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懺悔   作者: 創造 一輝
最終部
3/3

~闇と記憶~


5.人格


 俺はあの事件が起きてからというもの、毎日を呆然と過ごしていただけだ。

特に変哲もない。そう思っていたが、一つだけ変化があった。

最近になり、頻繁に誠が夢に現れるようになった。

何故かは謎だが、その誠はあの優しく、温厚な誠ではない。

 冷ややかな目をし、心も冷えきっている誠だ。

夢の中の誠はいつも何か叫んでいる。

だが、いつもなんと言っているのか聞き取れず、そこで夢は終了してしまう。

そのことについて、俺はあまり深く考えてはいなかった。


 俺はそんなことを考えずにさっさと母親を捜索しろと自分に命令し、鉛が溜まったように重い、身体を動かした。

すでに、高校は無事合格をし、山形県の中で最高峰の学力を誇る高校に入学予定だったため、そのことについては不安は全くなかった。

 そんなことより、今は母親への恨みで頭の中は埋め尽くされていた。

まず、東京の実家に向かうことにした。

そこに母はいないだろうとは思ってはいるが、可能性は捨てきれなかった。

 小学生の時に来た道のりをそのまま引き返すだけでよかったので、特に迷うことは無かった。

その道のりを歩きながら、祖父母と過ごし幸せに溢れていた日々を思い出し、涙が零れた。

しかし、それと同時にあの幸せな日々を俺から奪った母への恨みは膨らむばかりだった。

思い出に浸りながら、新幹線に揺られ、気づいた時には着いていた。

 東京駅を出て、小学生の時は走った道のりを今度はゆっくりと歩き、故郷に向かった。

そして、家につき、チャイムを押そうとしたがその瞬間に動作を止めた。

表札を一瞥したからだ。

そこには森でもなく、神谷でもない、全く違う名字が書いてあった。

 俺はあぁこの家は売られたんだなと自分が育った場所でもあるこの家を何の感情もなく眺めた。

「やっぱりいねぇ」

と俺は呟き、そのまま来た道を引き返した。


 実は明日が高校の入学式なのだ。

切り替えて通うしかないが、あまり気乗りはしなかった。

一段落したら、捜索を開始しようと思い、心を引き締めた。

その翌日、僕は中学よりも少し遠い距離である高校に向かった。

 入学式を迎えたが、中学校の時とは違い、誰も俺に話しかけにこなかった。

俺が醸し出す不穏な空気を感じたのかもしれなかった。

まぁそれも仕方ないなと半分開き直っていた。

そんなつまらない入学式を終え、俺はさっさと家に帰宅していた。


 平凡で退屈な高校生活を過ごしていた俺だったが、友人と呼べる人間は誰1人として出来なかった。

部活にも入らず、ただ単に授業を受け、学力だけが無惨にも向上した。

俺は勉強に呪われているのかと思うほど、勉強ばかりしていた。

 誠と同じ学校だったはずだが、俺は誠と会うのを避けていた。

なぜかというと、誠のことを考えると頭が割るのではないかと思うほどの痛みが不自然に襲ってくるのだ。

その瞬間も誠が何かを叫んでいるが、依然全く聞き取れない。


6.虚像


 高校二年生になった春休み。

俺は母の捜索を開始した。

東京都全体を出来る限り探し回った。

それを3日間くらい続けていたある日。

見覚えのある顔が遠くの方に見えた。

遠くからでははっきりわからないが、綺麗な顔立ちをしている。

 その刹那、俺はあっ、と思わず言っていた。

千夏だった。

どこかに出かける様子だ。

俺は走って、声をかけた。

「千夏だろ…?」

千夏はいきなり目の前に現れた優也に驚きを隠せないようだった。

「優也くん…。目の下のクマ凄いけどどうしたの?」

 俺は相変わらず千夏は良い奥さんになるような的確なところを突いてくるなと思った。

