第30話 天の業
「ンじゃまず、どういう戦い方が得意かとか、そういう事から」
ルチアーノがそう切り出した。 彼の隣にラファエル、その前の椅子にローエンとグラナートが後ろを向いて座っている。
「俺は………まァ、狙撃とあと格闘。近接遠距離何でもありだ」
「…………万能型か」
「ま、そゆことかな。ローエンは?」
「俺は………基本的には素手だけど、その辺にあるモン何かしら使ったりは…………」
「おーいいね!」
「でも銃は駄目。基本殴るか蹴るか、ナイフは使うとしてもトドメにしか使わない」
「そうか。…………グランはその………剣?」
ルチアーノが首を傾げながら訊いた。
「剣じゃないですけど…………」
「んじゃァなんだ、まー……剣もどきだな?」
「…………に合わせてこれ」
「?」
と、グラナートが手袋をした手を伸ばすので、なんとなくルチアーノも手を出した。と、上にした掌を親指でグッと押され、刺激を感じて思わず彼は手を引っ込めた。
「うわァ!何だ!」
「二層構造になってて、間に細い導線が挟み込んである。内側は絶縁体で。親指に結構強い圧力がかかるとスイッチが入る。普通に握るくらいじゃ駄目」
「………じゃあずっと流してるのは難しいか…」
ローエンが言うと、グラナートは首を傾げる。
「………そんなに長い間使う必要もないだろ?……それに、ずっと流しっぱなしだと電池が無くなる」
「それ電池式なのかよ……」
ローエンが「えー」という目で見ている先で、グラナートは手袋を外した。
「………あー、それ、オルラントさんの悪戯グッズか」
「⁈」
ルチアーノの言葉に、ローエンもグラナートも驚いた顔でルチアーノを見た。
「………はい?え?」
「あの人なー、タチ悪いだろ。ただでさえそうなのに、そういうモンまで面白がって作るンだ。他にも色々あるぜ」
「…………知りたくねェ…」
「……悪戯…………」
「…って事はグラン、それアクバールの奴から貰ったのか」
「…………うん、まぁ、そうだよ」
何故かげんなりした様子で、グラナートはそう答えた。
「………どうした?」
「………思い出したら腹が立つ…」
「え?」
「何でもないよ…」
と、グラナートは首を横に振った。
「……それで?ラファエルは?」
ローエンがそう話を振ると、彼は目を逸らして答えた。
「…………ナイフとワイヤー、二つです」
「へぇ」
「ナイフの技術じゃルチアーノさんには敵いませんが、ワイヤーなら」
「俺にゃあアレは難しい」
ルチアーノが苦笑して言う。
「………一対一の正面戦闘はあまり向いてません、雑魚処理は任せて貰えれば」
「多対一はじゃあラファエルで。………他三人俺らが幹部達を狙って行けばいいか?」
ローエンが言うと、グラナートが頷く。
「うん。誰がどいつを担当するかも決めとく?」
「いんやー、まァ臨機応変でいーだろ、逃げられなきゃあ何でもいい」
そう言うルチアーノに、グラナートはふと気になった事を訊く。
「そういえば、ルチアーノさんは彼らについて詳しいみたいですけど」
「ンー、ま、まァ、そうだな」
ギク、とした様子で、彼は答える。
「幹部の事は?」
「…………ヴィト・ジャルコフ、レオルーカ・リヴィンスキー、ミケーレ・ユーコフ、ヘテロ・ラドゥロフ。参謀のヴィトは頭はいいが戦闘力はそこまでない。………ナイフ使いだとは聞いてる」
「刃物を使うのは彼だけですか?」
「後は銃使う奴ばかり、レオルーカは肉弾戦も強い。一番警戒すべきはコイツなンじゃねェかなァ」
「…………サルヴァトーレは?」
「あァ、奴は若いながら組織を纏めるだけの実力がある、ナメて掛かるにゃ少々危険だ」
「………じゃあこうしよう。ラファエルはまずは下っ端を片付ける。ローエンはヴィト」
「え、俺?」
「別にナイフは怖くないだろ、片付いたら僕らに合流だ」
「…………お前らはどうすんの」
「他を見つけ次第戦闘に入る」
「わーかった、じゃあ俺らはヴィト以外の幹部やらを狙えばいい訳だな」
