第二夜『delay』
世界を進める歯車が、音もたてずに加速する。
私はそれに追いつけず、遅れをとっては戸惑うばかり。
流転するこの世界の中で、私は必死にもがき続ける。
求めるように、溺れるように。
だけどなかなか追い付けず。
私の中のリズムだけが、時間とともに崩れてゆく――。
遅刻する。
いつもどおりに動いていたのに。
寝坊なんかしていないのに。
壁掛け時計に目をやると、もう八時。
バターを塗ったトーストに、ウィンナーとサラダを急いで食べる。
そしてそれらを、牛乳で流し込む。
そんな暇もないはずなのに、体が言うことを聞かず、他のことができない。
既に八時過ぎ。
授業中に一人息を切らしながら、悪い意味で、クラス中の注目を浴びるのか。
そして席に着く間もじろじろ見られて、影でひそひそ笑われて。
クラスの『優等生』のイメージにも傷がつく。
こんなことになるくらいなら、いっそ体調不良で休みたい。
それでも親は「行きなさい」と言い、休ませてくれない。
いつも通り身だしなみを整え、荷物をまとめる。
焦る気持ちに、体が全然追い付かない。
寧ろ、早く動こうとすればするほど、体がもつれて余計に遅れる。
時計を見ると、既に十時過ぎ。
二時間目まで、終わってしまった。
そして、髪をとかして全ての準備が終わった頃にはもう一時半。
今から行っても意味がない。
私は絶望的な気分になった。
もう嫌だ。
寝坊もせずに、いつもと同じように動いていたはずなのに。
今まで遅刻なんかしたことないのに。
世界を進める歯車が、私を置いて加速している。
世界が速く進みすぎて、いつも通りに動いていても取り残される。
あまりに残酷だ。
私は泣きたい気分になりながら、玄関に向かった。
私を置き去りにして速く進む世界を、恨めしく思いながら。
ドアに手をかけ、『外側』に出た。