「ちょっと色々あってな。それより千夏この後なんか予定あるのか?」

正直、ちょっとどころではなかったが、そんなことより千夏に再開できた喜びの方が大きかった。

「本当は友達と出掛けるつもりだったけど、優也くんに会えたし、断っとくよ」

 そう明るく、持ち前のとても可愛らしい笑顔で言ったのだった。

俺は思わず笑が零れた。

俺達は、近くの喫茶店に入り、今の状況と学校生活のことを語り合った。

俺は千夏に祖父母が母親に殺されたことや、誠が夢に頻繁に登場し、考えると頭に割れるほどの痛みが襲ってくることなどを隠さず全て話した。

 その際、千夏は自分のことのように感情移入して聴いてくれた。

「そうだったんだ…。これからは私が優くんのことフォローする。だから、元気だして!」

と励ましてくれた。また、初めて優くんと俺のことを呼んだ。

だが、千夏も俺の不穏な雰囲気に気づいたようだ。

「優くんなんか変わったね。本当に大丈夫?」

「大丈夫だ。少し頭痛がするけどな」

 俺は笑ったつもりだったが、顔は痛みで引きつっていたのか、千夏が心配し外に連れ出してくれた。

「ごめんな。心配かけて」

「そんなこと大丈夫だよ。それより優くんまるで別人みたい…」

そんなことをぼそっと言った。

実は俺も自分自身の変化に気づきつつあった。

頭痛に襲われる度、どんどん性格が変化しているようなのだ。

 そんなことを考え始めた途端、俺はその場に倒れてしまった。

倒れる瞬間、千夏の驚愕と心配の混ざった顔が視界に入った…


 どうやらここは病院のようだ。

真っ白な天井が視界に入ったからだ。

その後、千夏の心配した顔が現れた。

千夏は優くん優くんと呼びかけている。

「千夏…」

それだけの声を出すのが精一杯だった。

「あ、優くん!大丈夫?」

 千夏はそういった後、俺のベットの横にある呼び出しボタンを押した。

その約1分後、医者がやってきた。

四十代半ばといったところか。男性だった。

「特に身体に問題は見つかりませんでした。ただの疲労でしょう」

医者はそう言った。

 俺は一番気になることを問うた。

「脳内に異常はなかったですか」

「ありませんでした。正常な脳でしたよ」

そんな…と思ったが、口には出さず、そうですかと言って会話を終わらせた。

俺がそう言うと医者はお大事にと言ってそそくさと出ていった。

 千夏は医者から俺に視線を移し、大丈夫そうで良かった。と心底安堵したような表情をした。

「やっぱり優くんが心配だよ。春休みの間だけ、優くんの家に泊まってもいい?」

俺からしたら予想外の言葉で舞い上がるような提案だったが、あまり千夏に心配はかけたくなかったため、ここは男らしく断っておいた。

だが、時期に電話をする約束をし、この日は別れた。


 千夏との再会を果たした俺だったが、依然頭痛は収まるどころか酷くなっていた。

この頃になると、誠が叫んでいる言葉も聞き取れた。

「記憶の誤差だ!目を覚ませ!」

と叫んでいるようなのだが、俺には全然なんのことかわからなかった。

俺はいつしか、高校を卒業し、大学への進路を決める時期に突入していた。

時というのはこんなふうに儚く過ぎていくのだなと俺はこの時初めて実感した。

 千夏との電話の回数は徐々に増え、毎日するようになっていた。

そんな時、千夏から提案があった。

「一緒に住まない?」と。

俺はもう大学生だし、千夏の言葉に無論異存は無かったため、素直に賛成した。

 千夏も心做しか嬉しそうだった。

あくまでも電話だが、千夏の美しい笑顔が目の前に浮かんだ。というより、妄想した。と言った方が正しいかもしれない。

千夏との住居を整え、場所も決め、準備は完璧だった。

 俺はワクワクしていたが、やはり母への恨みは消えたわけではなかった。

