二話「アンチイズムセンチメンタル」
現実は見るまで受け入れられない。
今の俺が、まさにそうだ。
「只今より皆様の転送を行います」
というレティアの言葉の後、俺たちは見知らぬ森に飛ばされた。
「いってて…」
転送という名の上空から落とされるフリーフォール。
華麗に着地する他のメンバーを他所に、ヨ〇シーばりのヒップドロップを地面へとかました俺。
とてもいたいです…
「皆様、こちらがアリエイアの森になります」
気が付くと視界の中に、レティアがいた。
周囲を見渡すと、そこは森…森…森。
「尚、只今より現地点を皆様のセーブポイントと設定させて頂きます」
「それに当たりまして皆様のプロフィールの確認のほどをお願い致します」
プロフィール?あぁ、ネトゲのか。
そう言うと、レティアの手元に電子キューブの様な物が現れた。
なにあれ?ルービ○クキューブ?
「キャラ名:クレアリム プレイヤー名:白鷺 紗癒 」
「ちょっ!?」
先ほどの、反抗していた清楚な女性が声を上げた。
え、プロフィールってネトゲなのに本名ばれるの?個人情報がばがば過ぎない?
紗癒さんは、マジ?と驚きながらも吹っ切れたような顔をしていた。
まぁそうなるよなぁ…w
「ジョブ:エア・イグレット EFOLV:126」
あ、そのジョブ知ってる。
まぁ知ってるも何も、EFOの数十とあるランクアップジョブの内の1つだ。
ランド、エアの2種類があり、紗癒さんのエア・イグレットは名の通り空中を制す最上位ジョブなのだ。
ってかLv126って…凄いな。
EFOだとレベルのカンスト上限は150だったし。
「キャラ名:哘 プレイヤー名:不入斗 哘 」
名を呼ばれると、今度は先ほどの眼つきの悪い…そう、例のあの人が眉間にしわを寄せ反応した。
「ジョブ:ヘルシング EFOLv150」
カンスト勢降臨しました、本当にありがとうございました。
ヘルシング…、俺も深く知らないんだけど鎌を使うアサシンジョブ?って感じだったかな?ジョブの数が多すぎて覚えていません(迫真)
間違いなくPVP《プレイヤー戦》に強い職って言うのは間違いないよね。
「キャラ名:メザメ プレイヤー名:夢乃 メザメ」
「……」
可愛い容姿からは、想像できない様な鋭く細い目をレティアに向ける。
無言の威圧怖いです、はい。
「ジョブ:ドリームイーター EFOLv150」
あれれーおかしいよぉ、EFOを長年やっているけどそんなJOB名聞いた事ない。
まぁジョブの数や多彩な戦闘スタイルがEFOの売りだし、このジョブも俺が知らないだけか。
ってか、凄く興味がそそられます。
こう…マイナーというか特殊ネームとか特殊スキルのジョブって惹かれるよね。
「キャラ名:ナノン プレイヤー名:北杜 奈菜」
名を呼ばれ小さく、はい。と不本意そうに1人の女性が答える。
あ!
それは、先ほど俺たちと暗号を解いてくれた女性だった。
「ジョブ:セイクリッドフリューゲル EFOLv130」
北杜さんも、こちらに気づいたのかニコっと笑顔を向けてくれる。
今更だけどゲーム内で知り合った人のキャラ名も本名も同時に知ると呼び方に困るよね。
それにしても、セイクリッドフリューゲル…お前はダメだ!。
いや、別にダメじゃないんだけど!確かに最強の盾職だし…光魔法使えるし…魔法剣持てるし…職服可愛いし…良い事しかないんだけど!
名の通り、【聖なる翼】と名高いあの職業は、対人戦に置いても崩す事が早々出来ないのに加え職業毎の火力においてもステータスにおいても強すぎる!チートだろ!壊れ性能過ぎテラワロスwwwと公式でも2chでも有名な職業なんだ。
いやまぁ、結局俺も野良PTで世話になってるんだけどry
「キャラ名:グルメの極 プレイヤー名:水山盛太
何か凄いの来たぞ。
「ちがうよぉー、グルメのシェフだよぉ」
あぁ…そこなんだ。
どうやら、極と言う読み方が違うらしくサラミを食べながら怒る。
ってか本当に、どっから持って来たんだよそのサラミ。
「失礼致しました、キャラ名:グルメの極」
「ジョブ:マスタークック EFOLv150」
言わずもがな、料理を主体とした自身をバフ強化しまくる職業だ。
このジョブは賛否両論で、純粋に食事を取ると取った食事の効果や効果時間を3倍にするって言うバフ効果が強いんだけど、敵を食べる事で経験値を得る為にPTメンバーに経験値が入らなくて盾職にも関わらずソロプレイ推奨という協調性があるのかないのか何とも言えないジョブらしい。
つまり…彼はボッ…なんでもないです。
「キャラ名:スゥ プレイヤー名:白戸 ましろ」
( ゜д゜ )!?みたいな顔をしながらスゥが小さく手を上げる。
そしてそのまま、俺の背後に全力ダーーーーッシュ。
「|д゜=)コショーリ」
どうだ?可愛いだろう、俺の連れだぞ。
「ジョブ:エインセル EFOLv112」
エインセルは、少しだけ触れたと思うけど別のゲームで言う所のエレメンタリストって言う、火・水・土・風・光・闇の6属性を扱う魔法職だ。
言わずもがな、一部の属性以外の弱点を突くことが出来る為、PTでは必須ともいうべき火力職しかも支援スキルも多少備えている。
それに加えて、うちのスゥは猫耳付き。完璧でしょう。
尚、防御は紙な模様・・・etc
「キャラ名:クロム プレイヤー名:叶植 刀」
あ、はい!
