第4話 模擬試験
上空に浮いている子供は、その身長に対しては大きい黒地のパーカーを着ており、そのパーカーにはパステルカラーの斑点模様がついていた。周囲の環境は暗く、また衣装も黒地であるのに、その子供は空間から切り取られているかのように明るく輝いているように見えた。
「やぁ、みんな~。初めまして~。僕のことは”オリ”って呼んでね~。」
オリと名乗る子供は、終始ニコニコしながら話を始めた。
「ここにいる人たちは僕が集めた頭が良さそうな人の中で、特に頭が良い人たちが君たちなんだね~。ふむふむ、関心関心。あ、その中でも予選のテストが満点だった人が2人いました~。その二人を紹介しましょう~。その二人は夏樹くんと薫くんで~す。」
そういうと、夏樹のいる場所が照らされた。夏樹は暗かった空間からの急な明かりに目を眩ませた。目が光に慣れて周りをみると、周囲の人の視線が夏樹に集まっていた。その表情は、満点ということに対する尊敬の念というよりは驚きのような表情のように夏樹は感じた。
よく見ると遠くにもう一つ光があることを確認できた。その光の場所を確認すると、夏樹よりも少し年上ぐらいだとみられる青年が立っていた。その少年は人の群れのなかにありながら孤立しているように立っていた。夏樹からは少し遠く横向きになっているため表情を確認することはできなかったが、その少年が白髪であることは確認することができた。
「さてさて、
高い場所から声が聞こえ、地上にいる人たちは空へと目を向けた。
「これから本選になりま~す。だけど、本選は明日からはじめま~す。今からはその本選へのデモンストレーション?をしま~す。ぱちぱち~。」
拍手をしながら浮ついた声でオリは言葉を発する。地上にいる50人は空を黙って見上げる。
「これからの本選では1問問題を出したらその後答え合わせをして休憩~。を繰り返してすすめていきま~す。今回はデモンストレーションが終わったら1回休憩ね。」
「それでは問題で~す。」
いきなりの展開についていけないまま、解答者は息を飲んで問題文が読まれるのをまった。
「この問題は二択問題だよ~。」
「問題~。地球上で最も硬い素材で作られた剣を持った人と地球上で最も硬い素材で作られた盾を持った人が戦ったらどっちが勝つでしょう~。」
淡々と軽いテンションで問題文が読み上げられた。言葉が終わるのと同時に、地面に赤く囲まれたエリアと青く囲まれたエリアが現れる。形は正方形の形であり、広さとしては人が100人程度入るほどの広さであった。それぞれの正方形の真ん中には文字が書かれており、赤の方には“剣を持った人”、青の方には“盾を持った人”と書かれていた。
その問題は、矛盾をテーマにしている問題で、困惑した空気が流れた。しばらくの沈黙のあと、問題文に対する疑問の声がざわざわと聞こえ、ついには、オリに対する声としてあがった。
「ふざけるな!こんな問題答えなんてあるわけないだろ!!こんな問題でクイズ大会なんてふざけている。」
「おや?そうかい?この問題には答えはあるよ。」
オリは答える。夏樹は、心の中でうなずく。いや、その他大勢のその場に人間がそう思っているだろう。単純な矛盾の話であれば問題に答えはないのかもしれないがこの問題は少し違う。剣を持った人と盾を持った人が戦うということは必ず結果がでることではあるからだ。矛盾の故事だって、実際にその時に剣と盾をぶつけた場合は結果が出ていたはずである。しかし、この問題では、
「この問題の答えなんて定まらないじゃないか。」
夏樹の言葉を誰かが代弁したようにオリに叫び伝える。
「おや?君たち人間の生活は、答えがある問題ばかりなのかい?僕は、空からみんなのことを見ててそう感じなかったんだけどね~。なのに君たちはすごく勉強する。その意味が僕にはわからないから教えて欲しいんだよ~。君たちがどういう答えを出すのか。」
その言葉に、地上にいる人たちは、考えるように大きい反論もできずに言葉を飲み込んだ。
夏樹も、そのオリの発言に対して思考を巡らせる。
(この問題を解くことで、学ぶ意味についての答えがでる??)
夏樹は、学ぶ意味を見いだせる出題ということに少し心を惹かれていた。しかし、その問題を解くことで見つかるのかという疑問点があった。
(そもそも、答え合わせって一つではない答えをどうやって導くつもりなんだ...。)
その疑問に対する夏樹の答えはその場ではでなかった。
「もういいかな?他に聞きたいことはないよね~?」
誰も口を開かない中、
「どうやったら、帰れるの?」
と女の声がした。
「おっ、いい質問だね~。言うの忘れちゃってたよ。この大会は頭脳神を決めるもの。だからトップが決まるまで戦いま~す。問題ごとに不正解だったものには、消えてもらいま~す。そうして、1位の最後の一人になったものが晴れて神の座に輝くというわけだよ~。」
その言葉を聞き、一度みな考え、数人の人が夏樹の方をみた。それは先ほどの驚きという感情とは違い、焦りの表情や学校でいつも見るような嫉妬の表情が向けられていた。
「1位にならないと消える」その言葉の意味を正しく理解できているものはその段階ではいなかったが、なんとなくみんなの中でただものではない空気の中急遽始められたゲームの敵のようなものを見つけたといった感じだった。
「まぁ、本選では、1問ごとにちゃんと休憩を挟むからあまり気負わず頑張ってね~。もう他に質問はないかな??」
「それでは本選のデモンストレーション、スタートだよ~。」