千夏がそのことを察してか、あまり気にしない方がいいよと言ってきたが初めて千夏の言葉を無視した。

千夏は一瞬ムッとした顔をしたが、すぐ明るい顔になり

「ねぇねぇデート行こうよぉ。久しぶりにさ」

と若干の甘えた声でねだってきた。

 俺としては千夏からこれをされると断ることが出来ない。

あまりに美しいし、千夏を悲しませるのは嫌だからだ。

そして、その日は千夏とのデートを1日中存分に楽しんだ。

その夜、千夏が誰かと電話しているようだ。

 俺はもう布団に入っていたが、千夏はまだやることがあるからと言ってリビングにいるのだ。

扉がしまっているため、なんて言っているのか定かではないが、別に気にする必要はないだろうと思い、その日はそのまま就寝した。

だが、次の日もその次の日も、同じ時間に電話をするもんだから俺はとうとう我慢出来なくなり、寝室からリビングに向かい単刀直入に問うた。

「おい。毎晩毎晩誰と何を話してんだよ」

 千夏は怯えているようだった。

手と声が微かに震えていたからだ。

「ごめんなさい。ちょっと用があって」

「用ってなんだよ。電話変われ」

と俺は半分命令口調で電話を千夏から取り上げた。

千夏は抵抗しなかった。

「千夏と毎晩電話してるのは、どこのどいつだ」

「私よ」

 俺はその瞬間違和感を覚えた。

どこかで聞き覚えがあ…

そこまで考えたところで思考は半分停止し、顔は愕然とし、言葉を失った。

驚きが強すぎたせいか、そのまま気を失いそうになったがなんとか耐え、

「まさか…」

「そうよ。そのまさかよ」

その声は確かに母だった。

 俺は千夏の方を一瞥した。

千夏は俯き加減で申し訳ないという顔をしていた。

ここまで落ち込んだ千夏を見るのは初めてだった。

俺は徐々に思考が戻りつつある中で母への恨みを思い出し、

「おい!祖父母を殺ったのはお前だろ」

と乱暴な口調をあえて使った。

 だが、母は全くひるまず

「そうよ。口論の末に刺しちゃった」

と高笑いするのではないかと思うような口調だった。

俺は怒りで身体が震蕩した。

「ふざけんなよ…俺の大事な人を!」

 俺はそういった所で、怒りに身を任せ、電話を思い切り投げた。

千夏は驚いたせいか、キャッと叫んでいた。

俺は千夏の首筋を掴み、

「なんでだ。なんであいつと話してんだよ」

と強い口調で聞いた。

「やめて…苦しいよ…」

 千夏がそう俺とは真逆の弱い口調で言ったので、俺は我に返りすまんと言って離した。

「本当にごめんなさい…あなたのお母さんに優くんを見張っててほしいって言われて…」

千夏はそこまで言ったところで泣き出してしまった。

 俺は気まずい雰囲気すぎたため、慰めてやることさえ出来なかった。

俺は千夏に八つ当たりしてしまったことを深く反省した。

「千夏。ごめん。少し腹が立ってたんだ。」

と謝った。

すると、千夏は

「私が全部悪いの。あなたのお母さんに協力したのが」

とまだ半泣きの状態で言った。

「だけど、一つだけお願いがあるんだ。あいつに俺と会うように言ってくれないか」

 千夏は俺を弱々しく見つめ、コクっと頷いた。


7.復讐


 それから数日後、俺はあいつと会う約束をした場所にむかっていた。

あれだけ今まで復讐を夢に見て、恨みに震えていたのにいざそのような日になると意外にも緊張などはしなかった。

人間とは不思議なものだ。と心底感じた。

約束の場所は千夏と再会し、語り合ったあの喫茶店だ。

 後、歩いて5分といったところか。

もう少しだ。と自分に言い聞かせ、1歩ずつ歩を進める。

目的の喫茶店が見えてきた。

その喫茶店にあいつはいた。

 神妙な面持ちで前を見つめ、珈琲を飲んでいる。

呑気な野郎だ。今に見てろと心の中で独り言をいい、喫茶店の扉を開けた。

だが、そこで俺の視界がゆらゆらと揺れ始めた。

