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Strain   作者: Ak!La
32/56

第32話 死神の気配

「…………結局、ヴィトまで出ましたか」

 レオルーカはサルヴァトーレに言った。サルヴァトーレは机の上で両肘をつき、手を組んでそこに額を乗せていた。

「………若?」

「…………こんな所で………終わらせるものか」

 呟いたその声は震えていた。それが恐怖によるものなのか、あるいは怒りによるものなのか、それともその両方であるのか…………。

傍らに立つレオルーカには測りかねた。

「………若様、何も心配いりませんよ」

「…………分かっている……」

 若き頭領はゆっくりと顔を上げた。その目を見て、レオルーカは先程の震えが怒りによるものだと確信した。

「たかが四人…………随分とナメてくれたな」

「…………」

「絶対に、タダでは済まさない。捕らえて、我らの方法で最も無残に殺してくれる……!」

「…えぇ、必ず」

答えたレオルーカ。その時。

「…………誰を殺すって?」

「!」

 首筋に冷たい感触があった。それが首を横切る前に、レオルーカは振り向き、白い何かを腕で振り払った。

 ドンガラガッシャン!と派手な音を立て、壁際の戸棚が崩れた。そこでは白いフードの男が、倒れて笑っていた。

「…………あっはははは………思ったより反応早いな…」

「……お前は」

 ゲホッ、と咳き込むのはグラナート。外傷はどこにも見当たらない。被害は棚の上にあったものと、戸のガラスだけのようだ。

「…………一人か」

 サルヴァトーレが言った。その前に、レオルーカは庇うように立ちはだかる。ゆっくりと立ち上がったグラナートは、答える。

「………うん……まぁ、お楽しみを独り占めするみたいで悪いけど………って、あぁ、そうだった、ローエンはそういう人間じゃないんだ………」

「……何を言ってる」

「殺しの仕事は久し振りだから、うずうずして仕方ないんだ」

 グラナートの顔には、愉快そうな笑みが張り付いている。それはレオルーカ達にはとても気味悪く見えた。死神が、そこに立っている。そう思い、そしてレオルーカはハッとする。

「…………白の死神………?」

「そう」

「くたばったんじゃねェのか」

「………皆んなそう言うけど、僕は自分が死んだなんて言った覚えはないよ。…………それがもし事実で、言えたらそれは人じゃないけど」

 と、冗談交じりに肩を竦め、あぁ、と付け加える。

「………でもそうだな、今ここにいるのは僕であって僕じゃない…………なら死んだも同然かもしれない」

「………?」

「でも君達には関係のない事だ。…………いいよ、君達が僕の事を“死神”と呼ぶのなら、僕はそれとして振る舞おう」

 フードの下で、紫の瞳が笑う。その目をレオルーカは睨みつけていたが、背後でしたガタ、という音に振り向いた。グラナートの注意もそちらに向いた。

「………若」

 立ち上がったサルヴァトーレ。その目は冷静に、冷たくグラナートを見た。

「……お前達は、何故僕達を消しに来た?」

「………何故って…………何故だろう、僕はあまり殺す事に意味は考えない。頼まれたからやる。楽しいからやる。…僕から言えるのはそれだけかな」

「依頼人がいるという事だな?」

「僕らの界隈では、ターゲットに依頼人の事は話さないのが鉄則だ。それが例えどんな依頼人でも、どんな相手でもね」

 相手が二人だというのに、グラナートは酷く落ち着いた、余裕のある様子でいた。その目が真っ直ぐにサルヴァトーレの目を射止めた時、サルヴァトーレはヒヤリと、背筋が凍る様な感じがした。体が固まる。しかしそれも一瞬で、レオルーカが気付くこともなく、グラナートはただ笑みを浮かべていた。