どうも俺です、叶植 刀です。
齢は今年で17です☆。
「ごふっ・・・」
何故か背後にいるスゥに腹パンされた。
こやつ心を読みおるぞ!
「ジョブ:アルカ・フォシル EFOLv115」
「ふぁっ!?」
ふぁっ!?って俺がいいたいです。
何故か、紗癒さん・北杜さんが声を上げた。
「え、あんた・・・アルカ・フォシルなの?」
「そ…うですけど?」
「クロム君・・・君ただ物じゃ無かったのね・・・」
ちょっと言ってる意味が分からない。
「そんなおかしいですか?」
「だってあんた…アルカ・フォシルってEFOの剣系を9割以上集めないとなれない職でしょ…?」
うん、剣は集めたよ、すごく大変でした…まる。
なんせ買った装備だと、その9割にカウントされないという鬼畜仕様。
しかも装備も揃ってないのに目上の装備を色んな人に手伝ってもらって取りに行くもんだから、あの足手まとい感はもう味わいたくないよね。
「そうですね、けどそこらの剣職と実際大差はないですよ?」
「大差ないってあんた…」
ハァ…と呆れ顔で、紗癒さんがため息をついた。
けど…ほんと武器を使い分ける以外、特徴無いんですよこれが。
「あの、もう宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
レティアさんが、申し訳なさそうにこっち見てる。
「紹介の邪魔してすみません…」
「いえいえ、皆様は仲が良くて見てて嬉しく思います」
仲が…良いのか?これは…
「では、改めさせて頂きまして」
「以上を、本日お集まり頂いた7名様の紹介とさせて頂きます」
「つきましては、皆様のオフラインを可能にさせて頂きました」
「今後は、皆様が睡眠を行った際に接続出来る様になりますのでご理解のほどお願いいたします」
「尚、次回ログインに際し皆様のメールボックスに当ゲームの攻略対象のメールを送らせて頂きます。」
「では皆様、末永くゲームの方をお楽しみ下さい」
そして、再びレティアの姿が消え意味深な言葉だけが森に響いた。
††††††††††
レティアが消え、風で揺れる木以外の音が消えた森の中。
さっきまで俺に突っ込みを入れていた、紗癒さんや奈菜さんを含め全員が沈黙していた。
いやまぁ…俺も気まずいんだけど…
「お腹がすいたしぃ~ボクは落ちるねぇ~」
そんな沈黙を一瞬にして消し去る様に、サラミボーイこと水山がログアウトしていった。
いや、けど良い感じに皆ログアウトしやすい空気にしてったな。
それに伴って、メザメ・哘さんも無言のままログアウトしてった。
何かそんな気はしてたけどね。
「じゃぁ俺もそろそろ落ちま…」
「とうくん」
ふぁっ、なんか本名呼ばれた。
声の方を振り返ると、先ほど隠れた所からひょこっと顔を出すスゥの姿があった。
「とうくん?」
「あ、はい」
いやさ、とてもとてもこそばゆいと言うか。
「とうくん!」
あれ、なんか今度は違う方から声が聞こえてくるぞ。
スゥから視線を離し、正面に視線を戻すとどうやら声の主は奈菜さんのようだ。
「とうくん!」
あの、なんか女性陣から本名で呼ばれるんですけど…何だろうねこの羞恥プレイ。
新しい遊びかな?