目眩のようなそう出ないような。

よくわからないものだったが、すぐに俺は視界を元に戻そうとし、そのまま発狂したがら母に向かい突撃した。

 母は驚嘆し、言葉を失ったようだ。

俺は母を刺し殺した。

だが、そこで例の頭痛が襲ってきた。

加えて、先程の目眩のようなものも俺を襲い、そのまま気を失いそうになった。

その刹那、誠が俺の視界に現れた。

 俺は何故だと思ったが、言葉はでなかった。

そして、誠が言葉を発した。

「俺は本当は存在しないんだ。優也の頭の記憶の中で誤差が起き、そこで俺という架空の人物を作り出したんだよ。思い出してくれ」

そう言って誠は消えた…


エピローグ


 俺は最初自分が何処にいるのかわからなかった。

だが、その後視界が徐々にぼやけているものから、はっきりとしたものに変わる中で病室だと理解した。

まず自らの身体を確認した。

確か、母を刺し殺したはずだったが。

俺は自分の体を確認した途端、目を見開き、口は震蕩し、言葉を失った。

小学生の頃の身体に戻っていたからだ。

 俺は思わず、叫んでいた。

「あぁぁー!!なんでだ…」

そこ声に驚いたのか、医者がやってきた。

「どうしたんです?!」

「なんで俺が小学生なんだ…」

「なんでって、運ばれてきた時から小学生ですよ。一体何が起こったんですか」

 医者は何が何だかわからないという表情をしていたが、一番驚いているのはこの俺だ。

「とりあえず脳内を見てみましょう。何か、記憶に誤差が起きたのかも知れません」

俺は検査を終え、医者の言葉を待った。

「特に問題は無いですが、ノンレム睡眠中に沢山の夢を見ています。通常なら、夢というのはレム睡眠時に見るものなのですが。奇妙です。」

医者はそう語った。

 俺はこの状況を整理しようとしたが、頭がうまく働かなかった。長い時間寝ていたせいかもしれない。

「何故俺がここに運ばれたんですか?」

医者は驚いていた。

「それさえ、わからないのですか?あなたは、お母さんに刺され、何箇所も刺されていたため、ある脳死の患者さんの体を移植しました」

 俺は言葉を失った。そんなことがあったなんて。

だがしかし、なぜ自分は母に殺られたことを覚えていないのか不思議だった。

また、変な夢を見たのか。

俺は医者に問うことにした。

「名前はなんという方の身体ですか?」

「新羅誠さんという方です。高校3年生の時に母を喫茶店で殺し、そのまま脳死してしまった悲惨な方です」

 医者はそう言うととても悲しそうな顔をした。

だが、俺はそれとは逆で驚きを隠せなかった。

新羅誠…誠…誠!!

俺は夢らしきものに出てきた人だと思ったが、何故だと思った。

その時俺は一つの考えが浮かんだ。

もしかして…まさか。

「もしかして脳もその方のものを移植しましたか?」

「はい。無事上手くいったはずです。」

 俺はその言葉を聞き、納得した。なるほどと。

つまりこういうことだ。

俺自身が小学生の頃、東京の自宅から、逃げようとしたところを母に目撃されたのだ。

夢の中では成功だったが、その時にはもう俺は母に殺されていて、そこからの記憶は全て、誠さんの記憶なのだ。

 つまり、誠さんは山形県出身で、学力もとても良かったはずだ。

あと温厚な祖父母も誠さんの祖父母だったのだ。

きっと、誠さんは母に恨みを持っていて、最後喫茶店で母を殺した。しかし、そこで病に襲われ、脳死してしまったのだ。

 誠さんの記憶に誠さん自身が現れたのも、頭痛の原因も、俺の性格が変化したのもすべて脳を移植した影響だと俺は推測した。

千夏も誠さんのガールフレンドだったんだな。

俺はあの温厚な誠さんの分まで生き延びようと決意した…


THE END。

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