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懺悔   作者: 創造 一輝
第二部
2/3

~希望と闇~


3.遁走


 森優子は、足をふらつかせ、今にも倒れそうになりながら、とても肌寒い家路を歩いていた。

「今日は少し飲みすぎたなー。優也しっかり勉強してるかな」

酔った口調で優子は独り言を発した。

優子の服装はかなりの薄着だったが、酔っているため、寒くはないのだろう。

家には残り5分くらいで付く道のみだが、この足取りだと10分ほどはかかるだろう。


 僕は山形に逃げる準備を着々と進めていた。

そして、最後の確認作業に取り掛かった時、重大な物を忘れていることに気がついた。資金だ。以前、僕の将来のためにお金を貯めていると、元父が言っていたのを思い出した。その記憶と同時に、まだ家族3人、仲良くご飯を食べたり、遊んだりしていた時の記憶も頭の押し入れから出てきた。だが、僕はすぐに頭を左右に振り、その記憶をまた押し入れにしまった。

「こんなこと考えている暇はない。時間が無いんだ」

そう自分に喝を入れ、その資金を詮索し始めた。

 まず、リビング、寝室、物置部屋など、その後も探したが一向に見つからなかった。

資金を探し始めてから五分が経過していた。

焦っていたため、正確な時間は把握していないが、そのぐらいだと予想した。

更にあることが僕の焦りを倍増させた。

 母が徐々に迫ってきていることが何となく分かるのだ。

だが、まだ諦めてはいけないと自分に強く言い聞かせ、唯一残っていた自分の部屋を詮索することにした。

もしそこになければ諦めようと思っていた。

希望を失いかけながら、自らの部屋を詮索し始めて3分。

 タンスを手探りで探していたのだが、薄手の手帳らしきものが手に当たった。

それを引っ張り出してみると、なんと通帳だった。

喜悦の声を上げた。

だが、すぐに現実に戻されることになった。

もうあまり時間はない。

今すぐ家から出なければこの奇跡も水の泡となってしまうかもしれない。

すぐに通帳をバックの小ポケットに大切に入れた。

 その際、通帳の残金を一瞥した。

なんと、500万円以上入っていたのだ。

またも喜悦の声を上げそうになりかけたが、寸前で止めた。

今ここで声を上げてしまうと、母が近くにいた場合、バレてしまう危険性があるからだ。

 すぐに扉を開けようとした。だが、慎重に開けた。

そして、外に出た時、ハイヒールの音が聞こえた。

すぐに母の足音だ。と確信した。

咄嗟の判断で、庭の物陰に隠れることにした。

徐々に母の足音が迫ってきている。

こんな緊迫した雰囲気の中でも僕は何故か冷静だった。

 母が酔っ払っていることが足音から判断できるほどだ。

そして、母が僕の真横を通り過ぎて行った。

僕は安堵した。

だが、その一瞬の油断が命取りとなった。

少し草のカサッという音をたててしまったのだ。

 その途端、母は僕の方に目線を移した。

だが、酔っ払っていたからか、すぐに目線を扉に移し、中に入っていった。

もう手汗と脂汗で身体中、ベトベトだった。

それを軽く拭い、すぐに駅に向かい遁走とんそうした。


 無我夢中で走っていたため、気づいた時にはもう東京駅に着いていた。

手元の時計で時間を確認した。

短針が8時を指し、長針が10分を指していた。

この時計は元父が僕の誕生日に、役に立つからと言ってプレゼントしてくれたものだ。

東京駅は思った以上に大きく、格好良かった。

新幹線に乗るのも、電車に乗るのも初めてだった。

 今まで、使う機会がなかったのだ。

正確に言うと、与えられなかったとでも言うべきか。

したがって、緊張も無論していたが、ワクワクする気持ちの方が勝っていたかもしれない。

僕は無事、新幹線乗り場にたどり着くことが出来た。

物覚えだけは昔からよかったため、すぐに覚えることが出来た。

 現時刻、8時35分。

新幹線が目の前で止まり、扉が開いた。

まるで希望への道が開くようだった。

これからの生活への希望を抱いて乗り込んだ。

自分の席に座り、まずは自分を素直に褒めた。ここまでよくやったと。

 新幹線に乗りながら、祖父母が、初めて会う孫であり、いきなり現れた孫であるこの僕を受け入れてくれるか、とても不安だった。無論、僕も祖父母に初めて会うため、緊張しているのもあった。

