第3話 異空間でのテスト
校内放送から届いた声は中性的な幼い声だった。
「ようこそ~。今日は来てくれてありがとうね~。まだ夢だと思っている人もいるみたいだけど、僕にはこれが現実だと説明する答えがわからないや~。ごめんね~。まぁ、ここにいる人間たちはみんな賢いから、きっといつか気づいてくれるよね~。」
急に流れ出した声に教室内のざわめきが一度静まる。
「そう、この世界に招待したのは、君たちの頭のよさがもたらす答えを知りたいんだ~。そのために、今回は100人の頭のいい人間を集めたんだ。教師や学者、弁護士に医者、そして学生、たくさんの人間を集めた。君たちは一体何のためにそんなに賢くあろうとするんだい??僕にはわからないんだ、君たち人間が生きるものの中ではトップレベルの知力と権力を持つのに、まだ学ぼうとすることの意味が。だから、今回それを僕の前で証明して欲しいんだ~。」
そこにいる人たちはその言葉の意味を理解しかねている様子だった。夏樹もその言葉に対して完全な理解は出来ていない状態ではあったが、その言葉の意味を咀嚼していた。
(学ぶことの意味・・・)
夢の世界とは思いつつもそのことに対して夏樹は興味を示していた。
「ということでいきなり来てもらってなんだけど、予選会をしま~す。予選会では単純にみんなの賢さをちゃんと知りたいからペーパーテストをしてもらいま~す。」
そういうとそれぞれ机に冊子となっているか紙とペンが急に現れた、
「さぁ、みんなはやく席についてね~。時間は2時間!この上位50名が本選出場で~す。上位50名に入れなかった人には消えてもらいま~す。」
急に現れた問題用紙にその場は一瞬戸惑うような空気が流れるが、その後誰かが、口火を開いたのを皮切りに「なんどこれは!」「ふざけるな!」「いいからはやく出せ!」などの怒号が飛び交い、教室内はまたざわめき立つ。
「も~う、うるさいな~。それ以上言うこと聞かないと消すよ。」
その言葉は、いままでと同じような口調ではあったが、「消すよ」という言葉には重さがあった。その言葉に教室内のほとんどの人は威圧され、静まり返った。しかし、それでも数名は文句を言い続けていた。
「ほんっとうにうるさいな。もう君はいらないや。消えて。」
その言葉が聞こえると、文句を言っていた人は足元から文字通り消えていった。それがどういう現象なのか理解できているものはおらず、また、しゃべっている人もいなくなったため、その場は静寂に包まれた。
「僕に逆らなうなんて、そんな馬鹿な人間はこの場にふさわしくないね。僕が神だって理解できない人間はこの場に必要ない。さぁ~、みんな席について~。予選をはじめようよ~。」
その言葉に逆らう者はもう誰ひとりとおらず、その場にいる人は思い思いに席へと座った。
全ての人がちょうど席に着いたタイミングで
「それでは、頭脳神決定戦~。はじめ~。」
という声が発せられた。その言葉と同時にいままで何もなかった、教室で言えば黒板がある位置にデジタルの[120:00]というのが表示され。その数字はカウントダウンを始めた。教室にいる人たちは戸惑いながら冊子を各々タイミングで開きはじめ、問題に取り組み始めた。
夏樹も、他の人に遅れて、ゆっくりと問題用紙の表紙を開いた。問題の形式は、ごく普通で一問一答形式で、問題文がありその後に、解答欄の枠があり、そこに答えを書くというものだった。問題の内容もごく一般的なもので、漢字の問題や英語の和訳など主要教科5科目に関する問題が出題されていた。問題のレベルは、難しくはあったが難関大学への入試問題レベルの問題であり、夏樹にとってそんなに困難に感じるものではなかった。
夏樹は問題をとくに困ることなくスラスラと解いていった。学校の問題よりも難しい問題に対して歯ごたえを感じていた反面、がっかりもしていた。盛大な前振りをしていた割に出ている問題があっさりとしていることに期待はずれ感が否めなかった。
周りの人はいまのよくわからない環境に戸惑いつつも、先ほどの光景を見たあとなのもあり、少し恐怖を感じながら、問題に取り組んでいた。
隣の人が焦りとあわせて、頭を抱えている中、正面に見える時間が【010:00】を過ぎた頃に夏樹はペンを置き見直しを始めた。いつもよりも時間はかかったが大きな問題はなく夏樹は解き終えた。
見直しがある程度進んだところで時間は【000:00】を示し、けたたましいベルの音が鳴り響いた。その音と同時に、問題文と筆記用具が消えていった。
「しゅう~りょ~。みなさんおつかれさまで~す。いや~、いざやってみるとこうやって賢い人間を集めたといっても結構差があるもんなんだね~。」
間の抜けた声が聞こえてくる。
「それでは~、早速結果発表だよ~。」
ついさっき終わったテストなのに即時に結果発表されることに疑問を持つが、それを言葉に発するものはいなかった。この結果発表でどうなるかわからない“消える”という現象になるかと思うと恐怖を感じ、震えるような動きをする人もいた。
「それでは~、成績上位の50名の方は次のステージに進んでもらいま~す。」
そういうと、口で下手なドラムロールを鳴らし始めた。その後、「ジャン!」という声とともに場面が切り替わった。
夏樹は周囲を見ると、そこには何もなかった。先ほどの教室のような風景とは変わって、この場には何もないという感じだった。先ほど窓の外に見えたような無の空間に夏樹はたっていた。周囲を見渡すと、人が大勢いたが、先ほど隣で頭を抱えていた人がいなくなっていることに気づく。
「おめでと~。ここにいる50人が予選突破者で~す。パチパチ~。」
という声が高いところから聞こえてくる。そこには中性的な子供が上空に立っていた。