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5. ポンコツ聖女は、回想の中で恋人スライムを召喚する

 ここは賑わいのある城下町。

 人通りは多く、露店が並び活気にあふれている。

 特徴的なのは人間とモンスターが互いに争うことなく生活していることだろうか。


 オークと人間が飲み比べをしている平和な光景(勝てるわけないから、やめておけ?)

 茶屋では、おばあちゃんとスケルトンがお茶屋でのんびりとお茶をすすっている。

 武器屋では、大型のモンスターが扱うための巨大なこん棒をしげしげと眺める人間の姿。



 この街では、当たり前のように人間とモンスターが隣り合って暮らしているのだ。



 ここは、勇者と魔王の夢が詰まった土地だ。

 人間とモンスターが何気ない商談を当たり前のように行う景色は、たしかに願いが叶い始めてきた証とも言えるだろう。


 


「何度見ても感慨深いよ。おめでとう、勇者!」



 勇者・デントリア。

 何も彼は、最初からモンスターに心を許していたわけではない。

 モンスターと人間は、もしかすると争わずに一緒に暮らせるかもしれない。

 シルフィーは街並みを見ながら、勇者がそう気が付いたきっかけとなる旅の一幕を思い出していた。




◇◆◇◆◇


「なんでモンスターと争ってるんだろうな……」


 膝の上に乗っかったスライム(雌)を撫でながら、しょんぼりとこぼす勇者。

 ちなみにそのスライムは、シルフィーが朝一の恋人ガチャ(HN)で引き当てたモンスターである。


 スライムは随分と勇者に懐いていたものの、シルフィーには謎のライバル心を持っており。

 シルフィーが近づくと「フシャーっ!」と全身をプルプルさせて威嚇した。

 一方のシルフィーも「何よ!」と威勢のいい声を出し、スライムを睨み付ける。


 そんな間抜けな光景を見て「スライムと同レベルの争いするなよ……」と勇者が呆れながらぼやく。

 モンスターと一緒にいるくせに、なんとも間抜けで平和な光景である。




 それからしばらく経ち……



「いや~~。そのスライム連れていくのっ!」

「あ~、もう。鬱陶しい。駄々をこねるな、面倒くさい。

 こんな小さなスライムに、ここから先の戦いは無理に決まってるだろう」



 すっかりスライムと仲良くなってしまったシルフィーは、勇者に連れていっても良いかとおねだりした。

 しかし勇者は、スライムの今後を考えて拒否する。

 勇者の手で「群れに帰りな」と放逐されたスライムは、ぷるぷると巣に帰って行ったのだった。




 毎朝の恒例行事とも言える「恋人ガチャ」から生まれた日常の一幕。

 しかし、この経験は勇者の中にあった「モンスターは皆悪いもの、見つけたら倒さないといけない」という価値観を大いに変えた。

 人間とモンスターが共に暮らすための輝かしい道のりは、その瞬間から踏み出したと言えるのかもしれない。




 ――そう考えると、私の功績じゃね?


 人間とモンスターが共に生きている街並みを眺めながら、シルフィーはくだらないことに気が付く。

 ……偶然の産物とはいえ、あながち間違いでないのが腹立たしいところだ。




◇◆◇◆◇


「ヴィルフリート王子。婚約破棄なんて、あんまりですわ……」


 そんなくだらないことを考えながら歩いていると、シルフィーは城下町の片隅で涙を流す令嬢を見つけた。

 長い距離を歩いてきたのか随分とボロボロにはなっているが、着ているドレスは品が良く身分が高いことを伺わせる。

 厄介事の臭いをかぎ取ったのか、誰もが遠巻きに見守るのみ。


 シルフィーも距離を取ろうとして――



「あれ? もしかしてミスティーユ様ではありませんか……?」

 

 その令嬢が、隣国の公爵令嬢――ミスティーユであることに気が付く。

 彼女は隣国のヴィルフリート王子の婚約者であり、将来は王妃の身分を約束された高貴なお方である。


「何故このような所にいらっしゃるのかしら?」


 モンスターと人間が住み始めたばかりのこの街で、彼女を知るものは殆どいない。

 しかしシルフィーは、彼女のことを一方的に知っていた。

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