三話「ファースト・エンカウント」
とある、6月入りした初夏の事。
気温も変わり始め暑さに苛まれる中、地元である明星駅付近の公園にある噴水広場に俺はいた。
「あっついなぁ…」
まだ初夏入りだというのに気温は27度、テレビでは春に近い気持ちの良い日差しで半袖でも過ごしやすい一日になるでしょう!とか言ってたけどさ。
「まんま、夏なんだよなぁ」
結局、あのサリシクイネオンラインでスゥに「とうくん、こないの?」って言われた下りの後、颯爽と消えた紗癒さんと奈菜さんに反して、2人して30分位ログアウトボタン探しに格闘して…
ログアウトできたと思ったらキーボードに伏せて寝てたらしくキーボードが涎塗れだったりで手入れして…待ち合わせに備えて慣れもしないのに所持してる服でお洒落とか…髪のセットとか…
何て言うかね…
「疲れた」
チラッと時計を見ると、午前9時48分
俺の、人生のタイムリミットまで後12分だ!
「ふへぇ…」
いつもなら、家で早起きしてEFOしてる時間何だけどさ本来のサリシクイネのログアウト出来る時間より早いらしくて無駄に早く起きちゃったんだよ。
まぁあの場所での会話中ずっと寝てたっぽいから、目覚めすっきり何だけどさ。
しかもオフ会とかした事ないから、怖いけど…内心逢えるのが楽しみだったりして家も早く出て今こうしてるって言う、コミュ障は複雑だよね。
けどネカマとか多いし、来た人が皆ムキムキのおじさまだったらどうしようとかとか…
「ん?」
なにやら視界の先が騒がしい。
何かあったのかな。
「いいじゃん、一緒に行こうよぉ~」
「・・・・・・」
何か3人グループが小柄な白いワンピ―スと帽子を被った女の子を取り囲んでる
今時いるんだねあーいうの。
ってか露骨に女の子嫌がってんじゃん。
「お前らやめろよ」
柄にもなく、咄嗟に体が動いてた。
「あ?」
うん、昨日の哘さんの方が怖いや。
「明らか嫌がってるだろうが」
「お前には関係ないだろうが!引っ込んでろ餓鬼」
当然なんだけど周りからの視線と、嫌がってた女の子が目を丸くしてる。
まぁ実は、こんなこともあろうかと…タラララッタラー☆模 造 刀☆×2
いやさ、名前からしてオフ会相手は皆女性なの分かり切ってるんだけどさ、ほら万が一おじさま♂だったら怖いから準備してたんだ。
まさか、役に立つと思わなかったけど。
「さぁ、やるなら来い!」
どこぞの野球ゲームで表すなら、センス×が付きそうな俺が二刀を構える。
「武器を持ち入るとか、とんだヘタレだな!」
何とでも言えやい!
龍〇如くでも武器使ってるもん!危ない相手に立ち向かうなら必須でしょ!
「おらぁぁぁ!!」
絡んでいた男の一人が俺に殴りかかる。
よし、いつものアルカ・フォシルのパターンを思い出すんだ。
①先ず、左刀で相手の攻撃を流す。
②その次に、右刀でスキル「フェイタルシフト」を使う。
これは左手の刀と右手の刀を瞬時に入れ替えることができるスキルだ。
③そしてそのまま、右手に持ち替えた防御寄りの左刀で相手の胴にスタン攻撃を入れる。
④「そして最後に、右手から左手に持ち替えた攻撃寄りの右刀で峰撃ちを決める」
うむ、我ながらヴィジョンは完璧だ。
「おらぁぁぁ!!」
絡んでいた男の一人が俺に殴りかかる。
「まずは…左刀で受け流す…」
よし、殴りは受け流せた!これがへっぴり腰スタンス!!
次はフェイタルシフトだ!
ってかさ、今更思ったんだけどさ。
どうやって両手の武器を持ち替えるん?
ジャグリング?
「いや、そもそも同じ刀だし!」
そうだよ、両方同じ模造刀なんだからまんま一緒じゃん。
「何を、ごちゃごちゃ言ってやがる!」
受け流された左手とは別で右手から今度はストレートが飛んでくる。
「このまま、スタン攻撃だ」
このストレートを掻い潜って腹部にスタン攻撃を…
と思ったけどさ、ただの体当たり(スタン攻撃)なんだよね…だって模造刀危ないじゃん?あざにでもしたら後で怖い人たちいっぱい来そうじゃん?
