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ボロアパートの壁が彼女の部屋と繋がってしまったので商会を営んでみた。  作者: 之 貫紀
地方商会

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016 会社始めませんか?

「そ、それで、白金貨10枚(1億円)で売っちゃったわけ? アダマンだよ?? 銀貨1枚(1000円)で買えるよ!?」

「伯爵様が話の分かる人でよかったよな」


ああ~そんなものを王様に献上して、ご領主様の首が飛んだらどうしよう。うちのお店も取り潰しにあっちゃうかも、なんて頭を抱えているけれど、価値の低いものに加工を施して価値を高めるのが生産ってもんだぜ。


「というわけで、ヴィオラールへの支払いは白金貨1枚くらい?」

「え? 弟子は衣食住の保証はしていただきますが、給金はいただかないものですけど」

「給料なしとか、どこのブラックだよ! うちはホワイト企業を目指してますから」

「ブラック? ホワイト?」

「あー、つまり、ヴィオラールは職人としてこの商取引に参加しているから、職人への分け前みたいなものだと思ってくれれば」

「でもあれは修行の一貫ですわよね? それに(ことわり)と言うのは凄いものですわ。(わたくし)たった数日で、今までの倍以上の回数、魔法が使えるようになりましたのよ」


どうやらイメージが強固になったおかげで、同じ効果を得るのに魔力の消費量が少なくて済むようになったらしい。


「ガラスの成り立ちを教わったおかげで、かなり薄く透明なグラスも作れるようになりましたし、まだお師匠様ほどのものは作れませんが」


う。なんかソンケーの眼差しを感じる。ちょっと良心が痛むな。


「ですから、お金を支払うことはあっても、貰うことなど……」

「ええい、やかましい! うちは働いたらそれに見合ったお金を貰えるの! それがルールなの! アダマンに価値を付与したのはヴィオラールなんだから、大人しく受け取っておくように!」

「は、はあ……」


無理矢理納得させはしたけれど、それでもたった1個で私のお給金の一月分は貰いすぎなのでは……なんてぶつぶつ言っている。てか、こいつ、19歳で年収白金貨4枚(4000万円)なのか。くっ、うらやましくなんて無いんだからね!


