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婚約破棄された王子と文通をしていた悪役令嬢はヒロインと協働することにしました。

閲覧いただきありがとうございます。

追加した新編です。

フローラと邂逅してから1ヶ月。

相変わらず2人の関係をどうするか結論が出ないまま、あっという間に過ぎていた。


フローラの家に向かう馬車の中、私は変わらない現状に頭を抱えていた。


変わったことといえば、頻繁にフローラとお茶会をするようになったことくらいだ。

あれから、何故かフローラに懐かれた私は頻繁にお茶会の招待状を貰うようになった。


お茶会で話す私達の言語は日本語だ。

メイド達にこんな電波な会話を聞かれていたら困る。周りの人達には、少数民族の語学を勉強しているということにしている。


「本編は終わったけど、そろそろファンディスクが始まる頃よね。甘いアフターストーリーはともかく新キャラが面倒よね…」


きょとんとする私を見て、レティシアは信じられない、といった表情をする。


「アンタ、ダミアンのこと知らないの?下手したらグルナ国とエメロード国が戦争を始める火種になる存在なのに!」


つい、メインディスクに意識を集中させていたが、ファンディスクが翌年に販売されていたのを忘れていた。


ダミアン・ブランシャール。

ファンディスクから登場する新キャラだ。

ダミアンのエピソードは他のキャラクターの比じゃないくらい、複雑な背景がある。


ダミアンはエメロード国の第二王子だった。

しかし、エメロード国に個人的な恨みを持っているグルナ国の青年が第一王子を暗殺してしまった今、事実上、次期国王となっている。


領土問題など、ただでさえ、エメロード国とグルナ国は昔から犬猿の仲だったのが、この件をきっかけに関係は悪化の一途を辿った。


ダミアンはこの事件後、王位継承前にグルナ国に潜伏し、ダンという名前でファタリテ学園に隣接している国立図書館の司書として、グルナ国の一般市民だけでなく、王族や貴族の動向を探ろうとしていた。


ゲーム開始時、ダンはほのぼのとした天然キャラクターとして描かれていたが、ゲームが進むにつれ、グルナ国への憎悪を剥き出しにし、バッドエンドでは、グルナ国との戦争を開始させ、業火に焼かれるヒロインを冷ややかな目で見つめるといったスチルも用意されている要注意人物だ。


そんな人物を忘れていたなんて、私はどれだけ平和ボケしていたのだろう。


今まで個人レベルだった破滅フラグ。

今回は国レベルの破滅フラグだ。


私は震えた手でカップを持つ。

そんな私の様子に気がついたフローラは訝しげにこちらの様子を伺った。


「ちょっと大丈夫?こんなんじゃ、私の助手なんて務まらないわよ」


は?

そう口に出そうとしたのを、ぐっと堪える。


フローラに詳細を尋ねると、どうやらフローラはダミアンへのアプローチをするのに付き合って欲しいそうだ。

異性と2人きりになり、ダミアンの恋愛ルートに入るのは本意ではないらしい。


まあ、確かにグルナ国の第一王子の婚約者が他の男、ましてや敵対していると言われているエメロード国の第二王子との関係を噂されれば、大問題になるだろう。


意外と誠実なフローラに驚きつつも、私はダミアンと親交を深めるために協力をすることを了承した。


数日後。

私とフローラはダミアンが働いているという国立図書館に訪れた。


受付に向かうと、そこにはダミアンの姿がおらず、代わりに女性職員がいた。

フローラは、愛想の良い笑顔を見せて、職員に尋ねる。


どうやら、ダミアンは図書館の向かいにある公園で、図書館に遊びに来ていた小さい子供達と遊んでいるらしい。


呑気なものね、と毒突くフローラを宥めながら、私達は公園に向かった。


公園に辿り着くと、そこには大きく身振り手振りをしながら、紙芝居を読んでいるダミアンの姿があった。


大袈裟な演技をしながら、紙芝居を読んでいるダミアンを見て、フローラは若干引き気味に呟いた。


「私、コイツと仲良くならなきゃいけないの…?」


確かに、このダミアンという男はかなりキャラの濃そうな人物だ。流石、乙女ゲームの新キャラクターだ。

私はフローラの肩に手を置いた。


ちょうど紙芝居が終わったようで、私達の視線に気がついたダミアンは恥ずかしそうに、はにかんだ。


気持ちを切り替えたフローラは、めげずに話を振る。


「ダンさんですよね?私はフローラと言います。隣のファタリテ学園に通っている学生です。彼女はレティシアで、私の友達なんです。ここの図書館で一番本好きだと聞いて、オススメの本を聞きに来たんです」