けど、やらないよりはましだ!思いきりスタン攻撃(笑)をしかける。
瞬間。
うん、結論から言うと突っ込んでる最中に真正面から顔にストレート喰らいました。
「うぐっ…!?!?」
何か、意識がね遠のいていくんじゃーあれだよね心がピョンピョンするんじゃーと同じ感じ。
わぁ、お花畑の向こうにスゥが見えるよ。
これが走馬灯か、俺…走馬灯でもネトゲキャラ見てるのか~頭お花畑~
「この人、痴漢ですー!」
スゥの声で痴漢って叫び声が聞こえる。
違うよスゥ、確かにやましい気持ちは2割くらいあるけど。
俺は、痴漢じゃないんだよ。
そんな事を思いながら、薄れた意識が徐々に回復していくのを感じた。
「とうくん…とうくん…」
俺の胴体を揺する感覚と…
あぁ~耳元で癒しボイスが聞こえるんじゃぁぁぁ。
とかそういうのじゃなくて。
意識が徐々にはっきりしてくると、視界に先ほどの絡まれていた少女がいた。
「よかった」
「ん…えっと…?」
周りを見てみると、先程の3人グループが警察に取り調べされてる。
「もう、大丈夫」
少女から、安堵の笑顔が向けられる。
やばい、天使がおる。
「えっとさ、さっき俺の名前…」
「とうくん…だよね?」
キョトンとした顔で少女が問いかける。
「あ、はいそうです」
「??」
不思議そうな顔で、少女は立ち上がると。
「これで、わかる?」
人差し指を立てて俺に掌を突き出す。
「ま し ろ りぴーとあふたーみー」
(`-ω-)…
(´-ω-`)…?
(´゜д゜`)・・・・・!?!?
「え、えええええ、ましろ…って事は君がスゥ?」
「うんうん」
いや、サリシクイネで本名出た時に女の子なのは分かっては居たけどさ…EFOはキャラメイクが凄い細かく出来るからというか…スゥの生き写しと言うか…
あぁもうだめだ驚き過ぎて言葉にならない…ゲームだったら絶対に…混乱と狂気と沈黙デバフ付いてるわ。
「へぇ、君がとうくんかー」
「!?」
そんなやり取りを他所に。
突如、背後から聞こえた声に振り返ると、中腰でにこっと笑顔を浮かべる女性と少し不服そうな顔をした女性がいた。
「こんにちわ、とうくん」
ってか何か不服そうにしている方の女性に何処かで見覚えがあるんだけど…
誰だっけ…
「えっと、どちら様ですか?」
「あれ、分からない?一緒に暗号解いた仲なのに…お姉さんは悲しいよ」
(^ω^)…
(´゜д゜`)ふぇぇ!?!?
「えっと、奈菜さん…ですか?」
「そうです、私が奈菜さんですよー」
口調がゲーム内と全然違う!
ネカマなんかよりある意味、詐欺だよ!!
「じゃぁ…隣の人は…」
「紗癒さん?…」
「…チッ そうよ」
舌打ちしましたよこの人!初対面何ですけど!
「なんか待ち合わせの時間に来てみたら面白い事になってたからさ
、無言で見ちゃった」
てへーと奈菜さんがニコニコしながら言う。
うん、野郎だったら怒るところだろうけど可愛いから許す。
「けど、それにしても見事なやられっぷりだったわよね、模造刀を2本も使ってた癖に」
「め、面目ない」
「けど、何にせよ無事に皆会えたから良かったよね」
無事とは一体何だったのだろうか。
「とりあえず、立ち話も何だし近くの喫茶店でも行きましょうか」
「そうね」
「はい」
「(*'ω'*)b」
笑顔を浮かべる奈菜さんに連れられ、俺たちは最寄りの喫茶店に入った。
††††††††††
店内に入ると、コーヒーや紅茶の落ち着いた香りと…俺達を迎えてくれ可愛いメイド風の女の子が…
ん…?
何でメイドがいるの?
