がこちらを見ていることに義行は気づいた。

 そして、その翌日から一週間近く子供たちから無視され続けた。


「いや、悪かったって。来年は俺とメイドたちでやるから……(もう泥遊びという歳でもないだろうに……)」


 しかし、皆でやれば本当に早い。

 そして今日は第二圃場での田植えだったが、全二十二面の田んぼを半日で植えることができた。

 案の定、義行だけが翌日に休みを取ることになった。こればかりは三年たっても変わらないのだ。


 二日ほど安静にすることで腰痛も引き、今日からバリバリと仕事をと思っていたらアプリさんがひょっこり現れた。


「魔王さま~。苺くださ~い」

「今日も自由ですねー」

「あら~、一応、仕事で来たのよ~」

 『苺くださ〜い』と来て仕事とはなんなのかと義行は思った。

「魔王さまに連絡です~。今年は雪が多かったせいで、水が豊富なの~。なので、川への流量が増えると思うわ~」


 どうやら本当に仕事の話だったので、魔王さまモードで対応する義行だった。


「大きな影響が出ますか?」

「通常より水位は上昇するわよ~。でも危険な上昇ではないわ。ただ、大雨が降ったりしたときは注意してね~」


 この情報は貴重だ。ただ、こうもノンビリ告げられると、問題ないように感じてしまう。しかし、早いうちにコメが自生していた地域も含め、堤防の検査等に手が打てると義行は思った。


「ありがとうございます。念のため、その可能性を考えて行動しますね。苺クリームパンにします? 生の苺にします?」

「今日は生でもらって行くわ~」


 去年から果樹園の一角を整地して、イチゴ畑を作った。これは、去年のシトラさんのアドバイスを受けての比較実験の為だ。なので、できた苺は妖精たちに自由に食べてもらうようにしている。


 アプリさんが姿を消したのを見て、義行はサイクリウスに河川の氾濫しそうな場所の確認をしておくように指示を出した。


 その後、ノノと北東の村へ栽培指導に向かった。


「魔王さま、お待ちしておりました。トウモロコシ用に六面準備しました」

「これが種です。実は、城で栽培するのも初めてなので、マニュアルがまだありません。ですので、不明な点があれば、都度連絡ください」

「これだけは注意するということはありますか?」

「栽培方法が幾つかあるんですが、今回は手を掛けない方法でいきましょう。芽かきや二番、三番雌花(めばな)を除去するのもやりません」


 マニュアルはないと言っておきながら、専門的な話をする義行だった。北東の村の住人の口は開いたままだ。


「詳細は後で説明します。まず、種を蒔いてしまいましょう」


 北東の村での指導を終え、義行たちは裏庭の実験圃場の一面にトウモロコシを播種した。トマトも大量生産したかったが、連作障害が起こり易いと記憶している。なので、一面の半分にだけ播種した。この区画で連作実験してみるのだ。


 その翌日、義行は開拓第一弾の畑に来ていた。今日はタマネギの収穫だ。一部、黄金色に染まっている畑もあるが、なにかしら収穫できるのなら義行は問題にしなかった。


「タマネギの栽培も問題はないでしょう。ただ、今年はこの後に種の収穫がありますから、油断は禁物です」

「魔王さま、いつごろ採取すりゃええんかのう?」

「そうですね、目安としては六月下旬ですかね。細かいところはシルムに相談してください」


 今年も昨年とほぼ同量が収穫できた。二、三日後には市場に並ぶだろう。


 それから数日が過ぎ、開拓地第二弾の畑を視察してるいるときだった。


「魔王さま、ちょっとええでしょうか?」

 話しかけてきたのは第一弾での移住者で、自由組に近い経験者三名だった。

「どうしました?」

「悪いんだが、今日をもって完全自由契約にしてもらえんじゃろうか」

「皆さんですか?」


 三人が同時に頷く。


「でもこの前、秋からアーシとニンジンを播種(はしゅ)したいって……」

「ええ、その予定だったんですけど……」

「我々のやり方に不満があるということでしょうか?」

「いえ、まあ最初は『なんでいちいち指示されにゃならん』とは思いましたけど、収穫量は嘘をつかんですから……。ですから、そこに不満はありません」

「それでは何故?」

「申し訳ない、それ以上は追及せんでもらえんじゃろうか……」


 義行は三人の歯切れの悪さに疑問を抱きつつも、これ以上話をしたところで彼らの考えは変わらないだろうと思い、それ以上の追及を止めた。


「わかりました。では明日、振興部へお越しください。再契約書を準備しておきます。契約から土づくりの二か月分の補填はどうしますか?」

「それについては、我々は不要です」


 帰りがけ、明日の昼前に振興部に顔を出してほしいとシルムに伝えて屋敷に戻った。

 夕食後にベッドに横になり考えてみるものの、なぜ急に自由組に移ると言い出したのかわからなかった。


 そして、翌日午前中に三名の再契約を終え、そのまま部屋でシルムを待った。


「魔王さま、どうかしましたか?」

「急に悪いな。今日、自由組に近い経験者三人が完全自由組になった」

「あの三人ですか?」

「あぁ。最近、変わったことはなかったか?」

「なかった……と思いますよ。普通に畑にも出てましたし、市場にタマネギも売りに行ってましたし」

「……。もし、市場でなにかあったのなら俺たちにはお手上げか」

「でも、暗い顔とか深刻な顔はしてませんでしたよ」


 昨日話をしているときも、深刻というより、歯切れが悪いというか、言えないなにかを隠し持ってるという感じだったなと義行は思った。


「城の財務担当がちょくちょく来てたのは関係ないんですか?」

「あれな……。あれは関係ないはずだ」

「それじゃあ、私からの情報はありません」


 どうも腑に落ちない。世の中お金だけじゃないとはいえ、このままやっていれば、通常の農家より実入りは多く、技術も手に入るはずなのに……。

 ただ、相手は何も知らない子供じゃない。いろいろ考えての結論だろうと義行は納得することにした。

次回の更新は、一月三十日(金)十七時三十分前後を予定しています。

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