私はフローラに促され、軽く会釈をする。

フローラの言葉に、ダンは笑顔で応えた。


「はい、僕がダンです。それで公園にいらしてたんですね。いやあ、お恥ずかしいところを見られました」


ふと、ダンと目が合い、私は微笑み、話題を振った。


「いつもこうやって、子供達と遊んでいらっしゃるのですか?」


「ええ、図書館の仕事が終わったら、こうしているんです。こうやって子供から大人まで色んな人と対話をすることで、視野が広がると思ってね」


その言葉に私は思わずクリストファーのことを思い出す。

最近のクリストファーがカフェで働き出したのは、こういった考えなのかもしれない、と合点がいった。


「そういえば、君達はどんな本を探しているんだい?」


答えに困る私をよそに、フローラはすぐに、開発学について勉強したいの、と返答した。


フローラの返答に、ダミアンは、若いのに感心するね、と苦笑いした。

ダミアンは唯一学生ではなく、とっくに成人している。とはいえ、そんなに年は離れていないのに、おじさんっぽい発言だ。


「明日リストアップするよ。それで、君はどんな本を探しているんだい?」


付き添いなので、あまり深く考えていなかったので、アドリブで対応しなければ。


少し考えて、私はアンジェ・テイラーのことを思い出した。


「ビジネス関連の本…特に最近のトレンドを汲んでいるような最先端のスタイルを取り入れてる経営論とか、ありますか?」


ダミアンは私の返答に笑った。

あれ、変な回答だったかな。


「最近の子は知的好奇心が旺盛で将来有望だ。明日までに用意しとくよ」


話の区切りがついた時、公園で遊んでいた1人の子供が泣き始めた。

私とフローラが足を動かすより先に、ダミアンは、その子供に駆け寄り、子供の手当てを始めた。


「ダン兄ちゃん…痛いよう」


「よしよし、痛かったね。すぐに兄ちゃんが魔法をかけてやるからな」


慣れた手つきで処置を行うダンを見て、私は優しく頼りになるかつての幼なじみの姿を思わず重ねてしまった。


「こんな良い人が戦争を起こす火種になるの?」


ダミアンは如何にも争いが嫌いそうな人種だ。

そんな私の呟きにフローラは吐き捨てるように、人は見た目に寄らないのよ、と返した。


それは、かつて信じていた人に裏切られていたことがあるような、妙に真実味のある冷たい口ぶりだった。


それから、帰宅した私はダミアンの母国であるエメロード国について調べ始めた。


エメロード国とグルナ国は隣国同士で、その周辺一帯で結ばれている同盟にも加盟している。


エメロード国は食料品だけではなく、あらゆるものを生産しており、特産品も種類豊富だ。この特性から、貿易交渉で関税がかからないという点では、メリットがあるようだ。

一方で、強固な基盤を築いているエメロード国は、自国の主導権回復と移民流入制度をかけたい為、同盟脱退を検討しているという噂があった。


今回の第一王子殺害事件も、グルナ国と同盟を結んでいたから、守備が甘くなってしまったのだ、と一部の国民は主張しているらしい。同盟を破られたら、グルナ国との仲はさらに悪くなるだろう。どうにか、関係を回復できないだろうか。


かつたは領土問題もあったようだし、火種は他にもあるようだ。

だからこそ、一番権力のある王族同士が仲良くなれば、見方が変わるかもしれない。

フローラがやっていることは、権力のない一国民の行動としては、一番ベターな選択かもしれない。


翌日。

私とフローラは、約束通り、再び図書館に向かった。


ダミアンの姿を見た私達は思わず顔を引きつらせてしまった。

何故なら、台車に積まれた大量の本を運んで登場してきたからだ。


これ、全部オススメの本?