「おかえなさいませ~ご主人様♪」
数名の可愛いメイドさんに迎えられた。
「あの…奈菜さん?喫茶店で集まるんじゃ?」
「喫茶店じゃない?」
「いや、あのメイドさんが居るのはなぜですか」
「メイドっ気の強い喫茶店だよ?」
そこで【メイドカフェ】ってならない辺り間違いなく、これ何言ってもダメな奴だ。
「冗談じゃないけど!冗談!メイド喫茶に見えるけど、店員さんの制服がメイド服なだけで普通の喫茶店だよ」
今、じゃないって言ってますよ先生。
確かに、回りを見回しても定番な「○え萌○キュン?」とかみたいな事してる人はいない。
お!可愛いメイド店員さんと目が合った!
「ぐふぉっ」
すかさず、隣にいた腹部にスゥの高速ストレートがヒットした。
「何してんの?」
汚い物を見る様な眼差しが紗癒さんから飛んでくる。
哘さんより怖いよ。
「いや、何でもないです…」
「ほら、皆!右奥の個室にいくよー!」
っと、いつの間にか奈菜さんが受付を終えて手招きしてる。
「そうだ!とうくん!メイド服の貸し出しコスプレサービスもあるらしいよ!」
「っ!」
いや、スゥそこに反応するのお前と違う。
「だ、大丈夫ですっ」
「えーーー残念」
「(´・ω・`)!?」
何で!?みたいな顔をスゥと奈菜さんに向けられながらも俺たちは個室に入った。
††††††††††
入るなりもう決まっていたかの如く俺の右にスゥ、俺の正面に紗癒さん、スゥの正面に奈菜さんと席に腰掛ける。
「おー思ってたよりも普通だ」
「喫茶店なんだから当たり前でしょ」
いや、まぁそうなんですけど。
内装は、こう言葉にするとパッと浮かばないけどモダンアンティーク?的な何かお洒落なテーブルと椅子が並んで、良い感じの雰囲気なんだけど。
ただね、紗癒さん。
「紗癒さん、これは普通なんですかね…」
「ごめん、あたしが悪かったわ」
初めて、紗癒さんと共感できたよ!
そこにあったのは、照明…なのだろうけど…何故に…
燈籠…?
「最近の喫茶店って変わってるんだね~」
あの、あなたが連れて来たお店ですよ。
それに普通の喫茶店はこんな天井から机まで伸びてる様な燈籠は使いません。
「とうくん、とうくん」
「ん?」
突然スゥが席を立った。
そして身体で、何かを表す。
「えっと…T?」
何で急に始めたのか意図は分からないが。
「O?」
「U」
あー、察し。
3文字目を終えた直後急に機敏になるスゥ。
KUN!
「TOUKUN!」
ちがう!それじゃなーい!望んでも無いけどそれじゃない感がぱない!
ってかNできてないし!口で言ってるし!
明らかに3文字目まで俺を含めた3人は、なるほどーってなってたじゃん!
「ふふふー(`・ω・´)」
そして何故どや顔なのか。
小さく胸を張りそのまま、何事も無かったかの様にスゥは席に戻った。
「さて、落ち着いたところでまず皆で自己紹介しよっか」
「はーい」
「では先ず私から」
ボーイッシュな格好にポニーテールひらひらとさせながら、奈菜さんが席を立つ。
「えーこほん、改めて初めまして!星光大学2年、北杜 奈菜って言います!EFO内ではナノンってキャラでセイクリッドフリューゲルしてます!」
「おぅ、奈菜さん大学生さんだったんですね」
「うんうん」
「星光大学って明星から1時間半位かからない?」
「それ俺も思いました」
「今は、ちょっと色々あって実家のある明星に帰って来てるんだー」
てへーと可愛らしい仕草を取ると奈菜さんは再び自己紹介を始めた。
「趣味は、読書とかスポーツ、楽しみはネトゲ金策」
3次元に生きてるなーと思ったら最後で全て帳消しになったぞ。
「多分、一番年上になっちゃうけど…年齢は気にしないで仲良くしてね!」
パチパチパチとお辞儀をする奈菜さんに拍手が飛んだ。
「そしたら次は、あたしね」
2番手の紗癒さんが席を立つ。
「明星高校2年 白鷺 紗癒」
同期キタ━(゜∀゜)━!