「さて、あまり無駄話してないで、さっさと片付けよっか」

「!……させるものか!」

「………そういや、君がレオルーカか。……なるほど、油断しない方が良さそうだ」

 叫んだレオルーカに、グラナートはそう言った。

「……………まぁ、でも、避けれなくはない、か」

 と、そう言った直後、レオルーカが銃を抜き、撃った。しかしそれは、キン、という音を立てて天井を穿った。

「………⁈」

「銃くらいじゃあ僕は殺せないよー、ていうか多分君らじゃ無理だ。じゃなきゃ彼は僕をここへは送らない」

 と、弾丸を防いだ刃を手に、グラナートは笑う。と、ゆらりと揺れて彼はレオルーカへと襲い掛かる。振り上げた腕、しかしそれを振り下ろす前に、レオルーカがその腕を止めた。掴んで捕らえ、グラナートの腹に蹴りを入れようとするが、その前にもう片方の刃が首へと襲い掛かったのに気付き、離れた。鼻先を掠め、血が滲む。しかしそれくらいはものともしない。再び、銃を抜いたレオルーカは撃つ。姿勢を低くして躱したグラナートは、その体勢から床を蹴り、懐へ飛び込んで斬りかかる。と、グラナートの振った二連撃を避け切り、その僅かな隙にレオルーカは彼の右足へと銃を押し付け、引き金を引いた。弾丸がブシュ、とグラナートの太腿を貫き、彼の表情は思わず苦痛に歪む。

「っ!」

 さらに広がる隙。倒れる事を見越してレオルーカは構える。だが、足を撃ち抜かれてなお、グラナートは倒れない。

「………これぐらいの痛み、どうって事無いんだよ!」

 僅かに驚くレオルーカに、グラナートはそう叫んだ。刃が閃いて、レオルーカの脇腹を薙ぐ。しかし斬れる事は無く、ただレオルーカは吹っ飛ばされた。

「うぐあっ!」

「レオ!」

 叫んだサルヴァトーレ。その眼前に、グラナートが迫り、首筋へ刃を当てる。

「…………安心しなよ、峰打ちだから。…まぁ、肋は何本か折れただろうけどね。僕は効率的な殺しは好まない。楽しみを一番に優先する。だから……簡単には死なせないよ」

「………!」

 それには自分も含まれているのだろうと、そう理解して戦慄した。このままではなぶり殺される。死神の目に射竦められ、サルヴァトーレはそう感じた。

「……させるか…………よぉ……若は……殺らせねェ…!」

 レオルーカが立ち上がった。グラナートの言った通り肋がやられているらしく、息をするのも苦しそうだ。

「…………ゴメンね、君達の死は確定してるんだ」

 死神はそう言って笑うと、再びその刃を振るうのだった。




一方。屋敷入り口付近。

 そこでは、ミケーレとラファエルが戦闘を繰り広げている。辺りには既に屍となった構成員達が倒れていた。その中をラファエルは無表情で、ワイヤーを駆使し飛び回る。

「ちィっ‼︎」

 ミケーレが舌打ちして、ラファエルへと銃を撃つ。だが、空中にいたラファエルはひょい、と軽く避け、袖口に隠していたらしいナイフを両手に3本ずつ取り、それをミケーレへと放った。

「当たルかよッ‼︎」

 と、余裕でその攻撃を避けたかと思われた。だが、ラファエルはそう甘くはない。

 不意に一本がクン、と方向を変え、ミケーレの肩を裂いた。

「…………っ⁈」

 驚くミケーレ。よく見ると、そのナイフの柄の方にキラッと反射するものがついていた。

「………あっチにもワイヤーかヨ………どっカら来るか分かリゃしねェ」

「見えていては意味がありませんからね」

 ストン、とラファエルが降りて来て言った。

「小賢シいね、そウ言う戦い方ハ好きじャない」

「それは良かったです」

「…………お前、つまンねェ奴ダな」

「よく言われます」

 フワッ、とラファエルが腕を広げた。反射的に、ミケーレは動こうとした。だが、いつの間にか足にワイヤーが掛かっていた為、引っ張られて後ろへ転倒した。

 と、すぐそこへナイフを手にしたラファエルが迫る。対してミケーレは銃口を彼へと向け、引き金を引く。銃弾はラファエルの頰をかすめ、その手はナイフで床に打ち付けられた。