全然、絞りきれてないじゃないか。


言い出した手前、文句も言うわけもいかない。

私達は精一杯の笑みを浮かべて、リストアップされた表の紙を手に取り、何冊かの本をピックアップした。

また今度読みに来ると約束して。


フローラはぶつぶつと日本語で呟いていた。


「ダミアンの攻略は何度も足繁く図書館に通うのが肝よ。口実ができたから、寧ろこれはラッキーなのよ…ふふふ」


必死に自分に言い訳をしようとするフローラに私は思わず苦笑いするのだった。


こうして、私達はダミアンに会うため、オススメの本を消費するという口実をもとに、図書館へ足繁く通うことになった。


あれから数日が経ち、私は一人で図書館に向かっていた。今日、フローラはリシャールと予定があるようで、行けないと連絡があった。何だかんだ言って仲が良いようで、私は安心している。


ふと、私は本来通うはずだったゲームの舞台であるファタリテ学園に目を向ける。

思わず、立ち尽くしていると、一つの影が現れた。


目を凝らしてみると、クリストファーがこちらに向かっていた。

私は反射的に身を強張らせた。


話を聞くと、放課後、教室で課題をやっていたクリストファーは、ふと窓から私と思わしき人物を見かけ、私かどうか確認するために、わざわざ校門まで来たらしい。


そういうお前は何故ここに、と尋ねられ、私は一瞬回答に迷った。


「アンジェ・テイラーの新しい施策を考えるために、隣の国立図書館で、文献調査をしているんです」


「そうか、相変わらず熱心だな」


私は、一つのアイデアが浮かんだ。

これは、チャンスじゃないか?

クリストファーとダミアンが腹を割って話すことが出来るかもしれない。


私はクリストファーに図書館へ一緒に行かないか、と誘った。

すると、クリストファーは嬉しそうに頷き、了承した。


一瞬、クリストファーとクレマン、二人の関係をうやむやのままにしている私は、罪悪感を抱きながらも、ダミアンの元に向かった。


受付に顔を出すと、ダミアンの姿はなく、仕方なく私とクリストファーは受付から近い長机に座り、黙々と各自の作業を始めた。


あれから何回もダミアンと何度も接触しているが、ダミアンは一向にフローラへアプローチをする気配はない。そろそろアクションの一つくらい起こしてもいいと思うのだが。


暫くすると、課題を終えたクリストファーは、様々な国の歴史や情勢、語学についての本を持ってきて、読み始めた。


思わずまじまじと見てしまっていたのか、私の視線に気がついたクリストファーは、他国のことを知るのも大切だからな、と応えた。


クリストファーもエメロード国をはじめ、他国との今後の関係については、次期国王にとっても重要な課題なのだろう。

私が感心したように相槌を打っていると、私とクリストファーの間に一つの人影が現れた。


そこには、ダミアンが立っており、ダミアンは私達を見て、勉強熱心ですね、と笑顔で話しかけてきた。


私は思わずクリストファーとダミアンの邂逅に息を呑んだ。そんな私の想いなど露知らず、クリストファーは冷静に、学生の本分は勉強ですから、と応えた。


すると、そんなクリストファーにダミアンは真剣な表情で尋ねる。


「グルナ国のクリストファー王子、もし貴方が国王になったら、どんな国にしたいですか?」


直球すぎる質問に、クリストファーよりも私が動揺しそうになる。


「グルナ国民が安心して暮らせる国にしたいかな。それだけでなく、平和を維持するには、他国との共生が必要不可欠だ。他国民も恩恵に預かれるような豊かで安定した国を目指したい…君もそうじゃないか?次期エメロード国王殿?」


最後は小声でクリストファーはそう返した。

鈍感だと思っていたクリストファーだが、バレてしまうとは。


私の不安とは裏腹に、正体がバレてもダミアンは笑顔を絶やさず、話す場所を変えましょう、と空いていたAV鑑賞室に案内した。


防音で、外からも覗かれないようなデザインになっている部屋では、ゆっくり話せるということだった。


鑑賞室に着くと、クリストファーはすぐさま深々と頭を下げ、謝罪をした。

クリストファーの行動に、流石のダミアンも顔を歪めた。


「我が国の者がエメロード国の第一王子を殺めてしまったことを心から申し訳なく思っている。謝って済む問題ではない。でも、これはグルナ国を統治する王族の責任だ。長い年月をかけて償わせてほしい」


クリストファーの言動に、私も驚いてしまう。普段、側にずっと居るせいか、クリストファーの凄さを忘れてしまうが、クリストファーはグルナ国の第二王子なのだ。


そんなクリストファーに、ダミアンは静かに答える。


「…顔を上げてくれ。僕はグルナ国の謝罪が口だけのものかどうか確かめに来たんだ。でも、その心配は杞憂だったようだな。この図書館でダンとして働いて、グルナ国は犯罪件数を減らす為に、貧困率の改善や識字率の向上などあらゆる面に力を注いでいるのを実感した。口だけの謝罪ほど不快なものはないからね」


