⑥
私の手となり足となる影の存在。私を含め唯我様、独尊様しか知らない存在。右黄が表に出てくる事は珍しく、冷静な一言で二人の動きが止まる。忍びの中で一番の腕を持つ彼を誰も敵にまわしたくないとお考えでしょう。
唯我様は荒くなった息を整えながら、右黄を睨みつけ、鼻で笑いました。
『……冷めたわ。今日の鍛錬はここまでだ』
その言葉を耳にして、ほっと息を吐くと安心したのか、足元がぐらつきました。腰を抜かしたのかもしれません。いつもなら平気なはずなのに、大切な二人が殺傷をしてしまう場面に遭遇すると、正気ではいられないのが本音。
潔く引き下がる唯我様は、くるりと背を向け、何もなかったように歩き出しました。一方独尊様は溜息を吐きながら、右黄に問いかけたのです。
『そんなに実名嘉が大切か?』
凄みを持った瞳の奥に屈する事もなく、右黄は真っすぐ体制を整え直し、正面を向きます。怯む事もない彼の姿は勇敢そのものでした。
『姫様をお守りするのがわたしめの仕事。傷つけるのなら例え貴方でも許しません』
『……そうか』
『姫様の元へ戻るので、ご免』
いつも私の事ばかり考えてくれる右黄の存在。弟が出来たようで凄く嬉しいのですが、どうしてだか独尊様は右黄に対してよく思っていない様子。私はその事に気付きながらも、私の影武者として動いてくれている彼をぞんざいに扱う事も出来ない。
幼き頃から私の傍で影として守ってくれているのだから――
『……お前にとって右黄は……』
鞘にしまったその手には感情を握りつぶすように拳を握る独尊様に気付く事もなく……