プロローグ
「春、出会いの季節。」
そんな言葉を、私はよく聞く気がする。
自分にとってはそんな言葉、特に興味は湧かない。そそられもしない。
恋も友情も、何もかもが、私にはどうだっていいのだ。
朝。今日は成人式の日だ。
人生に一度しかないんだから、と、母と祖母にぐいぐい押されたため、嫌々準備する自分。
振袖とかはどうしても息苦しく感じるし、スーツはスーツでも堅苦しく感じてしまい、どっちも嫌だ。
「ラフな格好じゃダメなんかねぇ…はぁ…。」
ぶつくさ1人で文句を垂らしながら着替える中、スマホにメッセージが届いた。
スマホを見ると、そこには「ひまわり」という名前がでていた。
[しゅうごうじかん]
[10時半]
[おまえんち]
[いく]
一つ一つ区切られた言葉が送られることによって、通知音が何度も部屋中に響き渡る。
「………うるせぇ。」
私は既読だけをつけて、またぶつくさと文句を言いながら身支度を進めた。
朝ごはんを食べ、母に髪を整えてもらう。
結局、成人式には振袖を着ることになった。
朝に食べたご飯が帯によってお腹を圧迫し、なかなかに苦しい。
「ほら、もっと姿勢正して!」
「ぐえっ…」
母に肩をぐいっと後ろにひかれ、帯がさらに締まる。
苦しい…
準備を済ませ、玄関に向かう。
履き慣れない草履を履き、姿見で着飾った自分を見ては、恥ずかしくなる。
その気持ちを振り払うように、私は家族に向かって言う。
「行ってきます!」
これは私、「桜井 春香」が、
果てのない心の闇が取り除かれるまでの、
長い長い一年の始まりである。