いや、というより…本名公開された時の聞き覚えはやはり間違っていなかった。
明光高校、白鷺 紗癒 俺の学校の茶道部副部長だ。世界って狭いね…
「EFOではクレアリムってキャラでエア・イグレットとランド・イグレットを分けてやってます」
「趣味は、EFOと茶道」
「へー茶道してるんだね~」
「家柄の絡みで小さい頃からやらされてただけだけどね」
もじもじと少し照れくさそうに言った。
けど、茶道って慣れても難しいって聞くし凄い事だと思う。
「あと…あまり人と絡んだりしないから、勘違いされがちだけど」
「その…別に怒ってるわけじゃ無いから…よろしく」
>上手にデレマシター<
ツンデレって良いよね、うん。
ってか、典型的なソロプレイヤーの有様と言うか何というか。
コミュ障とは言う程では無いんだけど、ネットでは普通に話せてリアルでも話せはするんだけどリアルだと普通に話してる言葉が、他の人から見たら嫌そうに捉えられてるとか。
あるあるだよね。
「ほら、次あんたよ」
紗癒さんから指名が入った。
「おうぃぇ」
言われるまま、席を立とうとした時だった。
「おう?」
何か右腕に、白い女の子がおまけでついてきた。
いや、ついて来たというよりシガミツイテル。
「あの、ましろ?俺の自己紹介だから」
(´゜д゜`)ハッと察した様にスゥが右腕から離れる。
いや、抱き着かれてて悪い気はしないんだけどね。
「えっと…」
やばい…いざ本番になると…考えてた言葉が頭から抜ける。
けど何故かさ?右側からさ?異常な程の期待の眼差しと言うかキラキラした目の持ち主がですね?見つめてくるんですよ。
「・.*:+:(*・ω・*):+:*.・」
畜生!これは…やるっきゃない!
「明星高校2年の叶植 刀です!」
「EFOではクロムってキャラでアルカ・フォシルをやってます!」
「あんた、本当にアルカ・フォシルなのね…」
「昨日もそうでしたけど、そんなおかしいですかね」
「私もマゾ過ぎて、やる人が少ないって有名だから少しびっくりはしてるかな~」
そんなマゾいかなぁ…他と変わらない気はするけど…
えっと。
「趣味は、低確率レア装備を掘ったりすることです!」
(`・ω・)←スゥの現在
↓
「後は、魔法を受けて武器の魔法属性を上げたりすることも好きです!」
↓
(;・∀・)
↓
「他にもいっぱいあるんですけど、一押しと言ったら大量のMOBを釣ってカウンターを取ってDPSの特殊ボーナスを稼ぐのも…!」
↓
(´・ω・`)
「あんた、生粋のマゾね」
あれ?
「盾職の私でも中々言えないなーw」
おかしいぞ。
「(`-ω-)とうくんはM」
何か物凄い皆に引かれてる!
「いやいや、EFOだと皆そんな感じじゃないですか?」
「どんな特殊性癖よ」
「ほら、フリューゲルだってカウンター火力スキル多いですよね!」
「確かにあるけど・・・さすがに一応盾職だから火力は出ないよー」
「まず火力職でカウンター攻めってスタイルが珍しいと思うわ…」
「けど、スゥは俺のスタイルに何も言いませんよ?…なぁスゥ?」
「(`-ω-)しゃーらっぷ!」
「黙れ言われた!」
「今のはスゥちゃんが正しいね」
「いや…けどフォシルだとステ係数が他より低いんでそういう戦い方になるんですよ」
本当に、アルカ・フォシルは多彩な戦闘スタイルが出来るんだけどその反面で体力とか基礎ステが他より伸びにくいからさ。
他のランクアップジョブの最上位がカンストLvの150でHP30k位あるとして…150にしたフォシルは20kですよ…?
「だからまずアルカ・フォシルを使ってるのがマゾだって言ってんのよ!」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?
当たり前だけど今まで思ってても口に出来ない様な事言われた!
お、俺のハートにジャストミートだじぇ…きつい意味で。
「アルカ・フォシルする為に強化とかでお財布が火を噴いた人が多いって聞くよね…」
無課金でやると地雷だって言われる様な職業ですから。
なんとこの職業!今強くなるならお値段なんと○十万円!
ジャ〇ネットもびっくり、何か言ってて悲しくなってきた。
「先生、俺のライフもうゼロです」
マイナス表記が入って良い位のダメージっす。
哀れみの目の集中砲火がでもう目すら合わせられない。
「まぁドM思考なのは、置いておくにしても剣を9割集めてるのに変わりないし」
「そこは称賛するべきだね!」
フォローがもうフォローじゃないよ!