「えっと…奈菜さん?」
「うんうん」
「それと…スゥ?」
「ノンノン!ま し ろ」
あぁ、そういえばスゥじゃなかったな。
とりあえずスゥが不機嫌そうに身構え、りぴーとあふたーみーと指示をしてくる」
「…ましろ?」
やっば、めっさ恥ずかしい。
「とうくんっ!」
「うわっ」
突如として、ましろに背後から抱き着かれた。
「あんたたち、仲いいわねぇ」
っと今度は、第三の刺客がきたぞおい。
「そんなことないんで助けて下さい、紗癒さん」
「鼻の下伸ばしながらいう事じゃないでしょう」
伸ばしてる訳ではないんだけど、そのね…ほら小柄とはいえさ。
こんな俺に、おにゃのこがだきついてるんだよぉぉぉぉぉぉ
普通の男なら伸びないわけないでしょう。
しかも美少女だぞ、微少女じゃないの美少女。
「まぁとりあえずお疲れ~」
「あの羽女の説明、長ったらしかったわね」
羽女…?レティアさんの事かな?
「まぁ、何はともあれやっとログアウトできるようになったし」
「あんたたちはどうするの?」
「とりあえず、俺もいい加減疲れたんで落ちようかなと思ってます」
ほんと、色々ありすぎて疲れた。
「え、落ちちゃうの?」
奈菜さんが何故か止めてくる。
「え、皆さん落ちないんですか?」
「いや、落ちるけどもう少し皆で話さない?」
あ、そうか強制ログアウトさせられちゃったしあの時の積もる話かな。
ってか、抱き着いたスゥがさ?
( ゜д゜ )みたいな顔してるんだけど、どうしたのこの子。
「少しなら大丈夫ですけど、ゲームの事です?」
「それもあるけど、ほらEFOの暗号イベントの時の仲じゃない?」
「そうですね」
確かに、けど正直暗号イベントの時は俺達いらなかったよな…
「ほら、何か不本意だけど本名もバラされちゃったしさ?これも何かの縁だと思ってね、良ければ今度さ」
「うん?」
「皆で会わない?」
えっと、フレンドのお誘いかな?
確かに、サリシクイネを進めるにあたって俺とスゥだけだと心元無いしこれはいい機会かも。
「俺は全然、大丈夫ですけども」
「うんうん」
「あたしも別にいいけど」
「やった!そしたら明日は土曜日だし、明日の10時に明星駅でどうかしら?」
おー?家から近いぞ、いや違うそこじゃない。
「あれ?、ゲーム内の話ですよね?」
「ん?オフ会の話だけど」
>>オフ会の話だけど<<
「あたしは、近くは無いけどいけない距離じゃないからいいわよ」
「うんうん」
少し面倒そうな表情浮かべながらも紗癒さんも同意し、スゥも縦に頭を振った。
「えっとオフ会ですよ?」
「そうよ?」
「皆でリアルに顔を合わせるんですよ?」
「うん」
あれ、俺がおかしいのかな?
「俺たち今日会ったばかりですよ?」
「そうね」
・・・・・・・・・
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「!?」
唐突な奇声に、3人がびくっとしてる。
「いや、オフ会とか無理ですって!俺、ほら!極度のコミュ障なんで!」
ほんとにさ、会って初日の人達とオフ会って怖いんだよ。
良くニュースとかになるじゃん?ネットで知り合った○○さんとオフ会して監禁されました!的な。
ってか何で皆、動揺しないんだ?俺がおかしいのか?
「まぁ、無理にじゃないから来れる人だけでいいわよ?」
う…そういう言い回し弱いんだけど…というより口ぶりからして皆、俺の地元なの?世界狭すぎない?
「とうくん…こないの?」
「へ…?」
俺の服の袖を掴みながら、しょぼんっとしたましろが目を潤ませながら問いかけてくる。
「こない…の?」
ゆう…わ…くがっ…がはっ。
「うっ…わかったよ…」
「(=>ω<=)」
「よっわw」
紗癒さん、茶化すところと違います。
「ふふふwよし決まりだね!そしたらまた明日の10時にね!」
そう残して、奈菜さんはそそくさとログアウトしてった。
ゲームの話なんて無かった。
……何か余計に疲れた。
「あたしも落ちるわね」
「あ、はい」
背を向けひらひらと手を振りながら、紗癒さんもログアウトした。
「とうくん」
「ん?」
服の袖引きながら、ましろがうじうじしてる。
「どうした?ましろ」
何か恥ずかしいけど言いなれてきたぞ。
「あのね、うーんと…」
「ごめんね」
「え…?」
今まで一緒にいたけど、元より口数は少ないけど…ましろからごめん…なんて。
「なんで謝るんだよ」
「んっ…」
また猫耳が、へにゃっとしてる。
「わがまま言っちゃったから」
どうやら悪意はないとは言え、無理やり連れだそうとした事に罪悪感があるらしい。
「大丈夫、そんな気にしないで平気だよ」
わしゃわしゃと、ましろの頭を撫でる。
「ねぇ、ましろは…オフ会とか怖くないの?」
「んっ、こわい…けど」
「とうくんと会えるなら行きたい」