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人を殺してゴールド稼ぎ  作者: 東 矢印
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 「ふう、今日もいい気分を味わえた」


 人影がない路地裏で、一体の死体を前にして俺は呟いた。

 その死体はまだ体温が残っているようにぬくもりを感じさせた。

 しかし、数秒後、その死体は元からなかったかのように姿を消した。


 「今回のは千円か」


 俺はそんなことを呟き、千円札を拾いポケットに入れた。

 その時、背後で誰かの気配を感じ取った。

 振り向くと、そこには誰の姿もなかったけれど、確かに今、誰かが後ろにいた。


 「誰かに見られたか…………」


 失敗したなと、俺は溜息を漏らす。

 勿論、見られたところでなんの問題もないのだけれど。

 人を殺して、死体が消えるだなんて、誰も信じないことだ。

 警察に通報されったてなんの問題もない、証拠も死体もないのだから。

 俺は包丁をバックにしまい、近場に止めてあった自転車にまたがる。

 やっぱり人を殺した後の足取りは軽い。

 そんなことを思いながら、家に向かってペダルを漕いだ。


 家には妹も両親もいないらしく、異常なほど静かだった。

 リビングに入り、テレビの電源をつけると、ちょうどニュースが放送されていた。

 そのニュースは俺が住んでいる地域のことを報道していた。


 「合計で五人もの人間が行方不明になっており、警察は殺人の可能性も考えて調査している模様です」


 「はっ、はははは、せいぜい頑張って調査してくれ」


 笑いが止まらなかった。

 ぜったいに解決できない事件を調査している警察が滑稽だったこともあるが、自分がやったことの優越感が凄まじかった。

 

 「これだから人殺しはやめられない」


 自然とそんな言葉がもれた。

 俺も随分と悪党になったものだと感じた。

 これだけ人を殺せば、誰だって悪魔みたいな人間になってしまうのだろうけれど。

 俺もその例外ではなかっというだけだ。

 当然、殺す人間は選んでいる、善人を殺そうなんて一度も考えたことはない。

 あくまで正義のヒーローを根本にして考えている。

 人を殺して正義のヒーローも何もないのだけれど。


 「他に面白い番組はないのか?」


 他のチャンネルをつけてはみるが、どれも面白い番組はやってなかった。

 まあ、この時間帯の番組なんてそんなものだろう。

 テレビのスイッチを切り、俺は二階の自分の部屋に向かった。


 部屋に入ると、すぐにベッドに倒れた。

 人を殺すのは楽しいが、案外体力を使うものである。

 今すぐ眠りにつけるくらいに疲れている。

 けれど、まだ興奮が冷めないため寝ることは難しいだろう。

 あの人を殺した時の感覚を思い出すと、ワクワクして寝るどころじゃない。


 「明日は誰を殺そうかなー」


 そんなことを言いながら頭の中でターゲットを考える。

 まだまだ世の中にはクズな人間が溢れかえっている。

 俺の人生のすべての時間を使ったとしても、到底すべてのクズな人間を殺すことはできない。

 身近なやつから殺していくしかない。

 俺がそんなことを考えていると、不意に部屋のドアが開いた。


 「お兄ちゃん…………」


 理沙が暗そうな表情で俺の方を見ていた。


 「なんだ理沙か、どうしたんだよ」


 「見ちゃったの…………」


 「は? 何を?」


 何を見たというのだ?


 「お兄ちゃんが人を殺しているところを」


 「なっ!?」


 見られていただと…………。

 さっきのあの気配は理沙だったのか…………。

 これは厄介なことになった。


 「なんであんなことをしたの!?」


 理沙は今にも泣きそうな表情で叫んだ。

 これは下手な言い訳はできないだろう。

 正直に俺の考えを言おう。


 「この世には生きている価値がない人間が大量にいるんだ。そういう人間を殺して何が悪い?」


 俺はそれが当然であるかのように言った。


 「悪いに決まってる! お兄ちゃんがやってることは犯罪なんだよ!」


 「確かに犯罪だろう。でもな、犯罪でもやらなきゃこの世は良くなっていかないんだよ」

 

 「そんなので手にいれたいい世の中なんかに価値はない!」


 「どんなやり方でも、結果が同じなら変わりはないさ」


 表情に邪悪な笑みを浮かべながら俺は言った。

 

 「お前だって言ってただろう? 何か目標を達成するためには自己犠牲が必要だって。だから俺は自分の正義を犠牲にして、この世を平和に近づけたんだ」


 「そんなのは平和じゃない!」


 ついに涙をこらえきれなくなった理沙は、大量の涙を目からこぼした。


 「お兄ちゃんには、ちゃんと刑務所で罪を償ってもらう」


 「それは無理だな、なんせ証拠も死体もないんだから」


 「証拠ならある」


 理沙はそう言いながら、ビデオカメラを俺に向けた。


 「これが証拠」


 撮っていたのか!?

 さすがに人を殺している場面を取られているのはまずい…………。

 いくら死体がないからといって、罪を逃れることはできないだろう。

 仕方がない。


 「お前のことは愛していたんだけどな」


 俺はそう言いながら、バックから包丁を取り出した。


 「えっ…………、何をするつもり…………?」


 「じゃあな」


 勢い良く包丁を理沙の心臓めがけて突き刺した。

 理沙の体から大量の血が飛び出てくる。


 「おにい…………ちゃん…………」


 「愛してたよ理沙」


 俺は最後にそう言って、包丁を抜き差した。

 また理沙の体から大量の血が飛び出てくる。

 その血を自分の体で受け止めながら理沙の死体を見る。

 生気を失った体は床に倒れ、人形のように動かなかった。

 体から力が抜け、ベッドに腰を下ろす。

 もう一度、理沙の死体を眺める。

 綺麗に赤く染まった死体は、何かの芸術作品のように美しかった。

 その死体は見て、勝手に涙が溢れてきた。


 「殺っちまったか…………」


 俺はつぶやくようにそう言った。

 

 

 そして時間が経った。


 

 

 しかし、その死体が消えることはなかった。

 

 

 

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