朝の1ページ(1)
俺は、朝食を2人分用意した。
親は母親しかいない、父親は出ていくか何かしたらしい。
父親の遺影が飾られてないということは、出て行ったんだろうなと思ってる。
俺は、父親の顔は覚えていないというより、生きてる筈の母親の顔も、若干朧気になっている。
母親はどこかの凄い企業に勤めていて、仕事の邪魔にならないように、俺たち姉弟を別のところで過ごさせている。
たまに帰ってくるのだが、俺が別のことをしてる間に、また仕事に行ってしまう。
というか、姉ちゃんに別のことをさせられて、なかなか会えない。
姉ちゃんも言うなれば天才で、よく企業からオファーが来るらしい、システムエンジニアでもしてるんじゃないか?と睨んでいる。
まあ、その所為かわからないがよく甘みを求めてくる。
今日も甘いだし巻き卵を、朝食に作った。
そんな事を考えていると一人の女がリビングにやって来た。
「……ん、裕樹おはよ」
「おはよう、姉ちゃん」
白い髪で眠たげに挨拶をした女……この人こそが、牧田 華憐である。
「……今日の朝ごはんは?」
「だし巻き卵とご飯と漬物だよ……まぁ、いつものメニューだね」
「……今日はパンが良かった」
「姉ちゃん……今日、ご飯の日って決めてたじゃん、パンにするなら昨日言って欲しかった…」
「……まぁ、裕樹が作るご飯なら美味しいからいける」
姉ちゃんは基本、俺の料理しか食べない。
学校で学食を食べて来たら?って言ったら『裕樹のご飯を食べたら他のご飯にありつけなくなる……と言うか、美味し過ぎるのが悪い』だそうだ。
姉ちゃんから褒められるのは結構嬉しい……母親から褒められた記憶が無いからだろうか?
……いや、優しい笑いで微笑んでくれるからだろう。
「ん、今日の卵焼き、いつもより美味しくないね」
……結構辛辣な事を言ってくるのが多いが。
「あれ?いつもと同じ味付けしたのにな……」
「……少し火加減弱かったのかも」
「あ……今日少し急いでたから……」
「……取り敢えず、冷蔵庫にお弁当用の卵焼きいつもの事なら置いてるから、少し味見するね」
姉ちゃんは結構なグルメで、そう言う事とかによく気がつく人だ。
でも、姉ちゃん曰く『裕樹のご飯の事なら大概わかる』って言ってた……結果、グルメなだけだと思う。
姉ちゃんは、冷蔵庫を開けて、中から少し切られている卵焼きを一切れ摘んで食べた。
「ん、美味しい……お弁当のはちゃんと作られてるね……」
「ごめん、姉ちゃん少し作り直すよ……」
「学校に遅れちゃうよ……それにいつもよりってだけの話だから、普通に美味しいよ」
「そう……まぁ、美味しいって言ってもらって嬉しい」
「……ほら、裕樹も早く食べないと遅れるよ」
「あ、そうだった、それじゃあいただきます」
そう言って俺も朝ごはんを食べた。
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「それじゃあ、いってきます。姉ちゃん、ちゃんと学校行くんだよ?」
「わかってるから……ほら、いってらしゃい」
そう言って、祐樹は家を出て行った。
祐樹たちが住んでいる場所は景色のいい、のんびりとした雰囲気の場所だ。
祐樹たちの学校までは、電車で行く。
駅までの道には、同学校の人、他学校の人……いろいろ居る。
そして、通勤ラッシュと言われる時間帯には、こういう人間もいる訳で……。
「………」
「…………」
黒い髪の毛のサラリーマンと、青い髪の毛の同学校の女子がいた。
しかし、サラリーマンはおかしな様子で、女子生徒は少し頬を赤らめ、涙目になっている。
そのサラリーマンにぶつかる様に、進む祐樹。
そのサラリーマンは祐樹を睨み付けるが、祐樹もそのサラリーマンを睨むことでサラリーマンは諦めた様で、少ずつ離れていく……が、祐樹がそのサラリーマンの手を掴んで「痴漢です!!」と叫んだことにより、猛スピードで逃げようとするが、ほかの乗客にも捕まり駅員に連れていかれた。
「あ、ありがとう……祐樹君」
「別に気にしなくていいよ……柚希さん。それと痴漢にあったら叫べばいいのに」
青い髪の女子生徒……河崎 柚希クラスメートで、仲良くさせてもらっている人でもある。
しかし、引っ込み事案な所があってなかなか主張ができないのが、悩みだ。
「だって……痴漢にあったって叫びにくくて……」
「それでも言うべきだよ……まあ、俺にはわからない苦しみだろけど……」
「……それに、祐樹君が守ってくれるから……」
「?俺がなんだって?」
「な、何でもない…」
柚希は消え入りそうな声で呟いた。
祐樹は少し聞こえなかったようで聞き返すと、頬を若干赤らめて黙った。
それから、電車に揺られて学校の最寄り駅まで喋っていた。