集めた事がドM思考にしか捉えられないよ!
「とうくん、とうくん」
「うぅ…」
落込む俺に、スゥが背中をトントンと叩き慰める。
「これでも飲むのです」
差し出されたのは…
タバスコ。
なるほど…冷めた俺の心に熱くなれ…そう言う事か…
「(`・ω・)b」
ただね…
「スゥ…タバスコは飲みものzy…」
「(`Д´*)っましろじゃぁぁぁぁ」
突っ込む間もなく、名前に不服なスゥからストレートがジャストミート。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
きれーいに鳩尾を狙ってくるんです。
「ま…しろ…」
俺は、真っ白に燃え尽きたぜ。
あ、駄洒落じゃないよ。
「な…何はともあれよろしくお願いします…」
鳩尾のダメージを抱えながら、軽くお辞儀をする。
「うんうん」
「まぁお金の為にもササッとサリシクイネ終わらせないとね」
「(=゜ω゜)b」
おかしいな、まだ数分しか経ってないのにダメージの方が大きい。
だけど、ダメージを気にしてくれてるのか終わった後は後でスゥが腹部をよしよしってしてくれてる。
飴と鞭ってこういう事言うんだろうね。
「じゃぁ次、えっとましろ…ちゃん?」
「あい」
ましろがまともに喋るの初めて聞く気がする。
小柄な体が椅子の横に並ぶと、ましろは小さく会釈をした。
「明星高校2年、白戸 ましろです」
「あれ、ましろも同級生なのか」
「うん」
「ってか、知り合った過半数が同じ学校って何なのよ」
たしかし。
「けど、前年に進級出来なかったから本当は3年生」
あー…
「あー…えっと…なんかごめん」
「ううん、病気で学校に行けなかったの」
同情するのは失礼だけど…普通に重い話だった…orz
「今は治ったの?」
「うんうん」
「だから実際とうくんと白鷺さんと学力は変わらない」
「EFOではスゥって名前でエインセルしてます」
「趣味は、EFO・とうくん」
「ふぁっ!?」
「ほほう…」
「へぇ…」
驚く俺を他所に、怪訝そうな顔とにやにやした顔が…こちらを…
どういうことだってばよ…
いや、ほんとどういうことだってばよ?むしろ趣味、俺って何?
五寸釘でも刺されるのかな。
「人に馴染むの得意じゃないから…色々呼んでくれると嬉しいです」
「うんうん、サリシクイネもそうだけどEFOでもリアルでも一緒にあそぼ~」
「仕方ないわね…」
「お、おういえ」
手前の出来事が強すぎて言葉が出てきません。
「ところで、ましろちゃん?」
「にゅ?」
何か…不穏な気配って当たるもので。
「とうくんとはどう言う関係なの~?」
デスヨネー
にひひ~と妖艶な笑みを浮かべながら奈菜さんが問う。
「きゅ、急にどうしたんですか奈菜さん」
「ほらっ、とうくんへのアピール凄いから何でだろうな~って」
「い、嫌だな~!俺とましろはEFOの友…」
「恋人ですっ」
(´゜д゜`)…
「ふぁぁぁぁぁ!?!?」
「ほっほぅ…w」
「あんたたち出来てたの…?いや、何となくそんな気はしたけど…」
「いやいやいや、俺たちはつい最近EFOの中で知り合って一緒に狩…」
「とうくん…?」
「え?」
ウルウルした瞳を向けながら「違うの?」的な目を向けてくる。
卑怯だって…
「いや…えっと…あの…」
「(ノω;`)ウッ」
「うっ…彼女です…はい」
「よっわww」
「(´∀`*)エヘ」
「あはははwやったね!スゥちゃん」
掌で転がされるまま気が付けばスゥがいや、ましろが彼女になってました。
「あははは…」
「こんな私ですが、よろしくお願いします」
小さくぺこっと頭を下げるましろに拍手が飛ぶ。
「とりあえず、ざっとだけど皆の自己紹介が済んだね」
「俺だけ物凄いダメージなんですが、ライフゼロなんですが」
「あんたに関しては、どんまいとしか言いようがないわ」
「とうくんどんまい」
嬉しい筈なのに、切ない。
「けど良かったよ~皆、思ったまんまの人だったし」
「皆、この辺に住んでる学生ってところもびっくりだけどね」
「うんうん」
「正直、俺はもしかしたらネカマが来るんじゃないかと」
スゥが俺の右腕にしがみ付く様にひっついて来る。
「けどまさか、皆女性だとは・・・信じてなかったわけじゃ無いんですけど」
「とうくんは絶対男だと思ってた」
しがみ付いたスゥから断言的な言葉がかけられる。
「俺が女だったらどうするんだ」
「とうくんが女でも私は、とうくん好きだよ」
何か物凄い危ない事言ってますよこの子、いや最近はそっちの方が需要が…?!