「そう言う事」
グラナートはルチアーノに頷く。分担はこれで決まった。そこで、ローエンがルチアーノに訊く。
「………場所は」
「街の北側によ、小洒落た屋敷があンの知ってるか?」
「……………その辺はあんま行かねェ」
「そうか。まぁいいや。そこだ」
「……街中か…………大丈夫かな?」
グラナートが言う。ローエンは首を傾げて答える。
「…………多分」
「ン?何だ、何か心配な事でも?」
「………いや、まぁ、いいんだ。大丈夫」
「何だよ」
「何でもない」
少々不安ではあるが、あまり勘繰られるのも良くない。そう考え、ローエンは適当に流した。そして次の話題へと進める。
「屋敷への侵入経路は?」
「正面突破でいいだろ。どの道全員相手すンだ、集団戦の得意なラファエルがいるから大丈夫だ」
「……大雑把ですね…」
「ちゃんとコッソリやらにゃあならん時は考えるぞ」
グラナートの指摘に、ルチアーノはそう答えた。
「ま、だからもう明日決行するか。それでいいな?」
「早い方が気が楽だ………」
「そうかィ」
ローエンの言葉に、ルチアーノは苦笑したのだった。
アザリアの街の北部。スラムから最も離れた場所。
そこにはある一件の大きく立派な屋敷がある。貴族でも住んでいるのか、と思わせる外観だが、実際は裏社会の支配者、マフィアグループの巣である。
四方は高い壁で囲まれ、その周囲には組員が巡回している。辺りに他に人気はない。ここが何か知っている者は誰も近寄ろうとはしないのだ。
しかし、ある昼間、その屋敷は騒がしかった。いつも周りを見張っている組員は頭や胸から血を流して斃れている。息をしている者も中にはいたが、それも弱々しい。
いつも閉じられた門は開け放たれていた。
その日、アルダーノフ・ファミリーはたったの四人から襲撃を受けていたのだった。
「…………あいつのお陰であっという間に片付くな」
ローエンは走りながら後ろを振り向いて言った。後方ではラファエルが、見えないワイヤーを操り敵を切り裂き、叩きつけ、一網打尽にしている。時折太陽の光を反射してワイヤーが光って見えるが、どうなっているかはさっぱり分からない。
「あんま近付いたら巻き込まれっかンな」
「へーい」
ルチアーノの言葉にローエンは答える。ラファエルは敵を倒しながらもちゃんとローエン達について来ていた。
「僕らも働くよ」
フードを被ったグラナートが、二刀を振るい負けじと敵をなぎ倒していく。容赦無い攻撃が敵の体を両断する。血飛沫が近くにいたローエンにも飛んで来る。
「…………俺あんまする事ねェな」
「………グランの兄ちゃんは、大人しそうな顔してやる事えげつねェな………あいつみたい」
ルチアーノがボソリとそんな事を言った。放った銃弾が敵を捉え、倒す。
「…あいつ?」
「…………ンー、いや、こっちの話だ」
屋敷の入り口に辿り着いた。立ち止まった彼らを、多くの視線が捉える。まだまだ敵はいるようだ。
「………アクバールの奴、50人程って言ってなかったか?」
「………ンー、もう30は倒したと思うンだけどなァ」
「情報が古かったとか」
「いンや、適当な情報流してたってセンもありだな」
グラナートの思い付きにルチアーノはそう言う。後ろからラファエルが追いついた。
「僕が先に行きましょうか?」
「…………まァその辺の片付けとけ。俺達は先に行く」
「分かりました」
「ちョーっと待テよ」
「!」
変な訛りのある声が、上から下。入り口から真っ直ぐ行った先にある階段の上、金髪の男が立っている。
「………誰だあれ」
ローエンが言うと、ルチアーノが答える。
「…………ミケーレ・ユーコフ」
「そノ通り」
階段の上で、ミケーレは腰に手を当てて答えた。
「何シに来たカは知らナイけど、好き勝手サれちゃ困るんだよネ」
「……どうする?」
グラナートが彼を指差して他の三人に言った。
「…………無視?」