ダミアンはそう言うと、クリストファーに向かって、手を差し伸べ、握手を促した。

クリストファーは、ダミアンの手を取る。


「これからもよろしく頼むよ。クリストファー王子」


「こちらこそ。君の正体は勿論秘密にしておくから安心してくれ、ダミアン王子」


それから暫く談笑をした後、執務に戻るべく、クリストファーは先に王宮へ戻ってしまった。

クリストファーを見送る時、私を見たクリストファーは小さく笑った。


「お前といい、ダミアンといい、私の周りは架空の人物を作るのがお好きなようだ…ありがとう、レティシア。また一つ学んだよ」


手の甲に一つキスを落とし、クリストファーは馬車に乗ってしまった。


レティシア様、と後ろから名前を呼ばれ、振り返ると、そこにはダミアンの姿があった。


「ありがとうございました。レティシア様もフローラ様も僕の正体を見抜いておられたようですから…ご心配をお掛け致しました。御二方が不安になるようなことにはならないと思いますから、ご安心ください」


やはり、ダミアンも気がついていたのか。

王族の奴らは食えない人ばかりだ。


私が苦笑いをすると、ダミアンは肩を置き、顔を近づける。


私が拒むより先に、ダミアンの言葉を聞いた私は固まってしまった。


「この世界のこと詳しそうな君達と今度ゆっくりお話したいな」


そう告げたダミアンの言葉は、ここでは使われるはずのない日本語だった。


思いがけない転生者の出現に呆気にとられると、ダミアンは笑顔で、これからもよろしくね、と私の肩を叩いた。


翌日。

フローラに事情を説明した私は、ダミアンとフローラをお茶会に招待し、家に来てもらっていた。


私とフローラは思わず、ダミアンをまじまじと見つめてしまう。

そんな私達を見て、ダミアンは困ったような表情を浮かべた。


「僕は君達と同じ日本から世界地図にない異世界に転生した人間なだけで、情報共有をしたいだけだよ」


そんなダミアンの言葉に、フローラは猫被りをやめ、ふてぶてしい態度を取り始めた。


「アンタがグルナ国を憎んでいるって設定だったから、接触を図ったのに取り越し苦労だったわ」


「まあ、グルナ国の破滅フラグが折れて良かったじゃない」


私とフローラの会話にダミアンは驚いたように尋ねる。


「まさか、僕をエメロード国とグルナ国の戦争を起こそうと企んでいる奴だと思ったのか?戦争なんて負の遺産をもたらすだけのものじゃないか。設定だがなんだか知らないけれど、そんなのごめんだね」


そう早口で喋るダミアンは、一呼吸置き、私達にこの世界のことについて話すよう促した。


それから、私達はダミアンにこの世界が乙女ゲームの世界だということ、ダミアンが攻略対象の一人であることなどを説明した。


一通り説明すると、ダミアンは特に驚いた様子もなく、納得した。


あまりに冷静な反応に、フローラは随分と冷静なのね、と率直な感想を述べた。


フローラの感想に、ダミアンは幼なじみが良くやってたからね、と苦笑いをした。


幼なじみという言葉に、私は思わずドキッとしてしまう。


「状況は分かった。戦争なんて起こす気もないし、フローラ、君にも惚れることもないだろうから、安心してくれ」


ダミアンの言葉に、フローラはこっちからも願い下げよ、と毒づいた。


ダミアンが転生者で、攻略する必要がないと分かった今でも、私は図書館に足繁く通った。


クレマンには負けるが、私にとってもアンジェ・テイラーはかけがえのない存在なのだ。

アンジェ・テイラーの業績を安定させる施策を模索する為に、私は図書館に通い続けた。


おかげで、ダミアンとはすっかり友達になってしまった。他愛もない話、愚痴や悩みなどを話す仲になった。


「ねえ、ダミアンの幼なじみってどんな子だったの?」


私は何故か幼なじみというのが、私が思い出せずにいる空白の記憶を思い出すトリガーになると思っていた。

ダミアンに聞いても分からないかも知れないが、何か思い出すきっかけになるかもしれない、と軽い気持ちで聞いた。


「誕生日が一緒で、生まれた病院も一緒だったから、生まれた頃からの仲だったんだ。アイツが乙女ゲームにハマったのは社会人になった頃かな。ずっと憧れてたおもちゃメーカーに入社したんだけど、肌に合わなかったらしくてな。人一倍責任感が強くて、一人で抱え込む性格だったから、相当ストレス抱えてたんだ」


