プロローグ
【プロローグ】
命の声。よく、蝉は一週間しか生きられないなどと聞くことがある。だからこそ、自らの子孫を残すために思い切り鳴いて、必死にアピールしているのだ。我々が普段喧しいと感じている、この鳴き声は命を繋ぐための声である。
とはいつかどこかで読んだ本の受け売りの言葉だが。実際にこうして窓の外から聞こえてくる音を聞いても、ただただうるさいとしか思わない。ましてや今は授業中。ただでさえ数学の授業は内容が理解できないのに、窓際の席にいるせいで、先生の声なんてまるで聞こえやしない。
凄まじい熱波も襲ってきているので、正直もう終わりにして欲しい。と思っていたら、授業の時間が残り五分だ。これが終わればようやく楽しい楽しい昼食の時間である。
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チャイムが鳴り、皆がバラバラと動き出す。僕も教科書をしまい、弁当を取り出して席を立ち上がろうとしていたところ、教室の中の離れたところから大きな声が聞こえてきた。
「おーい! 早く屋上行こうぜ、藍!」
「そんな声で呼ばなくても今行くところだって!」
藍、とは僕の名前だ。新野 藍。
そしてクラス中の注目を集めながら僕を呼んだ張本人は、村田 康介。小学校からの友達で、去年の中三まではほとんどクラスが一緒、さらには入る高校まで一緒になってしまった。嫌ではないしむしろ康介がいてくれると心強いが、たまに暑苦しいと感じる時もある。今年はクラスが一緒だから尚更だ。
康介と駄弁りながら屋上へと向かう。僕たちはもう一人の友人、雨音 礼奈と三人で昼食を取るのがいつもの習慣となっている。礼奈も小学校からの友達だが、残念ながらクラスが別々になってしまった。
礼奈の教室は屋上に近いから、先に一人で待っているだろう。
「あ、きたきた!」
そんなことを考えていると、もう屋上に着いたらしい、礼奈の声が聞こえてきた。
「待ったか?」
「ううん、今来たとこ——ってデートの待ち合わせじゃないんだから」
康介の言葉を軽く受け流して、礼奈が一息つくと何やらいつもの雰囲気とは違い、真剣な表情に変わった。
「あのね、二人に話があるの......」