巣
子供が虫取り網を持って走り回っている。
なんとも牧歌的な風景だろうか。
相手がモンスターじゃなければね!
いやぁ、捕まえるのは子供の役目とは思わなかったぜ。
そして、それに加わって走り回っている俺。
屈辱的だ。
だが、しょうがない。
だってやった事が無いのだから。
覚えて損は無いって事で、強制的にやらされている。
捕まえた者は親元に戻り、トドメを刺してもらう。
安全靴のようなのを履いた親が踏みつけるんだ。
こうする事で、網を痛める事も無く退治出来る。
ついでにドロップ品も網の中に出るという仕組み。
俺? 俺はトドメも自分でやってますよ。
ま、そういう靴を持ってないので、ナイフの鞘で叩いてますけど。
3匹くらい退治した頃、武器屋のオッサンがやってきた。
「どうだ? やれてるか?」
「3匹は退治しましたよ」
「ドロップはどうだった?」
「えっと、蜂蜜が1つ、毒針が2つ。それから1J出ました」
「おっ、金が出たか」
「ええ。何でお金が出るんですかね?」
「巣を作る材料にするつもりだったんだろう。あいつらは硬い物を好むからな」
巣は防御力を上げる為に硬い材質の物を集めて、それを蜜蝋で固めて作るそうだ。
ゲームでは巣なんか出てこなかったので、知らなかったよ。
ちなみに蜂蜜だが、直径2cmくらいの球体で出てくる。
ぶよぶよしていて、風船みたいだった。
「そろそろこっちは良いだろ。巣の退治に行くか」
「えっ? 俺も行くんですか?」
「参加してる大人は全員行くんだよ」
「マジですか? 子供はどうするんです?」
「ほら、母親が来ただろ。あれが面倒見る。
ついでにドロップ品の運搬もやるんだよ。俺たちは巣だ」
「あの荷車は? あんなにドロップ品は無いですよね?」
「あれは俺達が使うんだ。巣を載せて持って帰るんだよ」
「持って帰るんですか?」
「ああ。蜜蝋を壊すには温めるのが簡単なんだが、それを外でやると匂いに釣られてベアーが来る場合がある。
だから持ち帰って、町の中でやるんだよ」
「そういう事ですか」
しかし、荷車が必要なほどデカい巣なのか?
テレビで見た事のあるススメバチの巣でも50cmくらいだったと思うけど……。
オッサンについて林の中へ。
大人が集まって皆しゃがんでいる。
何をしているのだろうか?
「アレは何を?」
「ああ、生木を燃やす準備だ」
「生木?」
「生木を燃やすと煙ばかり出てくる。その煙を巣に当てると、中のビーの動きが鈍るんだ。
それから撤去して、女王ビーを退治する」
なるほど。その辺は日本での退治方法と同じだな。
少し待つと、煙が出始めた。
うん、煙い。目が痛い。
「何をボーっとしてんだよ。扇げ!」
「ごほっ。で、でも、何も持ってませんよ?」
「上着を脱いで扇ぐんだよ!」
本当だ。皆上着を脱いで扇いでる!
そういうのは先に言って欲しかった。
一生懸命扇ぐ事、5分くらい。
そろそろ撤去開始のようだ。
「ほれ、行くぞ。木に触れて居る部分をナイフで切り落とすんだ。
木を切るのは良いが、巣を切るなよ?」
「巣はダメなんですか?」
「巣を部分的にでも残すと、またそこに巣を作り始めるからな」
へ~、そうなんだ。
皆に混じり一生懸命巣を切リ離す。
さすが硬い材質を集めて作ってるだけあって、巣は硬かった。
木を切る方が楽なくらい。
女王ビーも無事退治出来たらしい。
直径1mくらいの巣も無事撤去出来た。
さあ、凱旋だ! ……俺が言う事じゃないけどね。