そんなことを想像している内に、山形駅に到着し、乗り換えて祖父母が暮らしている庄和町に向かった。

無事に庄和町に到着することが出来た。

 僕の目には期待以上の自然、見渡す限りの畑など壮大な美しいパノラマが広がっているはずだった。

しかし、現実は違った。

真っ暗すぎて殆ど何も見えなかったのだ。

それもそのはず、かなりの田舎のため、街灯がとても少なく、いや、ないと言った方が正しいかもしれない。

 そのくらい暗かった。

まるで、この暗闇が僕のこれからの生活を暗示しているのかと不安な気持ちになったが、それをすぐに打ち消し、希望への第一歩を踏み出した。


4.恩恵


 記憶が正しければ祖父母の名字、そして母の名字は「神谷」だったはずだ。

したがって、僕は神谷の表札が出ている家を捜索することにした。

時刻は11時を既に回っていた。

 暗闇の中、探すこと15分。

凍えるほど寒い夜道を歩きながら、神谷の表札を探していたその矢先、神谷の表札を見つけることに成功した。

しかし、まだ祖父母の家なのかは、わかっていない。

僕は意を決して、チャイムを押した。

ピンポン!と僕の胸中、また、この暗がり静けさとは裏腹に甲高い音が鳴り響いた。

 中から「はーい」と年配の女の人らしき声が聞こえた。

そして、扉が開いた。

見た瞬間に祖母だと確信した。

とても母に顔つきが似ていたからだ。

 祖母も僕が誰だかわかったようだ。

「優ちゃん…?」

「僕のことを知っているの?」

「もちろんよ。何度もあっているもの」

 僕は「何度も会っている」という部分に疑問を持ったが、そんなことを考える暇もなく、

「さぁ中に入って。寒いでしょ」

と中に促されてしまった。

「とりあえずお茶準備しますね。喉乾いたでしょ?」

確かに喉はカラカラに乾ききっていた。

 僕の家とは比べ物にならないくらい小さく、こじんまりとした佇まいだったが、こっちの方が柄にあっているような気がした。

居間には祖父もいた。

祖父に挨拶をすることにした。

「こんばんは。いきなり上がり込んですみません」

「固い挨拶だな」

と少し野太い声で言い、微笑んでくれた。

 こんな僕を受け入れてくれたことに感謝の意を心の中で示した。

だが、未だ、「何度も会っている」という祖母の言動が気になっていた。

「さぁお茶の準備ができたわよ」

祖母が明るい口調で言った。

 そして、皆でお茶の間の時間を過ごした。

とても幸せだった。

僕は早速聞きたかったことを単刀直入に聞いてみた。

「僕と何度も会っているの?」

僕がそう言うと祖父母は少し険しい顔をしたが、すぐに笑顔になり、

「会ってるよ。優子の出産の時も立ち会ったし」

と祖母が言った。

 すると、今度は祖父が

「最近までは普通に仲が良かったんだ。しかし、あの出来事が起きてからは…」

祖父はそこで言葉をつまらせた。

僕はもうこれ以上聞くと、雰囲気が悪くなるのを察し、違う話題を振ることにした。が、その前に祖母が質問をしてきた。

「優ちゃんはどうしてこっちにいきなり来たの?しかもこんな夜中に」

 僕は今までの経緯などを隠すことなく、全て語った。

すると祖母はそうだったの。と言って真剣な顔で聞いてくれた。

そして、

「そういうことなら、これからはここで暮らしましょう。私たちが責任を持って育てるからね」

と、とても優しい声でまた、とても優しい笑顔でそう言ってくれた。祖父もうんうんと頷きながら、笑顔を浮かべていた。

 僕は嬉しさと感動のあまり、涙を流した。

祖母はよしよしと優しく頭を撫でてくれた。


 それからの日々はとても幸せな日々だった。

祖父母からの愛情を受け、僕はどんどん学力が向上し、身長も伸び、すくすくと育っていった。

東京にいた時とは正反対の生活で、僕の表情は徐々に笑顔であることが増えていった。

そして、中学校に進学した。

 無論、私立ではなく、公立だ。

でも、公立でも十分に満足している。

それ以前に、この生活が幸せすぎて、中学校はどこでもよかった。

中学校の入学式の日。

笑顔で祖母に送ってもらい、希望を胸に登校した。

 正直なところ、小学校の頃にいじめられていたため、中学校でもいじめられないか、とても不安だった。

だが、その不安は入学式を迎えると同時に消え去った。

なんと、沢山の同級生が僕に話しかけてきたのだ。

 山形は、中学生まで心優しいのかと僕は感心してしまった。

その中でも、より交友を深められたのは「新羅誠しんらまこと」という同級生だった。

 僕に一番最初に話しかけてきてくれた同級生だった。

一番最初にということも交友を深めるきっかけになったが、何よりも、とても気が合った。ということが一番だろう。

 僕が唯一、幼少期、両親から見るのを許されていたアニメである、ワンピースの話で盛り上がったり、勉強でわからないところも見事に合致し、一緒に先生に聞きに行ったりした。