「ぐアっ!」

 床を滑って離れる銃。上に乗ったラファエルが、ミケーレの首筋にナイフを当てる。

「…………何か言いたい事は?」

「……ハッ、ハハハハハッ、怖イね、お前本当ニ人間かヨ」

 ラファエルの冷たい目に、ミケーレは冷や汗をかいて言った。ラファエルはまったく表情を変えない。

「………オ前は天使といウより悪魔ダな」

「そうですね、その自覚はあります」

「…………くそッ、こコまでカ……」

 ミケーレは覚悟を決めた顔で、言った。

「やレよ」

「…すぐに他の皆さんも行きますよ」

「……俺が死ンだくらイじゃ、ボスは倒れねェ」

「どうでしょうね」

「レオの旦那がお前ラなんカ捻りつ」

 途中で言葉は途切れた。首筋を斬られ、彼は一瞬驚いた表情をして、事切れた。ラファエルは無表情のまま彼の上から退いた。そして、転がっていた銃を拾い上げ、弾が入っているのを確認すると、ロックを掛けてコートの内ポケットにしまった。

「…………さて」

 斃れたミケーレには一目もくれず、青年は階段を登る。顔についた返り血を拭おうともせず、そのままルチアーノのもとへ向かった。




 少し時間は戻り。二階廊下。どか、とルチアーノの蹴りがヘテロを吹っ飛ばす。腹を蹴られたヘテロは壁にぶつかり、咳き込む。そこへさらに追撃を仕掛けるルチアーノ。その拳がヘテロの顔を打つ前に彼は避け、懐に潜り込んで銃を撃った。だがルチアーノはその動きを先に読んでいたのか、容易く避け、左膝でヘテロのこめかみを打った。

「…………っ!」

「……威勢が良いのは口だけかよ、俺まだ無傷だぞー」

 頭を抑えて立ち上がるヘテロは、悔しそうな顔でルチアーノを睨みつけた。

「…………お前…何者なんだ」

「………ただの殺し屋さんですよ。なァんだ、意外と知られてないんだ、俺。そういや名乗ってないな」

「悪魔のローエン…奴はほとんど単独で行動している。なのに何故、今回お前らと共に来た?どういう関係だ」

「どういう、って言われても。まだ出会って数日ってトコだ」

「…………?」

「そんな事知ってどうする。どうせ知っても後には死ぬ」

「……死ぬつもりは毛頭ない」

「あっそ。この状況でよくそんな事言えるな」

「黙れ」

 ヘテロが撃つ。が、ルチアーノには当たらなかった。銃は使わず、素手で襲い掛かる。繰り出された拳を、ヘテロは手で防ぎ、流して肘を入れる。

 下がって避けた瞬間、僅かに出来た隙。ヘテロが撃った弾が、ルチアーノの左下腹部を穿った。

「っ!」

 弾は貫通せずに体の中に残り、ルチアーノは痛みに顔をしかめた。が、またヘテロが銃を構えているのに気付き、すぐにその場から動いた。さっきまでいた場所を、弾丸が通過した。

