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世界線を越えて再会した幼なじみを選んだ場合

閲覧いただきありがとうございます。

ダミアンエンディングです。

「実は私、気になる人がいるの。昔の知り合いで、この前偶然出会って…」


そう、ダミアンと出会った後、前世の初恋の記憶を思い出した私は、気がつけばダミアンのことしか考えられなくなってしまっていた。


だからごめんなさい、と深く頭を下げた。

暫く沈黙が続き、不安になった私が顔を上げようとすると、頭をぐしゃぐしゃと思い切り撫でられた。


「何しんみりしてるんだよ。振られたくらいで便利屋のクレミーは落ち込まないぜ」


顔を上げると、いつも通りのクレマンが笑顔で答えた。


「俺達はビジネスパートナーでもあるんだから、今生の別れみたいにしないでくれよ」


「…ありがとう、クレマン」


何のことだか、と作業室に姿を消すクレマンを私は見送った。


ディアモン国からグルナ国に戻ってきた私はクリストファーと会うことにした。


正直、エメロード国のダミアンに片想いしているなんて言うのは気が引けた。

せっかく、上手く和解したのに、私のせいで、面倒なことになったらどうしよう。


それに、グルナ国の第二王子の元婚約者がエメロード国の王子を狙うなんて、マスコミの格好の的になる。


私は重々しい足取りでクリストファーと約束した場所に向かった。


しかし、クリストファーの反応は私が想像したよりもあっさりとしたもので、私の説明に、そうか、とだけ短く答えた。


私が意外そうな表情をしていたことに気がついたのか、クリストファーはバツの悪そうな表情をする。


「確かに昔の私だったら断固拒否しただろうな」


…断固拒否するんだ。


「でも、本当に心から愛する者には幸せになってほしいと思うものだと、お前に気がつかされたんだ」


クリストファーの大人びた表情に、私は今までずっと乙女ゲームのクリストファーとしてしか彼のことを見ていなかったのだと実感した。


婚約者をちゃんと見ていなかった私が婚約破棄されてのは当然だったのかもしれない。


「ダミアンと結ばれるといいな」


私は頷き、頭を下げた。


「気持ちに応えられなくてごめんなさい。そして、ありがとう。私も貴方のおかげで色んなことに気がつかされたわ」


クリストファーのことを好きにならなければ、アニエスなんて偽名を使って、文通なんてしなかった。


恋の盲目さに気がつかされたのだ。


そして、長い年月をかけて、失恋の痛みも片想いの苦さも体感した私はダミアンと出会い、初恋の甘酸っぱさを思い出した。


お互いが転生をしたことで、前世の分まで、ダミアンに転生した彼と添い遂げたいと思った。


クリストファーを想っていた時も感じていたが、私は案外執念深いのかもしれない。


ダミアンが私の気持ちに応えてくれるか分からない。


それでも、私はダミアンを選んだ。

これから、ダミアンに好きになってもらえるような女の子にならなければ。


さて、どうやってアプローチをするべきか。

私は先の見えない未来を考えながら、ダミアンの元に向かうのだった。


こうして、婚約破棄された悪役令嬢はゲームのシナリオを辿った結果、ファンディスクの新キャラに恋をするのだった。


数年後。


私とダミアンの関係は相変わらず幼なじみ以上恋人未満のままだった。


隣国とはいえ、ある程度の距離もあり、ダミアンは次期国王としての仕事があるのに、私とダミアンは毎週のように逢瀬を重ねていた。


それなのに、まさか結婚どころか婚約までも出来ずに数年が経つなんて…!


私は自分の恋愛スキルの無さに愕然とする。


今日はダミアンと公園でピクニックをする予定だ。王族が地べたにピクニックシートを敷いてランチなんてと思うが、中身は庶民なので問題ないだろう。


「レティシア、おまたせ」


すっかり現世の名前で呼び慣れてしまうほどに、私とダミアンの関係は変わらないまま、長い年月が経ってしまった。


私は気を取り直して、久しぶりに作ったお弁当をダミアンに見せる。


前世で作ったレパートリーを再現してみたのだ。材料が違うから、完璧に同じとはいかないが、かなり良いところまで再現出来てると思う。


ダミアンも嬉しそうにお弁当を突き、頬張った。


「キャラ弁にするあたり、相変わらず幼稚さが滲み出てるな」


ダミアンの軽口に、私はうるさいわね、と可愛くない憎まれ口を叩いた。

こんなんだから、私達の関係は進展しないのだ。


そんな私にダミアンは大袈裟に嘆いてみせた。


「レティシアの御両親もさぞ手を焼いていることだろう。そんなんじゃ、嫁の貰い手がなくなるぞ」


「…じゃあ、ダミアンが貰ってくれない?」


私はそう口走って後悔した。

関係の進展について考えすぎるあまり、変なことを口走ってしまった。


ダミアンも持っていたミートボールを落としてしまっていた。


暫く気まずい沈黙が続き、それを打ち破ったのはダミアンの一言だった。


「…寧ろ、僕でいいの?」


私は考えるより先に首が縦に大きく動いていた。

そんな私を見て、ダミアンは屈託のない表情で笑い、シートに寝転んだ。


「あーあ、日和ってたら、先に言われちゃったよ」


ダミアンは起き上がり、自分のズボンのポケットを探ると、一つの小さな指輪を出してきた。


「この前、出店で見つけたんだ。この指輪見た時、お前に似合いそうだなと思ってさ…」


そう言うと、ダミアンは私の左手の薬指に指輪をはめた。サイズもぴったりだ。どこで、私の指輪のサイズなんて知ったのだろうか。


そんな私の些細な疑問など露知らず、ダミアンは少し恥ずかしそうに、ちゃんとしたのは今度改めて、と言った。


私はその言葉に首を振る。

物なんて重要じゃない。私が欲しかったのは、ダミアンの気持ちだけだ。


私の気持ちを察したダミアンは、私の手の甲にキスをして、真っ赤な顔で、私に告げる。


「僕はレティシアのこと誰よりも知っているし、レティシアのこと、誰よりも幸せに出来る自信がある。…だから、僕と結婚を前提に付き合ってください」


感極まった私は、肯定の返事をしながら、ダミアンに抱きついた。

バランスを崩し、私達はシートに横になる形になった。


やっぱり、ゲームみたいに砂の吐ける台詞は言えないや、と呟くダミアンに私は笑う。


私にとってダミアンの言葉は、どんな乙女ゲームの台詞よりも、甘いのだ。


そんなことを言ったら、暫く再起不能になりそうなので、私はひっそりと本音を心の奥に閉まったのだった。


世界線を超えて、再会した二人の物語はまだ始まったばかりだ。


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