毎日、一緒に登下校をし、放課後は一緒にスポーツをしたりもした。

 無論、僕は今までスポーツというものを知らなかったため、誠に教えてもらい、スポーツの楽しさを知った。

ちなみに僕はサッカー部に所属することにした。誠と一緒に。

 全くの初心者だったが、部活の仲間が丁寧に教えてくれたおかげですぐにルールやコツを掴むことが出来た。

部活の仲間にはとても感謝している。


 実は入学式の時、誠の次に話しかけてくれた女子がいた。

その時、僕は初めての感情を覚えた。

これが俗に言う恋だろうか。

僕にはわからないが、一目惚れしたのかもしれない。

名前は「森山千夏もりやまちなつ

 そこまで、ずば抜けて美人という訳では無いが、笑顔がとても美しかった。その笑顔から優しさが醸し出ていた。

実際に話してみても、イメージ通りとても優しかった。

 その後も、交友を重ね、誠と帰らない日は都合が合えば、森山と帰ることになった。

そして初めて一緒に帰るチャンスが来た。

誠が勉強の補習を受けるため、居残りをするということだった。

 これはチャンスと僕は肝を据えて森山に一緒に帰ろうと言ってみた。すると、

「喜んで!初めて優也くんと帰れて嬉しいよ」

との笑みで言ってくれた。

僕は嬉しすぎて、また、森山の笑顔が美しすぎてキスしたい衝動に駆られたが、寸前で我慢した。

 僕は帰路を森山と歩くことが出来て、有頂天になっていた。

ここで告白しようか悩んだが、やめることにした。

まだ少し早すぎると思ったからだ。そのくらい恋愛初心者の僕でも理解していた。

この頃から、結局勉強なんて意味は無いな。と感知していた。

 そして、勉強ばかりやらせた両親に改めて恨みの念を抱いた。

やはり、人生においての幸せは友達と遊んだり、話したり、恋をしたり、運動をすることなどが本当の幸せなんだなと身に染みてわかった。


 あっという間に楽しい時はすぎ、中学校三年になっていた。

部活ではFWを担当するようになり、誠とは更に友情を深め、親友になっていた。少なくとも、僕は誠を親友だと思っている。

勉強では今まで勉強してきたことをすべて生かし、定期テストで今まで1位以外を取った経験はなかった。

偏差値も驚異の70越えだった。

 僕は祖父母に迷惑をかけたくはなかったため、勉強も引き続き、頑張り、高校は公立に行く予定だ。

しかし、一つだけ、まだ達成出来ていないことがあった。

それは恋愛だ。やはり、恋愛は苦手だ。

祖父母が必要だからといってスマホを持たせてくれたおかげで、そのスマホで恋愛について知識を深めたりした。

 だが、深めれば深めるほど恋愛はわからなくなるというのもつい最近、気づいた。

経験が大事ということなのだろう。

まだ、千夏のことは好きだったのだが告白するタイミングが見つからず、結局は友達止まりだった。

 この頃はもう千夏と呼んでいた。

しかし、まだ僕は諦めていなかった。