「けど、男だったから結果的に良かった」
「そう、ソウダネ」
「あんたたち、ノロケは他所でやりなさいよ」
紗癒さん!もっと突っ込んで!俺じゃもうどうしようも無いんだ!
「けど、スゥちゃんのいう事もわかるなぁ~」
「え?」
「私も、可愛い女の子とかいると、むぎゅーってしたくなるもん」
幸せそうにニコニコしながら体を捩って、奈菜さんが言った。
お…おう。
「そ、そうなんですね」
「あたしも分からなくはないわね」
この人も同類だったーーーーー!!
百合パラダイスですよ、略して百合パ。
あ、俺はリュ〇クが一番好きです。
「けど、スゥちゃんの言ってるとうくん好きって言うのはまた別だと思うけど」
「う…?そうなんです?」
「多分スゥちゃんの好きって、とうくんが優しいからとか信頼とか色々な物をひっくるめた上での好きだと思うの」
「うんうん」
「ネット恋愛とかって、最初から愛を送って気に喰わないとまた切って別の人にみたいな、要は内面を見てない人がネットじゃ多いからね」
出会い厨とかよく聞くもんなぁ。
実際、3・4割は出会い厨らしいから皆気を付けようね。
「だから、スゥちゃんの好きって言うのは、とうくんの事を知ってる上での好きだと思うよ」
「確かに、あたしも今日初めて会ったわけだけど嫌いになるようなタイプではないわね」
「紗癒さん…」
「世の中、嫌いになろうと思えばいくらでもなれるけど、嫌いになろうと思ってもなれない様な相手っていると思うの」
「それが俺…と?」
「まぁそういうことよね」
「私も、とうくんは接してて悪い感じはしないし」
「スゥちゃんもそこが好きなんだと思うよ」
何か凄く胸が熱いというか、美女3人に囲まれてハーレムで彼女が突如できて、しかも俺の評価をされてるという。
何なんだこのオフ会!
けど何だ。
悪い気はしない、ダメージの方が大きいけど!
「俺も正直、ここにいるメンバーが皆良い人で本当に安心してます」
「ネトゲオフ会、何てどうせ性別詐称してる人ばかりだと思ってたので…」
「こんな俺ですが、よろしくお願いします」
「よろしくね!」
「ちゃんと役に立ちなさいよ?」
「(*'ω'*)うんうん」
こうして俺の人生初のオフ会は幕を閉じた。
††††††††††
カオティックなオフ会から退却した午後21時過ぎの自室での事。
ベッドに横になりながら今日の事を思い返していた。
帰路が皆途中まで同じだったから、皆で帰ってる途中でいじられたり好きなEFOのMOB雑談したりとか色々あったけど…何だかんだで。
「面白かったな…オフ会」
絶大なダメージを被ったけどさ、そもそもオフ会とか危険物の塊みたいな風にしか思ってなかったから逆に新鮮だったというか。
何よりも、ましろの家が意外と近くて送って行った事とか彼女が出来た事とか…ましろの事とかましろの事とか…
今でも正直、冗談だろうと疑ってるし。
「本当に色々あったなぁ」
濃密すぎる1日で頭がパンクしそうだよ。
「ってか」
「彼女かぁ~~~」
もうね、伝わらないかもしれないけど嬉しいんだよ。
この俺がさ!ネトゲで人生が成り立っている様な俺に彼女ですよ。しかも美少女。
「ふへぇ」
しかも同級生だからね。
こういうのが知れたら親とか友達に何を言われるか…
けどまぁ…悪い気はしない。
あ!そういえば、いよいよかぁ
【サリシクイネ・オンライン】
「脳にリンクしてログインする」
あの場に、集まった事も…今から始まる事も正直にわかに実感が湧かない。