「幹部一人と下っ端が大勢、ここは俺とラファエルで」
「いえ、僕一人で十分です」
ルチアーノの言葉を遮り、ラファエルが言った。
「僕の近くにいると邪魔になるので、皆さんは先に行って下さい」
「…………邪魔って言うなよ」
ローエンのその文句は無視される。
「大丈夫か?ラファエル」
「僕を信用して下さい、ルチアーノさん。絶対負けません」
ラファエルはいつもの無愛想な目でルチアーノを見た。ルチアーノは少し眉をひそめ、そして頷いた。
「……分かった、任せる。行くぞ、グランにローエン」
「そウ簡単に行カせるかヨ!」
と、ローエン達の方を指差したミケーレ。と、その腕が突然体に引っ付いて、何かに引っ張られて階段から転げ落ちた。
「オっ⁈ととトととと⁈」
「⁈」
「………どうぞ行って下さい」
と、ラファエルがワイヤーを手繰る仕草を見せて言った。どうやらラファエルがミケーレにワイヤーを巻き付けて引っ張ったらしい。
「うっ……痛テて……」
「貴様!」
と、周りの下っ端達が一斉に銃を構える。それを見て、ルチアーノがローエンとグラナートに促す。
「行くぞ!」
「はい」
「気を付けろよラファエル」
「余計なお世話です」
ローエンの言葉にムスッとした声を返したラファエルは、皆が階段を登って行くのを見送り、手を広げ、そして体を大きく捻った。
「!」
「ぐわあぁっ!」
「いっ‼︎」
「な、何だ、何が起きてる⁈」
前列にいた者は皆体を切り裂かれ、倒れる。死んではいないが、すぐに動けそうな傷では無かった。
ひゅ、と再び大きく、腕を反対側へ体ごと捻った。ワイヤーがさらに後ろにいた下っ端達にまで届いた。
バタバタと倒れていく部下達を見て、いつの間にか解放されていたミケーレは怒りの声をあげる。
「クソ!ふざけヤがっテ!」
「…………僕は至って真面目ですが」
ラファエルは自然体になり、無表情でミケーレを見た。赤紫の瞳が彼を捉え、思わずその体を震えさせた。
「………⁈」
「………別に恨みはありませんが、一人残らずここで死んで貰います。……嫌なら僕を殺せばいい。簡単な話でしょう」
「………なニ………?」
ミケーレが眉をひそめる。そこで部下達が攻撃しようとするのを、彼は制止した。
「……俺達ヲ殺しに来タってんでいイよな?」
「そうなりますね」
「チッ、誰の差し金ダ?」
「答える義理は無いと思いますが」
「………仕方ねェ、お前をぶチのめしテ聞き出してやル」
「…………出来るものならどうぞ」
ラファエルは不敵に笑う訳でもなく、強気な顔をする訳でもなく、ただやはり淡々とした無表情で言った。
ミケーレは銃を出し、そして言う。
「お前、名前ハ?」
「言う必要がありますか?」
「お前だケ俺の名前知っテるのは不公平だロ」
「………ラファエル」
「…………ふーン、じゃあ、俺モお前も天使の名前なんダな」
「ミカエルですか?」
「ソ。そうとも読めるダろ?………何カ親近感覚えルけど、敵だもンな、消スよ」
「こちらこそ馴れ合うつもりはありませんが」
ミケーレが銃口をラファエルに向ける。
「……お喋リは終ワり、アルダーノフ・ファミリーに手を出しタ者がどうナるか、知ってルか?」
「…………………いいえ。僕には関係ないので」
「………言ってくれルね」
苛ついた様な笑みを、ミケーレは浮かべる。
「ボスの邪魔ヲしねェでくれヨ」
「知った事ではありません。頼まれたから僕はそれを遂行するだけです」
「……ケッ、お前、殺シ屋か………?」
「いいえ。そんなものではありません」
「じゃア何なんダよ」
「そこまで答える必要は無いでしょう?」
「フン、まぁ、いいヤ。とりあえず殺せばいイんだもんナ」
「………そうですね、貴方が死ねば終わる話です」
「お前、ムカつク」
そう言われてラファエルは、やはり淡々と無表情のまま答えるのだった。
「よく、言われます」
その直後、ミケーレがその引き金を引いた。
#30 END