もちろん誠には千夏のことが好きということは伝えてあった。

そうしたら、誠は勇気を僕に与えてくれた。

「頑張れ!勇気を持って。てか、その前にそのネガティブを直せよ」

と言って、にかっと笑った。いかにも、誠らしい笑顔だな。と思った。僕はこの笑顔が好きだった。

 そして、誠にも協力してもらい、二人で帰るチャンスが巡ってきた。

僕は何度も逡巡したが、誠の言葉を反芻し、勇気を出して告白した。

「千夏。俺実は…」

と言いかけたところで千夏に止められた。

 えっ!と僕は驚いたが、千夏の言葉を待った。

「私の事好きなんでしょ?知ってたよ。私も優也くんのこと好き」

と恥じらいながら千夏の方から告白をしてくれた。

 僕は嬉しさのあまり、喜悦の叫びをあげてしまった。

そして、そのまま衝動的に千夏を抱きしめた。

とても良い香りがした。

僕は家に帰っても興奮が冷めやらず、ご飯を食べた後、いつもなら勉強をするのだが、全く頭が回らなかったため、千夏と電話をした。

 友達の時とは違う緊張感があり、ところどころ噛んでしまったが、千夏はそんな僕にも笑ってくれた。

千夏のそういうところが僕は大好きだった。


 そんな幸せに満ちた日々を過ごし、卒業式はあっという間にやってきた。

僕は悲しさのあまり、誠と共に号泣した。

誠とは奇跡的に、同じ高校に進むことが出来た。

誠も学力はかなり優れていた。

しかし、千夏とは離れ離れになってしまうことになった。

 だが、それでも会える日は会おう。と約束を交わし、初めて唇を交わした。

僕は他の同級生と別れの挨拶を済まし、家に向かった。

その時、何故か胸騒ぎを感じた。

今まで感じたこともない胸騒ぎだ。

 嫌な予感がし、走って祖父母がいる家に帰った。

学校から走って5分の位置に家はある。

その5分が変に長く感じた。

そして、到着し、扉をすぐさま開けた。

そこには衝撃的光景が広がっていた。

 祖父母の遺体が、並んでいた。

いずれも、心臓の当たりを刺されたようだ。

大量出血している。

僕はそのまま膝から崩れ落ち、呆然とした。

人は驚愕しすぎると、涙も言葉も出ないのだとこの時初めて知った。

 だが、少しずつ脳が機能を取り戻す中で、祖父母を殺した犯人に怒りを抱き、体が激しく震蕩した。

僕は犯人がもう既に分かっていた。

それはなぜかというと、家の居間に微かにだが足跡があった。

それがあのハイヒールの足跡だった。

母の足跡だ。僕は確信した。

 この時、僕の心の奥底でとてつもなく強い闇が蠢き始めた…

それと同時に俺は母への復讐を決意した。


続く


優也は母を見つけ、復讐を果たすことが出来るのか…!

一番最後の僕だった主人公が俺に変わったのはどうしてなのか…

真相は第3話で明らかに…!!

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