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ボロアパートの壁が彼女の部屋と繋がってしまったので商会を営んでみた。  作者: 之 貫紀
地方商会

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022 モデルスカウトは突然に

彼女?いや、彼氏か。は、背筋を伸ばし、美しい所作で紅茶を口に運んでいた。


「えーっと、フルガルドさん?」

「アンジュと呼んでください」

「わかりました。では、私のことはユーダイと。それで、アンジュさん」

「はい」


「あなたのそれは趣味ですか? それとも男性が好きな人?」


なんと言ったらいいのかよく分からなかったので、もうやけくそで、まっすぐ突っ込んでみた。


「ああ。よくわかりましたね」


にっこり笑ってそう言った。

こうしてみると女性にしか見えないよな。声にも別に違和感がないし。


「ええ、まあ」

「綺麗な服を着るのが好きなだけで、好きなのは女性ですから、安心してください」


女装が趣味の人だったか。


こっちの世界には可愛い男性向けの服ってないしなぁ。いや、現代日本にもそんなにはないけど。

ユニセックスな服はあっても綺麗だとか可愛いだとかとは無縁だもんな。


「いえ、別に心配はしていませんが……」


「お師匠様。(わたくし)ちょっと、奧で休ませて貰っても?」

「あ? ああ。大丈夫?」


大丈夫ですわーと言いながら、ヴィオラールは混乱していた。

彼女は魔力でものを見るから、視覚から入ってくる情報と、魔力から伝わってくる情報に齟齬があってこんがらがってるんだろう。



そのとき、下から、ちりんちりんとドアベルの音がしたかと思うと、たかたかと誰かが階段を上がってきた。


「ちゃーす」


なんて軽く言って入ってきたのは、ヴィーだ。

一応ここは貴族向けに作った店舗なのに、そんなにフランクに入ってきて、接客中だったらどうするんだよ。

なにか、階下にサインでも作った方が良いかな、『接客中』みたいな……


「お? おお!?」


なんだ? どうした? アンジュを見て固まってるぞ。男だって気づいたのか?


すぐに活動を再開したヴィーは、素早く近づいてくると、アンジュの腰をペタペタ触り始めた。


「ちょ、ちょっと! 何をするんですか!」

「んー、いい! キミいいよ!」


何が良いんだ。


「キミ、モデルやらない?」

「は?」


「それなりにある上背とバランスのとれた骨格。小さい頭に、細いが健康的なプロポーション。ついでに胸のなさが実にいい!」


ああ、まあモデルってだいたいそんな感じだよな。

しかし、このノリ。港区あたりに出没する、怪しげな自称デザイナーのおっさんかよ……


「わ、わるかったな、胸が無くて」

「悪くなんかないさー。サイコーだよ! それで、ユーダイ、誰なのこの人?」


「おまえな、そいつが買い物に来ている貴族様だったらどーするつもりだったんだ」

「ええー!? そっかー。そう言う可能性もあったのか! ヤバイねー」


ヤバイねーじゃないよ……もしそうだったらどうするんだよ。


「不敬罪で、無礼打ち?」

「無礼打ちなんかあるのか?」

「昔はあったみたいだけどねー。テップ伯爵様なら、そういうのはしないと思うな」


うんまあ、あの人は、確かにそういうタイプじゃないよね。


「それでこの人は?」

「こちらはアンジュ。教会から治療院のお手伝いで派遣されてきた人だ。アンジュ、こちらはヴァネッサ。うちの店主のアイリスの友達で、服飾をやっているそうだ」


初めまして、とか挨拶しあってる。


「それで、なんだって?」

「そうそう、それなんだけど――」


なんでも、ヴォルプリが近づいてくると、いろんなイベントが催されるんだそうだ。


ヴォルプリ? テップ伯爵もなんだかそんなことをちらっと言ってたけど、何かのイベントか何かなのかな?


「なに、ユーダイ、ヴォルプリを知らないの?」

「うん。うちのほうにはなかったな」


しょうがないなーと言いながら説明して貰ったところによると、白の月の最後の日のことらしい。


翌日の緑の月の1日目は、ベルティナの日と呼ばれ、再生の日であり、1年の最初の日なのだとか。

なるほど、冬の最後の日ってことか。大晦日と言うより、ヴァルプルギス(*1)なんだな。


「なんだ、そっちにもあるんじゃない。当然か」

「こっちでは、ヴァルプルギスの夜って言われてたよ」

「へー。それでね、その日はまあどこもかしこもどんちゃん騒ぎをするわけ。なにしろ、ベルティナの日は、別名二日酔いの日って呼ばれてるくらいだから」


その日を含めて5日(いつか)くらいは、国中でいろんなイベントが行われるんだそうだが、そこに服の発表会もあるんだとか。ファッションショーみたいなものかな。


「それに出品するんだけど、服があれでしょ? モデルはアイリスに頼もうと思って来てみたんだけど……こんな逸材がいるなんて!」


「いや、だけど彼、男だよ?」


と、一応突っ込んでおいた。


「おとこ?」


ヴィーはアンジュをまじまじと見た後、


「いいのいいの。男だろうと女だろうと、美しけりゃなんでも」


と言った。おおざっぱなヤツだな。


「いや、着替えとか、他のモデルがいやがるんじゃないの?」

「ああ、大丈夫。舞台裏は戦場だし、性別とか裸見られるとか気にする余裕のある人いないから。作り手には男性もいるし」


まあ、そういうことなら、あとはアンジュの胸先三寸かな。


「神の(しもべ)たる私に、そんなうわついたことは……」


アイリスの親友だし、一応協力しておくか。


「綺麗な服、たくさん着られるってよ」

「やります!」


よーし、よく言った! とにこにこ笑うヴィーが、んじゃちょっと来てとアンジュを引っ張って出て行った。


 ◇ ---------------- ◇


ランウェイ(*2)っていうとモデルウォークかねー。

と、元の世界に戻ってきた俺は、モデルウォークを始めとするモデルトレーナーの書いた本を購入していた。


これを渡しておけば、アンジュも何とかするだろう。


あれ? そういえば、アンジュって、治療所の話で来たんじゃなかったっけ?

その話、全然してないんじゃ……


*1 ヴァルプルギス

ヴァルプルギスの夜。

ケルトでは1年が暖季と寒季の2季に分けられていて、寒い季節の最後の日の夜のこと。

80年代以降いろんな物語で有名になっているので、あとは割愛。


*2 ランウェイ

runway。

ファッションショーでモデルが歩く場所。キャットウォークとも言います。

歩くときにrunawayしそうになるくらい緊張するところから付いた名前……ではありません。


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