④
怒号は部屋中に響き渡り、独尊様を夢の中から揺り起こす。
『……うるさい、唯我』
『うるさいとはなんだ、独尊。女の所に上がって、いい身分だな』
『別にお前に関係ないだろう』
『黙れ』
相変わらず、私を抱きしめる手を緩める事はない、そのままの体勢で唯我様をヒラリとかわしていく。言葉の刃にも近い、彼の感情を……。
「落ち着きましょう、きちんとお話をすれば……』
諭すように提案すると、唯我様は黙れの一点張り、独尊様は私を守るように、より強く抱きしめる。まるで唯我様には渡さないという意思のように。
『いつまで抱きしめている、その手を離せ』
『嫌だね』
『なんだと』
逆なでるような態度にハラハラしていると、それを察知したように、耳元に独尊様の声が降りかかる。
『大丈夫だから安心しろ』
優しい口調と、耳元にかかる息に頬が赤くなり、硬直してしまう。
(私はどうすればいいのでしょうか)
心の声は身体の中で消化され、いつの間にか消えて行った。
体と精神は繋がっていて、心の乱れは鍛錬にまで影響を及ぼす。話の通じない唯我様は痺れを切らしたように、私の部屋から出ていき、二人取り残された。まだ眠たい独尊様は、少しの間、私の身体に身を寄せ、眠りに堕ちていった。
「もう起きませんと、鍛錬に遅れてしまいますよ?」
『……ああ』
クスッと、笑っていると子供の頃をふと思い出した。
(昔から変わりませんね、本当に可愛らしいのですから)
先ほどまでの緊迫した空気は薄れて、穏やかさだけが佇んでいた。