ダミアンが話す幼なじみの特徴は昔の私にそっくりだった。


「それで、気晴らしに映画に誘ったんだ、ちょうどこのゲームの映画版。そしたら…」


瞬間、私はトラックが速いスピードでこちらに向かってくるシーンがフラッシュバックした。


私は思わず立ち上がってしまった。

全身に嫌な汗が伝う。


「ねえ…その子の名前は?」


私の様子に戸惑ったダミアンだったが、私の問いに答えた。


ダミアンが口にした名前はかつて呼ばれていた私の名前だった。


ダミアンが知っているのか、と私を問い詰める。私は震えた声で、それは私だと答えた。


かつての幼なじみとの邂逅で、私はぽっかりと空いていた記憶を全て思い出した。

かつての私が経験した甘酸っぱい初恋の記憶と共に。


私はダミアンの目の前で倒れてしまった。

ああ、これ3回目だ。


次に目を開くと、私はダミアンに膝枕をされていた。

驚いた私は勢いよく起き上がり、ダミアンに頭突きを食らわしてしまった。


「転生しても予測とか出来ないのか、お前は!」


意識が戻ってすぐに文句を言うダミアンに昔の幼なじみを思い出す。

やっぱり、あの人なんだ。私は懐かしさに胸が熱くなった。


うるさいわね、と私が反論すると、ダミアンは昔と変わらないな、と無邪気な笑みを浮かべた。


私は、今までどこか孤独感に苛まれていた心が満たされていくのを感じた。


数日後。

私は再び馬車で頭を抱えていた。

ダミアンのことで、ドタバタしていたけれど、クリストファーとクレマンの関係をうやむやにしたままだ。自分の優柔不断さが情けなくなる。


そして、今日はアンジェ・テイラーがお土産店に商品を置くことが決まったので、何の商品を置くか、新作を作るかなどを話し合うことになっていた。


久しぶりのクレマンとの再会だ。

クリストファーはともかく、クレマンとは距離もあって、なかなか会えない。


そろそろ、自分がどうするべきか、誰と添い遂げたいのか、決めるべきだ。


贅沢な悩みだが、それも終わりにしなければ。


ディアモン国に着く間の数時間。

私は改めて真剣に今後のことを考えたのだった。


工房に着くと、いつも通りクレマンが笑顔で

迎えてくれた。


私がこの前クレマンから貰ったヘッドドレスを付けているのに気がついたクレマンは嬉しそうに、はにかんだ。


打ち合わせが始まると、クレマンは様々な施策を盛り込んだプレゼンテーションを行なった。


巾着袋を作って、そのお土産店がオススメするお菓子やティーパックを入れることや、主な観光客が信仰する宗教で、ストールを頭に巻く習わしに着眼したクレマンはシンプルかつオシャレなストールを提案した。


様々な視点から考えられたクレマンの案は、打ち合わせに参加したお土産店のオーナーの心を掴んだ。


クレマンのプレゼンテーションを見た私は、改めてクレマンは地位や名声の為ではなく、家族やアンジェ・テイラーの商品を心から愛し、周囲に広めようとしているのだと分かった。クリストファーだけじゃない、昔から大人で優しいクレマンもアンジェ・テイラーの責任者として、どんどん成長している。


打ち合わせが終わり、私はクレマンにお疲れ様、と声をかけた。


「今回のプレゼン凄かったよ。流石クレマンだね」


その言葉にクレマンは笑顔で、レティシアのお陰だと答えた。

私は何もしていない、と首を振ると、クレマンは優しい表情で話を続ける。


「レティシアは文献調査や現地調査を抜かりなく行うだろう?だから、俺もそれに習って、ディアモン国だけでなく、あらゆる国の嗜好を探ってみたんだ」


そう答えるクレマンは、初めてあった仮面舞踏会よりもずっと活き活きとしていた。

ふと、クレマンは私の頬にそっと触れた。


「今日のレティシアは浮かない顔をしているな。何かあったのか?」


優しい表情で尋ねてくるクレマンに私は覚悟を決めた。

優しいクレマン、日に日に成長するクリストファー。二人の優しさに甘えて、関係をうやむやにしてはならない。


今までずっと考えてきたこと。


「ずっと待たせてごめんなさい。告白の返事してもいいかしら」


私の言葉にクレマンの動揺がクレマンの手が触れていた頬から伝わった。

クレマンは真剣な表情で頷いた。


私はようやく自分の気持ちに気がついたのだ。


悪役令嬢、レティシア・アングラードとして、この世界で生きていく上で、一緒に生きていきたいと思う人物。


それはー。


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