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二十年前(4)

 その日は唐突に訪れた。

 それはバイトのない夜の日。その日も僕は変わらず彼女を探し彷徨っていた。あてもないが、一つだけ僕が信じ続けた賭けがあった。

 彼女の住んでいる場所。それだけは嘘ではないんじゃないかと。

 

 もし他の全てが嘘だったとしても、週に一二度ふらっとあんな夜のあの時間にコンビニに現れる事を考えれば、わざわざ遠くからこのコンビニに通うとは考えにくい。であれば、僕のいるコンビニには来れなくなったがそう離れた場所にはいないんじゃないか、僕はそう考えた。

 

 そして僕のこの賭けはついに実を結んだ。


「……美山、さん」


 それは、僕のいるコンビニとは逆方向にある少し離れたもう一つの別のコンビニ。そこから出てくる彼女の姿。僕がコンビニで接していた頃と変わらない姿で彼女は当たり前のようにこの世界に存在していた。心なしか元気がないようにも見えたが、そんな事はどうでもよかった。


 見つけた、見つけた。やっと見つけた。

 ずっと探し続けた彼女。こんなにも近くにいたのに見つけられなかった彼女。

 気付けば僕は駆け出していた。ぐんぐんと距離が縮まり、僕の勢いのついた足音に気付き彼女がこちらを振り返った。

 美山さんだ。間違いなく彼女だ。驚いた顔を見せる彼女の目の前で止まり、僕は彼女の両肩をぐっと掴んだ。


「み、美山、さん! どこ行ってたんですか!」


 はぁはぁと息が切れながらも、僕は止まらなかった。


「急にこ、来なくなって、めちゃくちゃ心配したんですよ! 連絡先、分かんないし、学校でもずっと探したけど見つからないし、夜もこうやって探し続けてもいなくて、急にどうしちゃったんですか!? どうして僕のコンビニじゃなくてわざわざ違うコンビニに行ってーー」


 その瞬間彼女は僕の両手をばっと払いのけて後ずさった。

 美山さんの視線は僕に向いていた。でもそこにある表情は僕の知っている暖かく柔らかいものではなく、不安と恐怖に怯える歪んだものだった。


「……やめて、よ」


 やっとの事で絞りだしたかのように、彼女の声は震えていた。


「……どうして……ちゃんと離れたのに……」


 彼女はよく分からない事を呟いていた。


「ねぇ、何があったの? 何かあったんでしょ? 教えて欲しい。僕、君の助けになるかーー」

「近づかないで!」


 僕の伸ばした手に触れないように彼女は僕から離れた。

 眩暈がした。

 どうして? 

 何故、彼女は僕を拒否する? 

 どうして、どうして……?


「美山、さん……?」

「……ずっと、私の事付けまわしてたんだね……それって、何て言うか知ってる?」

「何を言って……」

「ストーカーって言うんだよ」


 ーーストー、カー……?


 さぁっと血の気が引いていき、身体の温度が一気に下がっていくのを感じた。

 ストーカー? 僕が? 彼女の?

 

 頭がショートしたかのように動かず、身体も縛り付けられたかのように動かなかった。途端、彼女は今出たばかりのコンビニへ走って戻っていった。


「ちょ、待って!」


 少し遅れてなんとか僕はよろよろとだったが、彼女を追いかけた。レジにいる若い男に彼女は必死で何かを訴えかけている。その内容が言うまでもなく自分にとって圧倒的に不利なものである事は明らかだった。

 

 店内に入ると彼女と店員の男がこちらを見た。どちらの視線も冷たくきついものだった。

 すると、店員の男が僕の方に近づいてきた。歳は僕と同じか少し上か。明るい茶髪と遊んだ毛先と女遊びに慣れているようなイヤらしい見た目の男は、険しい表情で僕を威嚇するように立ち塞がった。


「警察呼んだから、そこにいとけよ」


 目まぐるしく変わる状況の変化に脳が追い付かない。

 警察? 何の為に? 


「立川学、っていうんだろ。〇〇大学の」


 何で、初対面のこいつが僕の名前を知ってるんだ?

 

 ーーねぇ、美山さん。


 君、こいつの何なの?




  

 そこからの記憶は曖昧だった。確かしばらくして警察の人間が何人か来て、僕に何か言って、そのまま腕を掴まれて、そして、そして――。


「彼女相当怯えていたよ。君に」


 彼女。美山さん、の事だよな?


「何でストーカーなんてしようと思うかね。理解できんよ」


 それは警察という職とは関係なく、個人の感情として吐き出されたように聞こえた。

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