「…………まだ動けるのか」

「ったりめェよ…」

 しかし、笑う頰には冷や汗が浮かぶ。それを拭い、ルチアーノは銃を抜いた。

「………お楽しみの暇は無さそうだなァ…」

「……初めから楽しんでなどいない」

「そうかィ、そりゃ人生損してるねェ、何事も楽しまなきゃいけないンだぜ」

「…………私とて痛いのだ」

「悪いね、片目見えないンで銃は下手クソなんだ」

 ルチアーノが撃ったと同時に、ヘテロが動いた。ヘテロが撃ち、さらにルチアーノが動くと同時に撃つ。

「うっ!」

 右足を撃ち抜かれ、ヘテロが動きを止める。その隙に、容赦なくルチアーノは銃弾を撃ち込む。三発がそれぞれ、右手首、肩、腹を貫き、彼は倒れた。

「…………くっ…」

「はァい、おしまい。残念でした」

 と、ルチアーノはうつ伏せのヘテロの肩を踏みつけた。傷が痛み、ヘテロは思わず声を上げた。ルチアーノがしゃがみ、ヘテロの顔を自分の方へ向かせて、笑う。

「……いい顔すンね。どんな気持ちだ?お前の命はあと僅かだ。放っておいても出欠多量で死ぬ。でもそれじゃあ辛いもンな。安心しろ、楽に逝かせてやる」

 と、左手で構えられた銃。その手の甲の刺青を見て、ヘテロはハッとした。

「…………“蛇”……」

「お?…………ハハッ、懐かしい名前だ」

「……隻眼の………赤いシャツの男………お前は」

「…………なァんだ、やっぱり知ってンの。良かったな、最期に思い出せて」

「…………何故………“蛇”が」

「…俺は今はソレじゃない。……あの人以外の下につくなんざゴメンだと思ってたが、案外悪くないモンだ」

 ニィ、とルチアーノは笑う。

「ちゃんと世界に足が着いた感じがするんだよ。俺達は依頼人無しには生きられない。お前らを消すように頼まれたのも、彼の言うところの“正義”の為だ」

「………正義…………?」

「…………いいや。ただの偽善さ」

 首を横に振り、す、と立ち上がってルチアーノはヘテロを見下ろす。

「まァ気の毒だとしか言いようがない。俺達は偶々拾われただけ。……じゃなきゃァ今頃俺達もお前らと同じ運命を辿ってただろうよ」

「な………」

「そンじゃまァ、さよーなら」

「まっ……」

 ドン、という音が廊下に響いた。ヘテロの頭を銃で撃ち抜いたルチアーノは、彼の上から退いて、一つため息を吐く。

「…………運が良かった…………だけか」

 先の自分の言葉に、フッと笑う。丁度その時、廊下の入り口方向から気配がした。そしてルチアーノは角から現れた人影に答えた。

「ようラファエル、こっちも丁度終わったところだ」

「………ルチアーノさんは緊張感無さ過ぎじゃないですか」

 いつも通りのむっつりした顔で、ラファエルは答えた。

「僕じゃなくてミケーレだったらどうするんですか」

「おー…?何年の付き合いだと思ってンだ、お前の気配を間違える訳無いだろ」

「何ですかその自信は。気持ち悪い」

「…………今ので結構傷付いたよ、俺は」

「そんなヤワなメンタルじゃ無いでしょう」

「……そうかもね」

 と、ルチアーノは肩を竦める。

「さてさて、俺達はここで休んどくか」

「………ローエンさんの所へ行かないんですか?」

「別にいいだろ。……あァ、まー…戦ってンのを客観的に見たいのはあるけど」

 ふう、とため息をつきながらルチアーノは壁にもたれて、そのままズルズルとしゃがみ込んだ。

「………歳かねェ……一戦やると結構疲れる」

「…………」

「お前は元気そうだな」

「えぇ、まぁ。まだ動けます」

「………体は大事にしろよ、全く。あーあ、綺麗なお顔に傷ついちゃってるじゃねェか」

「…………これくらい大した事ありません」

「そうかい?俺は悲しいよ、可愛い息子の顔に傷痕が残ったら」

「ルチアーノさんは僕の父親ではありません」

「……冷たいなー……俺は本当にお前の事は息子の様に思って育てて来たのに」

「…………その事については感謝してますよ」

「………俺としては申し訳ない気分が半分だ。だって俺はお前の両親を」

「別に、何とも思ってませんよ」

「!」

「ルチアーノさんを恨んだ事は、一度もないですから」

「…………そうかィ、ありがとよ」

 ルチアーノは笑い、そして遠い目をして呟く。

「………あの時、お前も殺してたら………今頃俺はコイツらと同じ様な運命を辿ってたかもしれねェな」

「…………」

「……運が良かったんだ、俺も、お前も」

「…………そうですね」

 死んだヘテロを見下ろして、ラファエルはそう答えた。そして彼はルチアーノの方へ向くと、その向かい側で同じ様にしゃがみ込むのだった。


#32 END

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