DEAD OR ALIVE MARRIAGE
ACT1
遠くで聞こえる汽笛に、ここは海沿いだということを思い出させる
車内には甘い音楽が流れ、助手席には赤いドレスを着たオンナが
頬を赤く染めてうつむき加減に座っている
この雰囲気だけを見ればデートでちょいと横浜まで着たと
思うかもしれないが、後方のクルマから飛んでくる9mmパラベラム弾が
そうではないと克明に告げている
バックミラーに目をやるとヘッドライトの明かりは数を増して
クルマの左右から軽機関銃の音と光を吐き出している
ただ、こちらのポルシェRSRはちょいと古いが
今時の国産になど負けない性能を保持している
それになんと言っても15の頃から親父に運転技術を
これで叩き込まれたので、本気になれば簡単にブッちぎれるのである
さすがに横浜市内でドンパチするわけにはいかないので
追い付かれそうで追いつけない絶妙な運転で
奴らを人気の無い場所まで誘導しているのであるが
まぁ、普通の腕なら無理だが、この僕チンには朝飯前である
ポルシェの爆音と軽機関銃の軽快な音に彩られて
気がつけば横浜の倉庫街にクルマは足を踏み入れていた
ここらで軽くあいつらを片付けて、助手席の美女としっぽりとするのが
今夜の目的なので手っ取り早く仕事にかかる
人気が無いのを確認して脇に忍ばせたベレッタM92に指を忍ばせる
チャンバーに弾は装てんしてあるのでフルで15発は撃てるはずだ
ざっとクルマ5台に4人ずつと計算してみる
少しばかし弾は足りないが20人中の15人がやられて歯向かって来る奴が
どれ位いるだろうか…
時速100kmで走りながらも場所とタイミングで急ブレーキをかけて
今夜のショーは幕を開いた
銃を手に取り運転席のウインドウを空ける
911はコーナーでアクセルを抜けば簡単にテールを後方に流す癖があるので
これを利用して180度のスピンターンをかましながらの1連射
これで先頭のクルマと横にいたクルマがぶつかって火を噴いた
後方にまだ3台
アクセルを吹かして3台に向かっていくと、銃口からの発射炎が
こちらに殺意を向けた弾を飛ばしているのを確認できる
そんなヘナチョコ弾でやられる訳ね~わと呟きながら
マガジンが空になるまで発射する
3台の間をすり抜けてバックミラーを確認すると
追い付いてくるクルマは無い…
ベレッタのマガジンを排出させて助手席に放ると
「ちょっと、危ないじゃないの!!」と暴言が飛んできた
すっかりと忘れていたが、このオンナは悲鳴ひとつ発せずに
このやり取りを観ていたのか…
ベレッタを手に取ったオンナはポルシェのグローブボックスを開けて
新しいマガジンを装填した
「驚いたな、銃を見ても驚かないとは」
そういったものの、このユミと名乗ったオンナはこう言い放った
「あんたの、うちの彼氏の持ってる奴よりも強そうね」
そう、先ほどのパーティーで知り合ったユミと名乗るこのオンナは
チンピラ風のカシラと呼ばれている男の娼婦だった
ただ、見た者の目を引き付けるその胸のボリュームと脚線美に
俺は涎を垂らして食いついて観ていた
カシラはそんな俺に気がついて、オンナの前で格好をつけようとしたのが
運の尽きだった…
人気の無いトイレに連れ込まれた俺は誰が見ても
気の弱い大学生だったかもしれないが
オンナの前で恥をかかせられたのはカシラの方だった
10歳に満たない頃から仕込まれた格闘術で
カシラの歯は折れ、手足の骨は粉砕され
気絶できないようにツボを刺激されて
トイレの床に転がるカシラを観て
オンナをフォローしようと思って振り返ると
なんと、こう言い放ったのである…
「ちょっと、そこに置いておいたら迷惑だから個室に放り込んじゃいなよ」
返事を適当に返してから銃を取り上げて
今夜の宿に向かう
インターコンチネンタルの最上階にあるスイートは
年間契約しているので、今夜みたいに急な予定でも
支配人は笑顔で受け入れるだろう
しかし、あと少しでホテルに着く辺りで後方に殺気を感じた
すばやくハンドルを切り、最初の一撃を交わすと
アクセルを踏む
後方のクルマも追いすがってきて
銃声を放つ
それは普通の銃ではないと一発でわかる銃声を放っていた
おそらくは460ウェザビー・マグナム
象ですら一発で仕留める銃を、後方のクルマは運転しながら
片手で撃ってきた…
さすがにヤバイと感じて港に引き返す…
ここでやらかすと、揉み消すのに多額の出費がかかる
ぜっかく稼いだ銭を無駄に使うなんて
ご先祖様に申し訳が立たない
埠頭に着いたころにはポルシェは息も絶え絶えで
コンテナの乱立する所で俺たちは車を降りた
奴のACコブラ、おそらくは427キュービックインチであろう
クルマもエンジンを止めて、こちらに顔を向けている
コンテナの陰に身を潜めて赤いドレスを身に纏い
ヒールを片手に持つユミに声をかけた
「これから逃げれたら結婚するか」
「そうね、逃げれたらね」
そう言って,弾ける笑顔を見せたユミと俺は走り出した
ACT2
日曜の昼時にリビングで昼寝をしていると
掃除機のヘッドで頭を突かれた
「掃除の邪魔だからリオを連れて外に行ってくれない??」
昼のワインが残っているが、外にいけると思って
はしゃいで居る娘を見るとそれも悪くない選択だと思えてくる
コートを引っ掛けてはしゃぐ娘の手を取り
外に出ると
「帰りに粉ミルクも買ってきて」と後方から言葉が飛んでくる
軽く手を上げて了解の意を示すと
娘と共に公園に向かって走りだした
脇に感じる重さも気にならない程の走りであったが…