「アイリス。俺はちょっと、代金を受け取りに行く際に伯爵様に献上するワインを選んでくるから、後のことはよろしくね」

「えー、私も一緒に行きたい」

「お店があるでしょ。そのうち休みの日を作って、その日に連れていってあげるから」

「うー。絶対だよ?」

「はいはい」


 ◇ ---------------- ◇


しかし、あれだな。

食料品はなるべく持ち込まないようにしようと思っていたのに、限定とはいえ、たがが外れかけてる感じでヤバいよな。

向こうでそれを一般に広く売っている人たちの商売の邪魔は、なるべくしないように気をつけよう。そうしよう。


そんなことを考えながらワインショップの入り口をくぐった。


伯爵にお出ししたのはイタリアワインだから、ここはイタリアで統一しておくか。

鉄板なのは、赤ならピエモンテのネッビオーロ、トスカーナのサンジョベーゼか。アブルッツォのモンテプルチアーノ(*1)もいいな。

白ならアルト・アディジェ(*2)の各種ブドウだろう。


安定して供給する必要が出るかも知れないから、ここは大手のものにしておこう。銘酒と謳われながらも意外と買えちゃう、ティニャネロと、ソライア(*3)もいれちゃえ。

白は、トラミンとフランツ・ハースでいいか。特にフランツ・ハースのマンナ(*4)は香り番長だからな。ハッタリがきいていて、あの伯爵なら好みだろう。


支払いを済ますと、現金残高が1千万を切りそうな勢いだ。おかしいな。つい半月前に5000万ゲットしたはずなんだけど……


 ◇ ---------------- ◇


「ちわーっす」


俺はマルゲンのドアを開けて挨拶した。


「お、また来たな」


「先日はどうも有り難うございました」


と、先日借りたダイヤモンドをお返しする。


「役には立ったのか」

「そりゃもう」


といいながら、カットしたルースを3個取り出した。9ct, 5ct, 2ct クラスだ。

それを手にとってルーペを除いた源三郎さんが、


「これはどこでカットしたんだ?」


と聞いてきた。異世界でとは言えないし、いやまあ、としか答えられなかった。


「おまえ、まさかどっかのヤクザのロンダリングとかやってるんじゃないだろうな」

「とんでもない」


「このカットは、最近流行のガードルの数を増やしたりするタイプとは違うが、完璧なラウンドブリリアントカットだ。しかし凄いのはポリッシュだな。信じがたい美しさだ」


うんまあ、空間断裂ですからね……


「トリプルエクセレントは確実だな。H&C(*5)も出てそうに見える」


「で、どうするんだ? 売るのか?」


「ラフとルース、どっちがいいですか?」


源三郎さんはしばらく考えた後、ふとこういった。


「お前、税金とか大丈夫なのか?」

「え?」


しまった、これ全部俺の収入扱いになるのか! 今、所得税の最高税率って……


「45%ね。住民税を入れると55%くらい」


振り返ると、佐野さんが立っていた。


「ええ。じゃあ1億円所得があると5000万くらい持ってかれるってこと?」

「最高税率が適用されるのは4000万円以上の所だけだけど、まあ、大体そんな感じ」


ごはー。何処にあるんだそんな金。


「でな、どこから持ってきているのかしらないが、これからもこういうものを売ったり買ったりするんなら、輸入業の会社でも作ったほうが良いんじゃないか?」

「会社っすか」

「個人事業主でもいいが、この規模だと会社を作った方が税金も安いだろう」

「でもどうやって作ったらいいのかもわかんないですからね……」


「じゃ、私が手続きしてあげようか?」

「はっ? できるの?」

「失礼ねー、私、これでも一橋商学部の4回生なんですからね」

「え、じゃあ卒論は? そんなことしている場合じゃないんじゃ」


一橋の商学部っていったら、めちゃめちゃ卒論が厳しくて、いつだったかゼミ生がボイコットした事件があったんじゃ……(*6)


「やだなぁ、あれはゼミの冗談が拡散したんだよ。その後先生が釈明してらっしゃったの、知らない?」


え、そうだったのか。


「もう第1稿は提出して高評価を頂いているし、大体提出期限は1月末だよ? 今頃焦ってたらヤバいよ?」


ハードカバー製本(*7)までして出さないといけないんだし。なんて言ってる。


製本って、それ印刷屋に1部だけ頼むのかよと思ったが、生協に頼んだらお急ぎ2日でやってくれるそうだ。

大学の卒論をターゲットにしたサービスも結構あって、持ち込めば3時間で製本してくれるちょっとお高いサービスもあるのだとか。そんなギリギリまで書くなよ。


「ま、そういうわけで、少しくらいなら時間もあるから」


まかせてと、佐野さんが笑っている。うーん。まあ、どうせ俺にはどうにもできないし、そこまでいうならお任せしてみるかな。


「それで、会社にして、こないだのもあわせてその会社の収入にしたとしても、表面税率は38%弱だから、そのくらいは残しておいてくださいね」


38%?!ぐぬぬ。まあ55%よりはましだけどさ。


「業態とか資本金とか、あと役員のこととか、あとで資料を揃えておくから一度それで打ち合わせしましょう」


会社の名前はIRISをひっくり返そうと思ったんだけど、どこかの秘書アプリ(*8)になっちゃうので、やめておいた。


帰り際に貰った件の紙袋に、今度は8000万円が入っていた。ああ、堕落しそう。


*1 ピエモンテのネッビオーロ、トスカーナのサンジョベーゼ、アブルッツォのモンテプルチアーノ

ピエモンテ、トスカーナ、アブルッツォはイタリアの州の名前。

ネッビオーロ、サンジョベーゼ、モンテプルチアーノは、それぞれの州で代表的なDOCG(統制保証付原産地呼称。制定されたのは1984でわりと最近)が使用する、主に赤ワインを作る葡萄の名前です。

モンテプルチアーノは、ほぼサンジョベーゼですので、国際品種メルローとかカベルネ・ソーヴィニヨンとかを除くと、イタリアの真ん中より北の赤ワインは、ネッビオーロかサンジョベーゼからできていると思えば大体あってる(暴言)

