⑦
護衛として右黄が傍にいる。凄く珍しく、今まで隠れて守られていたのに、こんなふうに堂々と傍にいるなんて不思議に思えた。昔の事を思い出していると再びよろけそうになった。
『危ないですよ』
咄嗟に私の体を抱きかかえると、右黄の髪が頬に当たった。吐息も感じる程に近づいた肌に緊張しない人などいないでしょう。自分の体温が少しずつ上がっていくのが分かる。両手で軽く右黄の胸元を押して『大丈夫だから』と答えると、溜息を吐く音が聞こえる。
『お疲れでしょう、部屋までお供します』
「大丈夫よ……私は」
『そうやって無理するのは悪い癖ですね。少しは頼ってほしいものです』
「ありがとう」
言い出したら聞かないのは右黄も同じ。私と似ている部分があるからこそ、ここは素直にお礼を言うべきだと思いました。口角をあげ、口元で微笑むと、なんだか右黄の匂いが変わってきた気がしたのです。
「どうしたの?右黄」
『えっ?』
「急に香りが変わったから、何か嬉しい事でもあったの?」
『……』
触れた肌から右黄の熱が伝わってくる。私の熱が映ったのかもしれないと思うと、なんだか恥ずかしい気持ちになった。気のせいかもしれないと自分に言い聞かせながら、頭の中で振り払う自分がいる。
「なんでもないわ、連れて行ってくれるんでしょう?」
今の自分は唯我様にも独尊様にも会わない方がいいと感じた。今回のは普通の喧嘩なんかじゃない。それも朝あんな事があったから責任を感じているから、今は距離を置きたいと考えていた。私の考えを見抜くように、ポツリと優しい声が聞こえたです。
『今日はお傍にいますから、どうか他事は考えず、姫様は自分を大切にしてください。あのお二人が姫様にとって特別な存在なのは分かっていますが……感情に溺れた二人の弱さで泣いてたではありませんか。落ち着くまで、私が支えますので』
感情に溺れた弱さ――お二人は強い、でも私の事となると見境なくなるのは事実かもしれません。いくら妹のような存在として大切にされていても、このような事が続けば、私も今日以上に口にしてお二人を止めないといけない。そう決意しながら、着物の上から忍ばせてある懐刀に手をかけ、息を呑む。
「ありがとう、でもね右黄。私は貴方が思っている程弱くもないの。だからもし今日みたいな事があったら貴方がしたように全力で止めるから安心しなさい。目が見えなくとも、止める事は出来る」
『……姫様が動く事のないようにわたしめがお守りします。いくら清水様の後継者と言われど、貴女は視力が……』
「心配してくれるのね、ありがとう。でも大丈夫よ」
清水……懐かしい名前を聞くと、ばあやの事を思い出した。
「ばあやは元気にしてる?」
『はい。姫様の事を待っていますよ』
「そう……」
ばあやの手の温もりを思い出しながら、体制を整え、再び歩き出した――