そもそも…んっ…
………
「脳死…?」
はぐらかされてしまったあの時の会話が不意に頭をよぎった。
【って事はさ、このゲームで死亡回数が増えて脳死時間が伸びると最後は…】
【現実で死にます】
「まさかな…」
ネットゲームで死ぬとか…死ぬとか
……
「んーーー」
何か考えれば考えるほど、凄いもやもやする。
「はぁ…とりあえず今日は寝よう」
やってみない事には分からないし。
それに何だかんだで疲労感がヤバい。
重くなった瞼を閉じると、気が付けば俺はそのまま眠りに落ちていた。
††††††††††
クロム「んっ」
ベッドに横になっていた記憶から刹那、いつの間にやらアリエイアの森にいた。
風景はログアウトした時と変わらない、だが昨日と違う物がそこにあった。
クロム「なんだあれ」
何かでっかい蜘蛛みたいなのが、視界の奥でドスンドスンという衝撃音を出しながら歩いている。
それこそ3m位の大きさだ。
目視すると同時に、視界の蜘蛛付近にHPの様なものが出現した。
クロム「えっと…デッドスパイダー?」
デッドスパイダーLv120
とりあえず赤い斑の様な模様がやばさを物語っている。
間違いなく麻痺とか猛毒とか使ってくるじゃん…
大体、敵の形状でどういう事してくるか分かって来るよね(MMOあるある)
クロム「アクティブじゃないよな・・・」
MMOでは、ノンアクティブ(攻撃しない限り敵視しない敵)とアクティブ(積極的にヤラナイカ♂)の2種類のMOBが居る、他にも魔法にリンクしたりする敵もいるが…
クロム「とりあえず、避けながら移動しよう」
周囲には、俺以外にプレイヤーの気配は無くMOBが溢れていた。
クロム「ってか・・・どこに行けばいいんだ」
結局、MAPの出し方も分からないし目的地も分からないし。
そんな事を思った時、ふと昨日ログアウトした時の事を思い出した。
クロム「えっと」
自身の見えてる視界で人差し指でつつく様なモーションを取ると。
クロム「あ、出た」
ログアウトやアイテム欄、装備、スキル、フレンドなど色々なメニューが現れた。
クロム「地図地図」
その中でにあった巻物のボタンを押すと。
MAPが開き現在位置が表示される。
クロム「今いる場所がアリエイアの森で…」
見てみたは良いが、なるほどわからん。
このアリエイアの森が想像以上に広いのかそもそも建物や町が表示されない。
クロム「樹海じゃん・・・」
クロム「ん・・・?」
何か後方が騒がしい。
ドドドドドドドドドドドド。
振り向くと、何故かデッドスパイダーが全力疾走でこちらに向かって来てる。
クロム「ナンカキテルンデスケドォォォォォォ」
完璧なアクティブMOBでしたー!
臨戦態勢!と言っても装備してるはずの武器が手元に現れない!
アイェェェェナンデ!?
スキルもアイテムのショートカットも何も無い。
クロム「あれ、これやばいんじゃね?」
気がつけば、目の前にデッドスパイダーの足。
サヨナラ俺の初冒険。
とか死期を悟った時だった。
クレアリム「イグレット・エアレイド!」
突如、上空から巨大な鷺がデッドスパイダーに体当たりを仕掛けそのまま跳ねのける。
クレアリム「INできたと思ったら本当だらしないわね」
背後にいたのは、紗癒さんだった。
クロム「紗癒さん!」
クレアリム「とりあえず自分の腰辺りを軽く叩いてみなさい」
ダルそうにする紗癒さんの言うとおりにすると・・・
クロム「お、おおぅ!」
ボンッ!!
なんと武器が出ましたー!これで勝てるぞ!