実際イタリアには、滅茶苦茶な数の土着品種があって、近年ではそういう葡萄が中心のワインも作られています。


*2 アルト・アディジェ

生産者協同組合の活動がワインに質的向上に貢献した地域。後に出てくるトラミンも生産者協同組合です。

ドイツ語が日常的に使われていて、イタリアの中のドイツなんて言われていますが、実際はオーストリアとスイスに接しているだけで、ドイツとは繋がっていません。

オーストリアがドイツみたいなもの?うんまあ、プロイセン王国とオーストリア帝国でドイツ連邦が作られ、チロル地方もオーストリア帝国に含まれていたのでそうですね。

閑話休題。

この地方で造られる白ワインは、余り知られていないこともあって(最近はそうでもない)その品質に比べて価格が安く、お買い得です。

そして、diablo IIIのファンの方にはおなじみのあの爪の傷で表現したIIIの文字が、そのままラベルになっています(5本ですけど)。ぐぐれ。

トラミンのゲヴュルツトラミネールは際だったフルーツ感と、酸のバランスが作り出すフレッシュさが素敵でオススメです。


*3 ティニャネロ、ソライア

どちらもアンティノリが誇るスーパータスカン(トスカーナ地方で作られるDOC外だが高品質なワインのこと)。アンティノリは、イタリアで最大級のメーカーです。

ティニャネロは、サンジョベーゼを主体としてカベルネ・ソーヴィニヨンをくわえ、カベルネ・フランで調整したもので、ソライアは、カベルネ・ソーヴィニヨンを主体にして、サンジョベーゼをくわえ、カベルネ・フランで調整したものです。

ソライアは確かに素晴らしいのですが、価格に見合うかと言われると……あー、でも、ボルドーやナパのカベルネもベラボーな値段になってるからこれでいいのかも。ビンボー人はつらいっす orz。


*4 フランツ・ハースのマンナ

Franz Haas. フランツ・ハースは上記のように生産者協同組合がとても多いアルト・アディジェにおいて、フランスで言うシャトーのような形態(よーするに主に自分家(じぶんち)だけで葡萄作ってワイン作って売ってる)でワインを作るカンティーナ。

代々ハース家の長男がフランツの名前を継いで当主におさまるという、まるでミツカンのようですね(ミツカンの社長はいつも「中埜又左衛門」社長就任と共に改名するそうです。襲名は日本の根付いていて、比較的簡単に裁判所でも改名が認められるそうです)

マンナ(MANNA)は奥さんの名前。代々奥さんも名前を継承……するわけないので、現当主の奥様でしょう。この人は、ついに娘の名前をつけた、ソフィ(SOFI)ってワインもリリースしました。どんだけw

で、マンナですが、リースリング+シャルドネ+ゲヴュルツ+ソーヴィニヨン(ケルナーも加わったんだっけ?)というなんとも節操のないブレンドです。

香りは1/5くらいしかブレンドされていないはずのゲヴュルツのライチっぽい香りが支配的ですが、すぐに柑橘や桃やりんごのリースリング由来のものがそれに加わってきます。もちろんそれらを花の香りが品良く下支えしていて、とにかく複雑で良い香りのワインです。

味は香りから想像するほどではありませんが、まあまあ価格なりです。


*5 H&C

ハートアンドキューピット。特殊な照明下で、ダイヤを下(パビリオン側)から見ると8個のハートが、上(クラウン側)から見ると8本の矢が見える現象。

単に左右の対称性が良いという、それだけのことなんだけれど、付加価値をつけて値段を上げるのはどの業界でもありがちなことです。

なんでハート&アローじゃないのかというと、いわゆる商標問題です。ロハスといい、バカだなーと思うわけですよ。


*6 ゼミボイコット事件

たしか2015のお話。


*7 ハードカバー製本

卒論はハードカバー製本して提出しなければ受け付けてくれない大学は結構あります。

生協に頼むと通常で7日くらい、急ぎで2日くらいでやってくれますが、超ギリギリでも15:00までに持ち込めばその日のうちにやってくれるお店(ただし超特急だとハードカバーに文字が入らない。私は利用してませんからね)なんかもあって、凄いなとおもうわけです。

ちなみに料金は 2,500円くらい~12,000円くらい。文字入れのオプションや時間やお店によって価格が異なります。


*8 どこかの秘書アプリ

Speech Interpretation and Recognition Interface.


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