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煉獄記  作者: 法蓮
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不思議な人

 涙は枯れて灰になる、私の心はいつまでも何かを求めていて自分でもどうしようもない感情を抱いてしまうの。しがらみから逃げたいだけなのかもしれない、もしかしたらまた別の理由かもしれない。何が原因でこんな気持ちになっているのかよく分からないけど、心は理解しているようで少し安心していた。


 (私の名前は実名嘉なのよ、紅蓮なんかじゃないわ)


 色々考えてみるけど、どうしてもその答えに辿り着く。私は私、他の誰でもないのだから。例え母の呼び名を受け継ぐ立場であっても、納得出来る訳ない。


 ため息を吐きたくなくても出てしまう、何度も何度も。ばあやの言葉が頭の中をグルグル回っていて吐きそう。


 『紅蓮様、今日の所はお帰りになられては?』

 

 助け船を出してくれたのは才華だ。私の表情を覗き込みながら言葉を紡ぐと、ふんわりと微笑んだ。俯いていた私は顔をあげ、コクリと頷く。そんな事しか出来ない自分が情けなくも感じた。


 「ありがとう……今日は帰りますね、話の続きは後日」

 『……』

 

 ばあやは私の言葉など聞こえていないよう。無言でただ流れに応じているような感じがする。私は才華に助けられたのだろう。彼女がどのような人間なのか掴めていないが、これだけは言える。


 きっと才華もこの関係性に疑問を抱いている私と同じ立場の人間だと。自分がそう思いたい気持ちが大きいからかもしれない、それでも彼女を纏う空気がそう伝えてくる。


 『お送りしますね、実名嘉(・・・)様』

 「ありがとう」


 私達はばあやの厳しい視線から逃げるように、部屋を出て行った。一刻も早く唯我様独尊様の元へ帰りたいと思ってしまったのだから。


 「ごめんな? 才華」

 『いいのですよ、ああなるとばあやは引きませんから』

 「……仕方のないことさ」

 『その話し方でなくてもいいのですよ? 今は男装をしているから出来ませんが。実名嘉様としてお会いになった時はそのままの貴女様で』


 ジンと心の中を癒してくれる。自分の居場所がないように感じていたのに、才華の言葉は不思議と落ち着く。まるで術を使っているようだ。そういえば聞いた事がある。言霊を使って人を操る優秀な忍びが清水六花集の中にいると。本当かどうかは謎に包まれているが、もしかしたら才華がそうなのかもしれないと感じてしまう。


 彼女の言葉は薬でもあり、毒でもあるように思うから──


 ばあやもいつもなら何かを私に言うはずなのに才華に気を使ってか重要な言葉は言わないようにしていた気がする。余計な言葉は無言に切り替えて情報を最小限にしているような。


 私は複数の想いが混ざって彼女に言葉を渡す。


 「不思議な人ね」



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