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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

帽子

作者: 壱原 一

中学卒業間近に失踪したという父の兄、すなわち伯父が帰ってきた。


元からブッシュクラフトやらサバイバルやらに熱心で、秘境とか廃墟とかに魅了され、高校受験、ひいてはその後のおよそ一般的な社会生活を非常に億劫がっていたので家出と目されていたそう。


実際、各国津々浦々をバックパッカーとして漫遊していたらしい。


建売住宅に両親と子1人が住まう平凡な我が家において、日に焼けてぼさぼさ髪で無精髭とむさくるしい伯父の存在感は物凄い。


ただ、両親が既に亡い弟たる父は、自由人で唯一の兄をとても慕っているようで、当惑する母を拝み倒して伯父を泊め始めた。


伯父と酌み交わして無邪気にはしゃぐ父を見るのは物珍しくて楽しい。伯父は初めて会う弟の妻子にも打ち解けて、わくわくする冒険譚や、ちょっとアンダーグラウンドな小話を巧みに語る。間も無く母も自分もすっかり伯父びいきになっていた。


よって休日に伯父からぼちぼち発つと言われた時、一家で口を揃えて引き留めた。伯父は柔和に頷きつつさらりと躱し、いつかまたと紙より軽い口約束を述べてバックパックを背負い玄関へ向かう。


大人しく送り出すほかなく、編み上げ靴を履く背を総出で見守る中、ぼさぼさの頭に帽子が無いと気付いてすぐさま伯父が泊まっていた和室へ急ぐ。


探検家の様なカーキ色のサファリハット。毛羽立って色褪せ、擦り切れてくたくたになった、長年の旅の相棒に違いない年季の入った一品は、床の間の隅に伏せて置かれていた。


おっ悪いなぁ助かったよと喜ぶ顔を想像して良い気分になりながら帽子を取る。


中にぬるりと丸い物を掴む。


軽い水気と粘性を帯びた有機的な質感の小球が2つ。頭部を包むクラウンの部分に恐らく素のまま入っている。


気色悪さに鳥肌が立って、反射的に帽子を投げ捨て、感触の残る手を激しく振った。


動悸のせいか、着地の反動か、膨らみが動いたように見えて“置いておけない”危機感に駆られ、慌てて摘まんで玄関へ走る。


伯父はこちらを認めると、謀略が露見した様な、悪戯を看破された様な顔で、「いやあ、どうも気が利くなぁ」と帽子を受け取り握り締めた。


中身が潰れてはみ出すだろうと思わず浮き足立ったものの、帽子は伯父の如くさらりとして、ぼさぼさの頭を呑み込み鎮座する。


きっと青褪めて強張った面をしていた自分に笑いかけ、充血して潤んだ目を擦り、伯父は陽気に挨拶してどこかへ去って行った。


以降、二度と現れなかった。



終.

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