現れたのは、アルカ・フォシルお馴染みの少し長めの長剣が2本。
クレアリム「スキルは、メニュー見れるんだったらすぐに入れなさい」
言い終えた紗癒さんが、倒れたデッドスパイダーに駆ける。
そのまま、紗癒さんが詠唱をすると共に先ほどデッドスパイダーを跳ね飛ばした鷺が上向きになってるデッドスパイダーを掴み空中へと投げ飛ばす。
クレアリム「ゲイルブレイド!」
投げ飛ばされたデッドスパイダーの周囲に紗癒さんの唱えた魔方陣が出現し、そのまま空中で切り刻む。
クレアリム「基礎はEFOの終盤MAPのMOBと同じみたいだから気を付けなさい」
狩り終えた、紗癒さんが腰に手を添えて言う。
おおぅ、紗癒さんかっけぇ…
ってか適応力早いな。
クレアリム「下手に、攻撃喰らうと猛毒とかで速攻死ぬわよ」
あぁ、何処かで見覚えがあったフォルムだと思ったけど。
EFOで後半のデイムンドの骸淵と言うLv110~130までの狩場にいたモンスターだ。
俺もEFOでLv110になったので数回はいった事があるが、10回中10回デバフで殺されている。
適正レベルじゃ絶対ソロで倒せない奴。
クロム「了解です、色々申し訳ない…」
クレアリム「とりあえず少ししたら残りの2人も来るだろうし、あたしの鷺とあんたでヘイト持って適当に狩るわよ」
クロム「はいー」
そのままペアPTを組んだ俺たちは、デッドスパイダーを含むMOBを薙ぎ払って行く。
主に鷺を使った1名がry
クロム「うぇぇ…きっつ…」
ただでさえ、適正より高めのMOBの山とだけあってヘイトを紗癒さんの召喚PETと交互に受けて耐えているが、1発1発受けるだけで1割はHPを持っていかれる。
今はPOTがん飲みで何とか頑張ってるけど…
※POT:回復薬
ここが初期MAPって俺よりLv低い人とかどうするんだろ…
クレアリム「まぁ近接職だとどうしてもきついわよね」
クロム「EFOの後半MAPとかのデバフってやばかったんですね…」
もう本当に、麻痺に猛毒に混乱やら鬼畜な状態異常持ちが多すぎて…
クレアリム「これできついって言ったら何もできないわよ…?」
クロム「ですよねー」
クレアリム「あんた武器9割集めたんでしょう?」
うん、集めました。
けどね、EFOの武器の9割って大体Lv100までのIDで取れる物でそれ以降の装備ってクラフト装備って言う俗に言う生産シリーズが主流だからさ。
まぁじゃないとアルカ・フォシルになれる人が限られちゃうから、ある意味親切設計なのかもしれない。
クロム「俺まだLv120のエリア行けてないですし…Lv100までのIDじゃ、ギミックはきついですけど状態異常こんなに酷くないですもん…」
クレアリム「それもそうね」
とか、言いながらもデッドスパイダーを討伐。
クロム「お」
クレアリム「あら?」
何か、通常の蜘蛛の足とか言うドロップ品に混ざってファンッ!という壮大なSEと共に輝くエフェクトを帯びたアイテムがドロップした。
クロム「これってレアドロップですかね?」
クレアリム「多分そうじゃない?」
ドロップしたのは、蜘蛛の触角。
やったよレアドロップだよ!
・・・・・・で。
クロム「これ何に使うんですかね」
ってか、そもそも蜘蛛に触角はありません。
そしてもさもさしててキモイ!
クロム「何かの素材かも知れないけど…」
クレアリム「装備の材料とかかしらね」
かもしれない。
こんなもさもさした触角?を使った武器とか防具つけたくないんだけど。
クレアリム「まぁとりあえず取っときなさいよ」
クロム「お、俺いらないんで紗癒さんあげますよ」
クレアリム「渡したら殺す…」
ひぃぃ。
殺意が滲み出てらっしゃる。
ナノン「っとと、2人共もういたんだねー」
スゥ「さっきぶり」
!!
気が付くと、視界にましろと奈菜さんがいた。
クレアリム「っともう30分も狩ってたのね」
気が付けば時計が夜22時過ぎを示してる。
ってか寝てる時にしか出来ないゲームなのに時計の意味あるのかな。
ナノン「わーだからとうくんLvの117になってるんだね」
え?
あれ、本当だLv117になってる。
100を超えるLv帯で30分で2Lv上がってるって効率おかしくない?
クレアリム「あたしとのLv差があるにしても大分おかしい効率ね」
従来のMMOならPTを組んだ際に組んだプレイヤーのLv差に応じて討伐時の経験値に何十%かの減衰がかかる。
ナノン「いいなー私も上げたいー」
クロム「そうしたら、MAP見たんですけど…この辺に町見当たらなかったんで少し進みながらLv上げしませんか?」
クレアリム「そうね、町に着く頃にはこの効率ならあたしもLv130になれるかも」
ナノン「よし!皆で狩りだー!」
スゥ「(*・ω・*)おー!」