第六夜『traveler』
この場所には、何度か来た。
新しくて広々とした、大きな駅。
昼間だけれど、人はたくさんいる。
まるで迷路みたいで、案内をよく見ないと迷ってしまいそう。
方向音痴なのは、こっちの私も同じだ。
前に来たときの記憶をたどりながら、ホームに向かった。
長い長いエスカレーターを下る。
上りと下り、それぞれ二本ずつあり、どれも人がたくさん乗っている。
ホームに降りて、私は『正しい電車』かどうか確かめる。
正しい行き先に向かう、私が乗るべき電車。
けれど、私がこれからどこへ行くかはわからない。
どこへ行くかわからないのに、私は『正しい電車』に乗らなきゃいけないきがして、目の前に止まっている、赤いラインの入った電車で正解なのか不安になる。
そして私は、どうしてここに来たのかすらわからない。
わからないけど、見えない何かに突き動かされるように、使命感のようなものに駆られてここへ来た。
ずっしり重たいリュックサックと共に、ただひたすら遠くへ。
座席に座りながら、窓の外をぼんやりと見る。
知っているような知らないような駅をいくつも過ぎ、電車はだんだんゆっくりと走るようになった。
人の乗り降りは少ない。
この電車に、あの人たちはいない。
またいつか、どこかで会えたらいいのに。
もう一度会って、話ができたらいいのに――。
電車は徐々に山の中へ。
ゆっくりと、緩やかなカーブを曲がる。
終点に着けば、私はきっと自由の身。
知らない場所へ行くのはちょっぴり不安だけど、やっぱりわくわくする。
素敵な場所だといいな。
私はどんどん遠くへ行く。
どこまでも、ひたすら、遠く、遠く――。